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完全勝利の余韻に浸っていた時――
なんと、あのティアが。
族長の必死の制止を振り切り、村の外へ飛び出してきてしまったのだ。
「私の村は……私が守るんだ!!」
震える声だった。
覚悟でも、勇気でもなく、ただ“責任感”だけで彼女はここに来た。
――けれど、この状況なら分かっているはずだ。
自分に“できること”なんて、何もないって。
「お、おいティア!?戻れッ!!」
族長が叫ぶが、ティアは聞かない。
その瞳だけは強く、ただ前だけを見ていた。
その瞬間だった。
「クソぉうッ! 道連れだぁああ!!」
瀕死のキラチンが、最後の力を振り絞ってティアへ飛びかかった。
血の滲んだ目で、剣を引きずりながら。
ティアも剣を持っていた。だが――
(……重い……っ!)
その大剣は彼女には明らかに扱えず、ただ地面にめり込んでいるだけ。
当然、振れるわけがない。
キラチンの剣先が、無抵抗のティアに迫る。
――終わる。
そう思った瞬間。
金属が跳ねる鋭い音が響いた。
「っ……!?」
ティアの目の前で、キラチンの剣が弾き飛ばされていた。
立っていたのは、そう。僕、レイン!!
片手の短剣だけで、その一撃を完封していた。
「……まったくーー」
レインは肩をすくめ、ほんの少し呆れた声で言った。
「君、弱いんだから。
こういうとこ出てきても、殺されるだけだよ。
村の中で大人しくしてればよかったのに」
――その言い方は、あまりに容赦がなかった。
ティアの唇が震えた。
「……そんなの……っ」
目が潤む。涙をこらえて、でもこらえきれず。
「分かってるよ……!
私が弱いなんて……私が何もできないなんて……
誰よりも、私自身が……一番分かってるのに……!」
堰を切ったように涙が溢れた。
「なのに……!
何もできない自分が悔しくて……でも村を見てたら……
じっとしてられなくて……っ」
レインは、ぽかんとした顔でティアを見ていた。
(え、……いや、そんな泣かれても……どうすればいいんだよ……)
困惑と戸惑いがそのまま顔に出ている。
決して優しい言葉はかけられない。
でも、確かに彼は――助けた。
キラチンが地面に倒れ伏す音だけが静かに響いた。
そして、ティアは涙の隙間から、ぎゅっと拳を握りしめて言った。
「私……絶対に……強くなるから……!」




