あとしまつ2 荼毘
いつから鬼屋敷なんて名前をつけられたんだか。俺が耳にしたのは貴羅と住みだしてから以降だったと
思う。その屋敷の前で隠り世から現し世へと出た。
ここへ来るのは震災以来だったか?ところどころ倒れた塀、ひび割れた壁、なくなった窓、伸び放題の草、屋敷と言うよりかは廃屋の方が正しい状態だった。
他人の家ならこんな状況で絶対に入りたねーよなぁ…とか思いながら屋敷に入った。件の本棚をずらすと大きめの箱があった。津耶が死んだ後、全て示尾が入れてくれたのだ。
今までに俺が箱を開けたことは一度も無い。
箱を開けると本当に津耶が死んでしまったのを認めないといけなくなる。
もし、あの人が京さんのものじゃなかったら、あのままあの人が京さんと再開しなかったら、せめて成仏しなかったら…そしたらまだ俺は津耶がいなくなったことに向かい合わずに済んだのかもしれないのに…。けど、どんなに似ていてもあの人は津耶では無いのだ。あの日俺が…この右手で…。
………。
感情を殺して蓋を開けると一番上に人形、その下にはあの日に津耶が着ていた着物や帯がり、更にその下に箱があった。箱の中は財布や持ち手だけ巾着から出た手鏡、櫛などの細々した物が入っていた。
「津耶…。」
コレは彼女の物だ。娘と関係のある物ではない。
巾着ごと鏡を俺の服の中にしまい込み、他のものは畳まれた着物に包むようにして屋敷の外に持ち出した。
もう誰の目にも触れさせたくないし、ましてや感想なんて抱かれるのは赦せない。俺はそれらを屋敷の玄関近くで火をつけて燃やした。
一緒に持ってきた酒を腰を下ろしてから少し飲み、着物やらが燃える様をぼんやり見ていたが無性に疲れた気がして目を閉じた。
女狐は津耶にも尻尾を入れていた。同じ化け物でも元々が物の精だったせいか尻尾の影響を受けずに済んだようだった。津耶が死んだとき、敷地から出ていた足の方から尻尾は抜けて女狐の所へ還ってきたのを今回の件で知ることになった。
ついでに言うと俺が貴羅と会わないようにしてたのは貴羅よりも津耶を守るためだった。
貴羅と顔を合わせなかったのは俺の存在を知って町中で声などをかけてしまわないためだ。いくらダメと言い聞かせても幼子にはムリだろう。津耶と合うときは必ず卯ノ花の家で、しかも隠り世を通って家の中でしか鬼門を使わずに合うことを徹底的にやっていた、。その間、卯ノ花の家で貴羅と会っていた期間は生まれて一月も満たなかった。
…なのになぜバレたのか、理由は匂いだった。
本当に犬の連中は鼻が良い。それでバレことも女狐の記憶から分かった。
いっその事、屋敷にとらわれずに別の土地に住めばよかった。こんな風に鬼が目の敵にされてるのは屋敷のあるここいらだけのことだし、気を張りつめることも無く、普通に三人で過ごしていたら貴羅と普通の父子として過ごせていたかもしれない。だが、もう遅い。
一通り感傷的になったあとに目を開けると火が屋敷に燃え移っていた。
「!っ!!わっ、あぁあー!!!!!」
我ながら情けない大声を出しだと思う。瞬時にどうしよう、とかやっちまった、と動揺したが、もう俺にとってはいらないものだ。貴羅は分からんが…
「ま、いっか。」
意外とすぐ冷静になり、開き直ってそのままボゲーっと火を眺めていたら徐々に屋敷の外に人が集まり、連中らは俺を睨んだり、火事に驚いたりしていた。しばらくすると火消しのポンプ車や警察も集まって来た。
「…めんどくせぇな。」
俺は一番近い柵まで走って敷地から抜けた瞬間に鬼門を開いて隠り世へ移った。




