あとしまつ4 式神
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温羅の釜に捨てに行くのはいつが良いかと聞かれたので貴羅が目を返す時に被るときが良いと伝えた。そのせいか出発が手術(卒業式)の前の日に決まった。、その時なら貴羅もあの子のことで俺のことは頭にないだろう。
日程が決まってから出発予定日の前日までは今までの顧客らに頼まれていたものを渡し、これで最後になると伝えてまわっていたが、唯一人、教授の元へだけは行けなかった。代わりに挨拶も無しに仕事を辞めることへの謝罪を手紙にしたため、出発してすぐにあった郵便ポストへ投函した。
隠り世には汽車や車といった移動のための人工物はまだ無い。これだけの大荷物だと体を土に溶かして移動することも出来ないので示尾と一緒に現し世の汽車に揺られてぼんやりと車窓を眺めていた。
「…お前と二人だけ、お前が成人してからはじめてか?」
示尾にそう聞かれたけど、よく覚えてねぇや。
灰にした全ての尻尾を一つにまとめた物と雉鶏精とを灰にした物を示尾が、狐の本体であった殺生石の塊になった子狐の体に封をした物を俺が持ち歩いた。
現し世では汽車を使い、飯や寝るときは隠り世にいるようにして運んでいた。
思えばあちこちと移動するメンドーな仕事だった。仕事と言ってるが本来は日本中の殺生石を集めるのが目的だったが、現地の風景を眺めるのを楽しみにしていた。日本だけでなく、朝鮮や中国と広い範囲で仕事ができたのは示尾が各々の国の言葉と人脈を俺に教えてくれたからだ。
「なんで示尾は俺を養ってくれたん?」
「…ナリユキ。」
「なんか軽くね?」
数秒経ってから示尾が口を開いた。
「…あの人が飛ばしてきた。ニアオの式神。」
ニアオ…鳥のことか?俺に合わせて日本で話そうとしてくれるが元々示尾は大陸の言葉が主に使っているので日本語を話すのに少し間が開くし、単語とかは大陸の言葉になる。
俺は気づかなかったが、どうやらあのときに那由他がいつもの鳥の式神を示尾の元へ飛ばしていたらしい。
ただ、それに示尾が気づいたのは処刑当日だった。おかげで一人で生きる術が無かった俺はマジで死にかけた。
処刑のときにあのまま突っ込んでいってたら俺も殺されていただろうし、あのとき止めてくれたことや大人になるまで養育してくれたことは感謝している。が、正直、示尾が来るのがもう少し早かったら…って思ってる部分があるからか釈然としない。
今日も色々と聞いてみたが助けてくれたのに間が空いた理由は最後までは言ってくれなかった。
「那由他のことが好きだったから俺の面倒を見てくれたんだよな?」
「…あのままお前死んだら、あの人が我に式神を送るの意味無くなる。それに陸、野暮なコトを聞かない。」
…わかってるさ。それこそ、俺が娘を育てなかったら津耶の死は無駄になる。あんたも俺も好きな人の行為を無駄にしない為に動いてただけなんだよな。
「あと京の骸はどうしたんだよ。那由他のを別に考えても、墓が一つ足りないことには気づいてんだよ。」
「…捨てた。温羅の釜。」
「本当に?」
「我恨他(おれ、あいつキライ)!」
俺も示尾に返した。
「…我也是(俺もだ)。」
温羅の釜… 温羅はかなり昔に首を切られた鬼で、首だけになっても唸り、肉が無くなり骨だけになった後でも唸り続けたと言う。仕方がないので近くの宮の釜殿の窯の下に封印されたという。(供養のためや神格化して利用するための説もあるがあまりに古い事でどれが正確なのか分からんらしい)。
封印したとは言え、千年以上の間、釜は鳴り、隠り世の方では、鬼たちのどうしようもないモノ(今回は九尾の尻尾と死体)の処理に使われている。
「釜の下ってどうなってんの?」
隠り世、現し世のどちらでもなくなった場所で、とにかく生き物の住める空間では無いと言われた。なら、俺が消えるのに最適だと思った。
なんだかんだ言いながら、出発した次の日の昼前には隠り世側の温羅の釜のところについた。おそらく今頃、卒業式が終わってるんだろう。
(現し世側の温羅の釜のところには神社か寺だったかがあって人間は崇拝か供養的な何かで温羅を祀っている。が、鬼共には関係のない話だ。)
建物には『裏の釜』と達筆に書かれた看板があり、戸を開けると畳三畳ほどの広さの土間があり、奥の右側に火をくべるところのない釜戸の上に大きな釜が乗っていた。
釜を退かすと熱気とも強風ともつかない、見えないものが唸るような叫ぶような大声が出ている。実際に近づくととても熱く、「夏場でなくて良かった」と示尾が言いながら釜を乗っけていた穴の中へ瓶ごと炭になった尻尾、雉鶏精、女狐の体の順で捨てていった。
示尾が蓋をするために釜に手をつけた瞬間に俺は元々釜が置かれていた穴の中へと入った。
「陸!!! …なんてことを…」
微かに示尾の声が聞こえた。遠く上の方で釜の穴の空いた光が見える。俺は結構下へと落ちていってるらしい。
そう思うと光が消えた。おそらく釜で蓋をされたのだろう。
示尾には最後の最後で嫌な思いをさせたが、もう仕方ない。
これで俺は全てから解放される。
「………………………………………………………。」
あ、ムリだ。
俺が落ちてきたであろうところまで必死ではい上がって釜を下から思いっきり押した。釜は外れて地面にガンと凄い音をたてた。
穴の中から這い上がろうと上半身と片腕を淵にかけてるところで帰ろうとしていたであろう示尾がこちらを振り向いた。
「陸っ!!!!」
示尾は俺を引き揚げてくれた。
もう服はボロボロで皮膚も焼けただれて全身が痛く、立つことができずにその場にへたり込んでしまった。
「たしかに、あんなところ誰も住めんわ。」
「大白痴(大バカ野郎が)っ!!!」
ヘラヘラ笑ってたら示尾からどなられた。ああ、しばらく怒鳴られ続けるだろうな。朝鮮語と中国語をごっちゃに使っているから文法もめちゃくちゃで時々何が言いたいのか分からない。
どうしたら早く終わるかなぁ…と考えているとボロボロになった服の袂から津耶の手鏡を入れていた袋が落ちた。
袋もボロボロになっていて、その隙間から見える鏡が天井を写している。
「津耶…」
あ。あぁ… ここにいたんだな。
鏡の中にいた津耶が俺を鼻で笑った様な顔をした。
こんなに近くにいたことをもっと早く知りたかったし、ずっと会いたかった。
その鏡を抱きしめて、気が済むまで泣き伏した。
鏡の中に彼女の魂が故意に入ったのか、俺が潰した時の衝撃で入り込んだのかは分からない。
とりあえず、帰ろう。
俺の津耶のだけど、貴羅の母親でもある。
早く二人を会わせたいと思った。




