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優越感と満腹感に浸っていた僕だったが、一つ問題が発生した。
――うんこがしたい。
かなりしたい。
しかも、そこそこ限界が近い。
(やばい)
僕は静かに腹を押さえた。
さっき食べた肉が思ったより油っこかったのかもしれない。
そんな僕の前で、老人は相変わらず気持ち悪い目を向けていた。
「御子様……何かお悩みでも?」
「トイレ」
僕は即答した。
空気が止まる。
周囲の連中がざわついた。
「おお……」
「御子様が……」
「ついに……」
(何がついになんだよ)
意味が分からない。
老人は何故か神妙な顔で頷いた。
「承知いたしました。こちらへ」
杖をつきながら歩き出す。
僕はその後ろをついて行った。
正直、それどころではない。
腹が限界に近かった。
歩くたびに嫌な波が来る。
(やばいやばいやばい)
漏れたら終わりである。
僕は必死に耐えながら周囲を見る。
深淵街ネグラディア。
改めて見ると、本当に酷い場所だった。
建物は崩れかけ。
道には汚水。
空気は湿っぽい。
しかも臭い。
痩せた子供たちが壁際に座り込み、ボロ布を被った大人たちが暗い目でこちらを見ていた。
そのくせ、僕を見る時だけ目が輝く。
とても気持ち悪い。
「導光教は我らを異端として――」
老人が何か語り始める。
「かつて深淵を信仰した者たちは――」
横を見る。
片腕の無い男。
咳き込む女。
倒れたまま動かない老人。
かなり悲惨だった。
(へー)
でも今はそれどころじゃない。
腹が。
限界が。
近い。
「……御子様?」
「トイレまだ?」
僕は真顔で聞いた。
老人はハッとした顔になる。
「も、申し訳ありません!!」
急に歩く速度が速くなった。
僕も慌ててついていく。
すると途中、小さな子供が僕の服を掴んだ。
「御子様……」
痩せた女の子だった。
歳は十歳くらいだろうか。
「お母さんを……助けて……」
その奥には、ボロ布に包まった女が横たわっていた。
顔色が悪い。
呼吸も浅い。
病気なのだろう。
周囲の空気が静まる。
全員が僕を見ていた。
期待するような目。
縋るような目。
(いや、医者じゃないんだけど)
僕は困った顔をした。
だが。
腹も限界だった。
「あとで」
とりあえずそう言う。
すると周囲がざわついた。
「おお……!」
「御子様が……!」
「我らを見捨てていない……!」
(勝手に良い方向へ解釈された)
便利な連中だった。
その時。
ぐるるるる……
腹が鳴った。
限界だった。
「……トイレ急いで」
僕は真顔で言った。




