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「ふぅ……」
僕は静かに息を吐いた。
なんとか間に合った。
(危ない危ない)
あと少し遅れていたら、本当に終わっていた。
人生最大級の危機だったかもしれない。
トイレから出ると、外では老人が不安そうに待っていた。
「御子様!! ご容態は大丈夫でしょうか!?」
(だからただのうんこだって)
「大丈夫だ」
そう言った瞬間。
「おおーー!!」
「流石は深淵の継承者!!」
「なんという生命力……!!」
周囲が一斉に盛り上がった。
(恥ずかしいんだけど)
なんで排泄しただけでこんな盛り上がるのか。
意味が分からない。
だが。
悪い気はしなかった。
ここでは、僕が神である。
今まで雑兵だの卑怯者だの散々言われてきた人生だ。
それが今では、
御子様。
深淵の継承者。
赤き器。
好き放題持ち上げられている。
とても気分がいい。
(……なんかここ住みやすいな)
ふと思う。
学園へ戻れば、
* 雑兵扱い
* 英雄コースから見下される
*セシリアやティアとの気まずい空気
などなど、面倒なことだらけである。
それに比べ、ここでは何をしても崇められる。
うんこしただけで拍手喝采だ。
最高かもしれない。
(……もうここ住むか?)
僕は真剣に考え始めた。
うん。
割とアリな気がする。
「おい」
僕は老人へ向かって言った。
「僕の住居はどこだ?」
老人が固まる。
「も、もしや……!」
「この漆黒のレイン様を、まさか地べたで寝かせる気じゃないだろうな?」
僕は腕を組みながら偉そうに言った。
周囲がざわつく。
「漆黒の……!」
「なんという威圧感……!」
「やはり御子様は格が違う……!」
(ふはははは)
気分が良い。
老人は慌てて頭を下げた。
「は、はい!! ただいま最高の部屋をご用意いたします!!」
「うむ」
僕は満足そうに頷いた。
その時だった。
遠くの方から、小さな鐘の音が響いた。
カン――
カン――
カン――
周囲の空気が変わる。
老人の顔色が青ざめた。
「……まさか」
誰かが震える声を漏らす。
「白耀聖騎士団……?」




