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104

カン――


カン――


鐘の音が、深淵街ネグラディアに響いていた。


周囲の空気が一変する。


さっきまで盛り上がっていた連中の顔が青ざめていく。


「まさか……」


「白耀聖騎士団か……!?」


「くそっ、もう来やがった……!」


一気に騒がしくなる。


さっきまで僕を崇めていた奴らも、今は完全に怯えていた。


(いや待て待て待て)


僕は焦った。


かなり焦った。


ようやく見つけたのだ。


雑兵扱いされず、飯も出てきて、しかも持ち上げてくれる夢のような場所を。


それが騎士団のせいで消えるかもしれない。


それは困る。


かなり困る。


すると。


「皆、慌てるなァ!!」


老人が杖を突きながら叫んだ。


周囲が静まる。


「ここには深淵の器たる御方がおられる!!」


老人が僕へ向く。


「漆黒のレイン様ならば、あのような騎士団など敵ではない!!」


「「「おおおおおお!!」」」


歓声が上がる。


(え?)


僕は固まった。


いやいやいや。


敵ではないって。


相手はあの騎士団長である。


普通にぶっ殺される。


だが、周囲の期待に満ちた目が全部こちらを向いていた。


(なぜだろう。なんかいける気がしてきたぞ。)


小心者の僕の心をその目は勢いづかせた。


僕は小さく咳払いした。


そして、ゆっくり頷く。


「うむ」


「おおおおお!!」


「御子様ァ!!」


なんかめちゃくちゃ盛り上がった。


その勢いのまま、僕は気づけばネグラディアの入口付近まで連れて行かれていた。


壁の向こう側。


そこには白耀聖騎士団が並んでいる。


白銀の鎧。


鋭い視線。


完全武装。


怖い。


その先頭には、当然のようにアウレリア・フォン・アイゼンリートが立っていた。


そして。


騎士団と一緒に、学園の連中までいる。


ティア。


英雄コースの奴ら。


その他色々。


全員、こっちを見ていた。


僕はゆっくり前へ出る。


背後ではネグラディアの住人たちが跪いていた。


「漆黒のレイン様!!」


「深淵の継承者よ!!」


「神よォ!!」


(気分いいなこれ……)


僕は少し口角を上げた。


そして、腕を組みながら宣言する。


「私は漆黒のレイン!」


僕は堂々と言い放った。


「この地を統べる者だ!!」


「「「おおおおおおおおお!!!」」」


ネグラディア側が大歓声に包まれる。


「神よォ!!」


「お美しい!!」


「流石は御子様ァ!!」


大騒ぎだった。


だが。


騎士団側は違った。


「…………え?」


騎士の一人が固まる。


学園の生徒たちも、完全に困惑していた。


英雄コースの奴なんて口を半開きにしている。


ティアは――なぜか真顔だった。


何も言わない。


ただ、じっと僕を見ている。


そして。


アウレリア。


騎士団長アウレリア・フォン・アイゼンリートの額には、うっすら血管が浮かんでいた。


「……貴様ァ!!」


怒声が飛ぶ。


「ひっ」


僕は思わずビクッとなった。


怖い。


めちゃくちゃ怖い。


だが、後ろには信者がいる。


僕は咳払いした。


「……私は無駄な争いは好まない」


周囲が静まる。


「私たちは二度とその境界線を跨がないと誓おう」


「おお……!」


「なんと慈悲深い……!」


勝手に盛り上がり始める。


僕は近くに落ちていた古びたローブを拾い上げた。


「そして詫びとして、深淵街ネグラディア特産――古びたローブを与えよう」


僕はそれをアウレリアへ向かって差し出した。


数秒、沈黙。


「「「おおおおおおおおお!!!」」」


ネグラディア側が再び熱狂する。


(やっぱ大丈夫かな?)


少し不安になった。

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