表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
35/48

34

 やっと、故郷の村に到着した。


 馬車を降りた瞬間、懐かしい土の匂いが鼻をつく。

 舗装なんてされていない道。低い家並み。

 何年も離れていたわけじゃないのに、やけに久しぶりに感じた。


 セシリアの実家の屋敷と、僕の家は少しだけ離れている。

 屋敷は村外れの小高い場所にあって、立派な門まである。

 一方、僕の家は――説明するまでもない。


 それでも、セシリアは僕の家まで送ってくれた。


「ここまででいいよ」


 そう言ったのに、馬車は止まらなかった。


 ありがたい。

 本当に、ありがたい。


(……いやー、しかし)


 家の前に立ったところで、

 さっきまでの馬車の中を思い出す。


 気まずかったな。


 あの沈黙に耐えきれなくて、

 僕は必死にセシリアに話しかけた。


「村、変わってないよね」とか

「やっぱ帰ってくると落ち着くよな」とか

 思いつく限り、どうでもいいことを。


 ついでに、お世辞も言った。


 でも、返ってきたのは、

 小さな頷きだけ。


 視線も、どこか遠かった。


(……完全に空回り)


 自分でも分かるくらい、無様だった。


 そう考えながら、

 僕は自分の家の鍵を開ける。


 軋む音と一緒に、扉が開いた。


 中には、誰もいない。


 静かだ。

 学園の寮とは比べものにならないほど。


 当たり前だ。


 僕の両親は、僕が十歳の頃に亡くなっている。


 それからは、

 両親が残してくれたわずかな資産と、

 乞食しまくって、なんとか生きてきた。


 壁に残った傷や、

 使い古された家具を見ると、

 その時間がそのまま残っている気がする。


(そういえば)


 ふと、思い出す。


 学園の入学費。


 あれは、

 セシリアの両親が肩代わりしてくれていた。


 今さらだけど、

 とんでもない話だ。


 そもそも、セシリアと出会ったきっかけだって――


 村の食堂に、

 明らかに高貴そうな服装の少女が入ってきた。


 金がありそうだった。


 だから。


(乞食、したんだよな……)


 我ながら、ひどい。


 それでも、

 そこからここまで来た。


 ボロ家の中で、一人立ち尽くしながら、

 そんなことを考える。


(……さて)


 感傷に浸ってる暇は、ない。


 この夏休みは、

 生きるための時間だ。


 僕は、荷物を床に置いた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ