↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
34/128

33

「……もう私は、いらないの?」


 セシリアの声は、怒っているわけでも、泣いているわけでもなかった。

 ただ、静かすぎて、逆にどう返せばいいのか分からなかった。


「え?」


 情けないほど間の抜けた声が出る。


 いらない?

 何が? 何の話だ?


「……いやーー、いらなくないよーー。」


 とりあえず、そう言った。

 語尾を伸ばして、軽く。深く考えてない感じで。


(タダ飯もらえるし、貴族様のおこぼれもらえそーだし)


 正直なところ、それくらいの感覚だった。


 同じ馬車で帰ってるのも、実家が同じ方向だからだし。

 セシリアが貴族だからって、特別どうこう思ってるわけでもない。


 ……少なくとも、俺はそう思っていた。


 セシリアは、俺の顔をじっと見たまま、しばらく黙っていた。


「そっか」


 それだけ言って、視線を外す。


 窓の外には、変わらない田舎道。

 馬車の揺れだけが、妙に大きく感じられた。


(……なんか、変なこと言ったか?)


 胸の奥が、少しだけざわつく。

 でも、理由までは分からない。


「……あの子たちと、楽しそうだったから」


 ぽつりと、セシリアが言った。


「ああ……」


 ミレイとカイルの顔が浮かぶ。

 冗談を言って、少し笑って。


「別に、普通だろ?」


 そう返したつもりだった。


「そうだよね」


 セシリアは、そう言って、小さく笑った。

 でもその笑顔は、昔よく見たものとは違っていた。


 ぎこちない。

 どこか、距離がある。


(……なんだ、この空気)


 逃げ場のない馬車の中。

 あと数時間、このままかと思うと、正直きつい。


 俺は視線を逸らして、背もたれに体を預けた。


(まぁ、考えても仕方ないか)


 セシリアはセシリア。

 俺は俺だ。


 そうやって割り切ろうとした、その瞬間。


 体の奥で、じわりと魔力が膨らむ感覚がした。


(……あ)


 油断した。


 慌てて呼吸を整え、意識を内側に向ける。

 魔力を押さえ込み、流す。


(うっ、吐きそう)


 歯を食いしばる。

 まだ慣れきってない。少し気を抜くと、すぐこれだ。


 隣を見ると、セシリアは気づいていないようだった。

 ただ、膝の上で手を握りしめ、窓の外を見つめている。


(……これ以上、余計なこと考えてる場合じゃないな)


 俺は目を閉じた。

 今は、生き延びることだけで精一杯だ。


 この夏休みが、何かを変える。

 良くも、悪くも。


 ――そんな予感だけが、胸に残っていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。