狐と尻尾7 左手
狐のガキを追いかけるために然さんは行ってしまい、この場には俺、娘(貴羅)、甥っ子(不言)、そして白狐の学生が残った。
「離してくれ!何なんだ、あんたらは!!」
不言の下で学生が騒いでいてうるさい。
「おい、コイツはどう見えてる?」
俺の呼びかけに娘は学生に近づいて、対象を見下す位置に立った。
「ブレてる。」
「何のことだよ!」
「私には貴方は魂と肉体が違うヒトが判る。去年の夏、私が大学であなたを見かけた時はすでにそうだった。」
「…何のことだよ?」
「大学教授を騙してまでも俺たちを潰したかったみたいだな。欲しかったんだろ?神便鬼毒酒。」
「そんなもの知らな」
俺は不言に押さえつけられてて動けない学生の頭を思いっきり蹴った。
「しらばっくれてんじゃねえよっ!!」
こいつらがあの教授を利用したことは赦せなかった。
「全く知らないなんてあるわけないだろ!」
もう一度頭を蹴ってやる前に不言が叫んだ。
「貴良ちゃん!早く幽り世へ!!」
何か見えたらしい。
その直後に俺の横を高速で飛んできた魂が娘に目掛けて飛んで来た様だった。学生と睨み合ってた娘も気付いたようで体を翻してやり過ごしていた。
急に死んだので動転してんのか?そう思ったが魂は通り過ぎたと言わんばかりに、急にくるっと周ってまた娘目掛けて飛んできた。
仕方無しに俺はそっちへ行ってその魂を掴んだ。掴んだ瞬間にコイツは『狐』だと思った。
このまま放置していたらロクなことにならない。
教授のことへ鬱憤だったのか、単に俺が短絡的、破滅的なのかは分からんが、魂をそのまま呑み込んでやった。
「…………。」
三千年だか四千年だかのヤツの記憶、感情、思想全てが一気に流れ込んできた。
権力を利用しての悪行だけでなく、宗教弾圧を建前にした非道、前の震災の混乱に乗じての人狩りを誘発させたり、他にも口にしたくない様な方法で多くの命を奪っていた。
その全てに対してこの女は楽しんでいるのだ。
しかも妹分だった津耶が死んだ時もだ。
「…おとうさん?」
娘が声をかけて来た。どうやら俺は気を失ってしまった様で四つん這いになって少し吐いていた。
元々、九尾が復活しないために鬼の誰かが飲み込む手はずになっていたので問題はない。が、上手く消化しきれるだろうか?できたとしてもこれはかなりの時間はかかるだろうな。
「みんな無事か?」
然さんが獣から人の姿に戻りながら走ってきた。
「陸さんが九尾の魂を喰いました。」
俺の代わりに不言が応えた。
「…そうか。」
安堵した声だ。
「筆子を連れて行ったのは石見くん?貴方は石見くんの前でー」
「…いや、己が付いた時にはすでに死んでいた。」
「そう。」
そう、九尾は死んだ。後は時間をかけて俺の中で魂を消化して行けば良い。
「陸、大丈夫か?」
「あ、…ぁ。」
今の俺は返事をするのがやっとだ。
「お前は退け。後は他の者でやる。貴羅は式神を使って卯ノ花…いや、示尾を、呼んでくれ。示尾が来たら陸と隠り世に行くんだ。」
「…それは出来ない。私は式神のやり方を知らない。」
そう、俺は然さんから教わっもたことを娘に何も教えてない。俺が何もしないからいつも誰かが見かねて色々やってくれていた。
娘に然さんが懐紙での式神を作り方を教えている。
この間も女狐の記憶やら思考やらがどんどん俺の頭の中を喰い侵して行く。
「………。」
俺が頭を上げ、数秒かけて立った後、不言と学生の元へ行くのを皆が驚いていた。
「お父さん?」
「おい、無理するな。」
学生の頭もとにしゃがむと俺は左手(津耶ん時と違う方の手)で相手の頭を潰し、魂が体から出て来るやいなや、つかみ取って狐と同様に飲み干した。
コイツも俺が潰しておかないと気がすまなかった。
津耶が死んだことを狐と一緒に嗤っていやがったんだから。




