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カン――
カン――
鐘の音が、深淵街ネグラディアに響いていた。
周囲の空気が一変する。
さっきまで盛り上がっていた連中の顔が青ざめていく。
「まさか……」
「白耀聖騎士団か……!?」
「くそっ、もう来やがった……!」
一気に騒がしくなる。
さっきまで僕を崇めていた奴らも、今は完全に怯えていた。
(いや待て待て待て)
僕は焦った。
かなり焦った。
ようやく見つけたのだ。
雑兵扱いされず、飯も出てきて、しかも持ち上げてくれる夢のような場所を。
それが騎士団のせいで消えるかもしれない。
それは困る。
かなり困る。
すると。
「皆、慌てるなァ!!」
老人が杖を突きながら叫んだ。
周囲が静まる。
「ここには深淵の器たる御方がおられる!!」
老人が僕へ向く。
「漆黒のレイン様ならば、あのような騎士団など敵ではない!!」
「「「おおおおおお!!」」」
歓声が上がる。
(え?)
僕は固まった。
いやいやいや。
敵ではないって。
相手はあの騎士団長である。
普通にぶっ殺される。
だが、周囲の期待に満ちた目が全部こちらを向いていた。
(なぜだろう。なんかいける気がしてきたぞ。)
小心者の僕の心をその目は勢いづかせた。
僕は小さく咳払いした。
そして、ゆっくり頷く。
「うむ」
「おおおおお!!」
「御子様ァ!!」
なんかめちゃくちゃ盛り上がった。
その勢いのまま、僕は気づけばネグラディアの入口付近まで連れて行かれていた。
壁の向こう側。
そこには白耀聖騎士団が並んでいる。
白銀の鎧。
鋭い視線。
完全武装。
怖い。
その先頭には、当然のようにアウレリア・フォン・アイゼンリートが立っていた。
そして。
騎士団と一緒に、学園の連中までいる。
ティア。
英雄コースの奴ら。
その他色々。
全員、こっちを見ていた。
僕はゆっくり前へ出る。
背後ではネグラディアの住人たちが跪いていた。
「漆黒のレイン様!!」
「深淵の継承者よ!!」
「神よォ!!」
(気分いいなこれ……)
僕は少し口角を上げた。
そして、腕を組みながら宣言する。
「私は漆黒のレイン!」
僕は堂々と言い放った。
「この地を統べる者だ!!」
「「「おおおおおおおおお!!!」」」
ネグラディア側が大歓声に包まれる。
「神よォ!!」
「お美しい!!」
「流石は御子様ァ!!」
大騒ぎだった。
だが。
騎士団側は違った。
「…………え?」
騎士の一人が固まる。
学園の生徒たちも、完全に困惑していた。
英雄コースの奴なんて口を半開きにしている。
ティアは――なぜか真顔だった。
何も言わない。
ただ、じっと僕を見ている。
そして。
アウレリア。
騎士団長アウレリア・フォン・アイゼンリートの額には、うっすら血管が浮かんでいた。
「……貴様ァ!!」
怒声が飛ぶ。
「ひっ」
僕は思わずビクッとなった。
怖い。
めちゃくちゃ怖い。
だが、後ろには信者がいる。
僕は咳払いした。
「……私は無駄な争いは好まない」
周囲が静まる。
「私たちは二度とその境界線を跨がないと誓おう」
「おお……!」
「なんと慈悲深い……!」
勝手に盛り上がり始める。
僕は近くに落ちていた古びたローブを拾い上げた。
「そして詫びとして、深淵街ネグラディア特産――古びたローブを与えよう」
僕はそれをアウレリアへ向かって差し出した。
数秒、沈黙。
「「「おおおおおおおおお!!!」」」
ネグラディア側が再び熱狂する。
(やっぱ大丈夫かな?)
少し不安になった。




