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嫌われ鬼娘と彼女に恋した─僕と己─  作者: ラーテル 弓倉


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あとしまつ5 不正直者

二台並んだ診察台に各々、己と貴羅が仰向けになった。

この寒い手術室には己と貴羅の他は医者の卯ノ花とそれを手伝う那由他だけだった。



ぼんやりと卒業式のあと祢呼や墨夫と話したのを思い出した。


四月からは祢呼は女学校へ、墨夫は中学校へ行くと言っていた。

少年がどうするつもりかは分からないが那由他や少年の父親と相談して墨夫と同じ進路にしておいた。


少年に戻れた場合のための学校での日常生活の補助を墨夫に頼んだが本当にそれが果たされるかは分からない。





何時(いつ)でも始められるからね。」

卯の花はこちらを見らずにガスストーブの横の一人掛けソファーにもたれて何かを飲み干していた。


貴羅も少し怖かったのか少し目が泳いだ様に見えた。


「己は何時でも良い。」

手術の為に先日から何も食べていない。腹を満たすためにも早く手術を終わらせたい。己はそう思い込むことにした。


「………。お願いします。」

これが最後に聞く貴羅の声だろうか。彼女が話すたびに意識する己がいる。


麻酔の薬を飲んだあと、ある程度の時間が経ってから手術を始めると言われた。


このまま二人、意識を無くすならせめて手を繋ぎたい。きっとこの横顔が己が見る貴羅の最後になるだろう。












「目が覚めた?」


貴羅の声で目が覚めた。

少なくとも、今は己のままだった。

貴羅は残った右目で己の顔、いや己の左目を見ている。

がっかりとも嬉しいとも出てない顔をしている。


「行きましょう。」

何処へ?貴羅は己の反応を見らずに手術室のドアを開けて出ていってしまった。慌てて手術台から降りて彼女の後を追おうとした時に、壁に掛けられてる鏡が目に入った。

貴羅から返ってきた左目は元の少年のまま、不言と同じ黄色。そして件の右目は…。



暫く鏡を見ていたかったが、感情に浸るまもなく彼女はどんどん先を進んでいる。

いそいで部屋の隅にある帽子掛けに引っ掛けてあった上着を取って部屋を出ると彼女は建物から外に出る扉から出てしまうところだった。


「まって!早いよ。」

今のは少年で叫んだ。

貴羅が建物を出てからどちらに行ったか、左右を確認すると屋敷の方へと向かっている様だった。

見失っても匂いで分かる。だが、それは己のやり方ではない。今は目視で追いたかった。


目的地は分かっている。手術後に可能なら己と貴羅とで屋敷の入り口と玄関の間…少年が最期にいたところにすると決めていた。




体を動かす主導権はまだ己にあるが、徐々に脳は少年に戻ろうとしている。


目的地に着くと、敷地の門扉と屋敷の中間、ちょうど少年が倒れていたところにそのまま二人で腰を下ろし、後は何か日常的な他愛の無いことを話した。



「少年を頼む…。」

「えぇ。」


このやり取りのあとは座ったままの状態でも体を支えているのが出来なくて、あの日と同じ様に仰向けになった。


己が遠のいていく。しんどい。


「貴羅…」

「何?」

「今更だが消えてしまいたくない。」

「………。」




貴羅が右手を繋いでくれていた。


「…然のことは忘れないから。」





最期の最期の彼女の言葉は嘘だと思った。

鬼には横道は無いと言うのはお互いに嘘をついたら分かるので嘘を付く必要性が無いからだ。

けれどその嘘で己は心置きなく消えることが出来るのだ。


貴羅………………………





      ………………………………キラ。

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