↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
33/128

32

 出発してから、四時間ほどが経った。


 昼休憩に入った馬車隊は、街道脇で一度足を止める。


 旅の飯といえば、固くて味気ないパンが定番だ。

 ……のはずだった。


「……豪華だな」


 並べられた食事を見て、思わず本音が漏れる。


 肉。温かいスープ。白いパン。

 どう考えても、学園の食堂よりいい。


(さすが貴族様……)


 しかも、奢り。

 タダ飯。


(うまい。タダ飯は、正義だ)


 内心でそんなことを考えながら食べている一方で、

 ひとつだけ、気になることがあった。


 ――セシリアが、黙っている。


 いつもなら、何かしら文句か雑談を飛ばしてくるはずなのに、

 今日はやけに静かだった。


 気まずい。


 とても、気まずい。


(この空気で、あと四時間……?)


 正直、きついって。


 だが、逆に考える。


(……まぁ、いいか)


 いつもうるさいセシリアが、珍しく無口なんだ。

 だったら、この隙に寝てしまおう。


 馬車に戻り、座席に身を預ける。


 高そうな内装。

 揺れも少ない。


(この馬車、ほんとに乗り心地いいな……)


 そう思った瞬間、意識はすぐに落ちた。


 ――――


 どれくらい寝たのか分からない。


 ふと、目が覚めた。


 馬車はまだ走っている。

 一定のリズムで、地面を踏みしめる音が続いていた。


 眠気の残るまま、何気なく横を見る。


 ……そこに、セシリアがいた。


「えっ、」


 思わず、声が出た。


 いつから隣にいたのか分からない。

 さっきまで、向かい側に座っていたはずなのに。


 セシリアは、こちらを見ない。


 前を向いたまま、静かに口を開いた。


「もう私は、いらないの?」


 一瞬、言葉の意味が理解できなかった。


(……ん?)


 頭の中で、間の抜けた疑問が浮かぶ。


 何の話だ。


 どうして、そんなことを。


 セシリアの横顔は、冗談を言っているようには見えなかった。

 怒っているわけでもない。


 ただ、妙に真剣で、少しだけ――不安そうだった。


 馬車の中に、重たい沈黙が落ちる。


 逃げ場は、ないようだ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。