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やっと、故郷の村に到着した。
馬車を降りた瞬間、懐かしい土の匂いが鼻をつく。
舗装なんてされていない道。低い家並み。
何年も離れていたわけじゃないのに、やけに久しぶりに感じた。
セシリアの実家の屋敷と、僕の家は少しだけ離れている。
屋敷は村外れの小高い場所にあって、立派な門まである。
一方、僕の家は――説明するまでもない。
それでも、セシリアは僕の家まで送ってくれた。
「ここまででいいよ」
そう言ったのに、馬車は止まらなかった。
ありがたい。
本当に、ありがたい。
(……いやー、しかし)
家の前に立ったところで、
さっきまでの馬車の中を思い出す。
気まずかったな。
あの沈黙に耐えきれなくて、
僕は必死にセシリアに話しかけた。
「村、変わってないよね」とか
「やっぱ帰ってくると落ち着くよな」とか
思いつく限り、どうでもいいことを。
ついでに、お世辞も言った。
でも、返ってきたのは、
小さな頷きだけ。
視線も、どこか遠かった。
(……完全に空回り)
自分でも分かるくらい、無様だった。
そう考えながら、
僕は自分の家の鍵を開ける。
軋む音と一緒に、扉が開いた。
中には、誰もいない。
静かだ。
学園の寮とは比べものにならないほど。
当たり前だ。
僕の両親は、僕が十歳の頃に亡くなっている。
それからは、
両親が残してくれたわずかな資産と、
乞食しまくって、なんとか生きてきた。
壁に残った傷や、
使い古された家具を見ると、
その時間がそのまま残っている気がする。
(そういえば)
ふと、思い出す。
学園の入学費。
あれは、
セシリアの両親が肩代わりしてくれていた。
今さらだけど、
とんでもない話だ。
そもそも、セシリアと出会ったきっかけだって――
村の食堂に、
明らかに高貴そうな服装の少女が入ってきた。
金がありそうだった。
だから。
(乞食、したんだよな……)
我ながら、ひどい。
それでも、
そこからここまで来た。
ボロ家の中で、一人立ち尽くしながら、
そんなことを考える。
(……さて)
感傷に浸ってる暇は、ない。
この夏休みは、
生きるための時間だ。
僕は、荷物を床に置いた。




