墓前之猫
下校時に貴羅を迎えに来た不言と色々と相談した結果、不言が二人を追尾して、己は夏休みの最終日に僕が貴羅と話し、京が登木克視として女狐に返り討ちに合った川原に来てくれとのことだった。
しかし、狼の時の体は遠くからでも殺気の様な物で分かるそうなので時が来るまでは貴羅と陸が住んでいた屋敷で待つこととなった。
狼であった際、その気配にいつもは何とも思わない祢呼でさえ、それを感じて足が竦んだと言う。普段の墨夫の反応を見てると犬科には狼の姿でない時でもでも何か感じるものがあるのだろう。仕方ないことだ。
墨夫から予定だと日のあるうちは帰らないとの聞かされた。それに、不言が指示した時間になるまでは屋敷で待つ決まりだったので、那由他に洗ってもらった陸から勝手に借りた着物を返しに鬼屋敷へ向かった。
「鬼 屋」の椅子の中の元あった場所に入れたが元々の畳み方の通りだったかは覚えてない。
陸は神経質なところがあるから次にあった会ったときに勝手に借りたことを伝えたほうが良いのか、止めたほうが良いのか…。どうしたものかと考えながら鬼屋の屋敷側へでた。
その傍らには示尾が陸と埋めた己達の墓がある。
せめて日が暮れてから来たら良かった…と思いながらもぼんやりとそれらを眺めていた。あまり地震の影響は無かったようで意外とキレイな状態で残っていた。
「?」
あの日いたのが己、京、那由他、天、夜、葉奈、そして陸。
陸と那由他は別として、ここにある墓は五基あるはずなのに一基足りない。 たしかにあの日、皆処刑された。誰のが無いんだ?今日の目的も忘れて己は衝動のままに墓を掘り起こした。
男と女の腰の骨は違うと言う。
掘り返した腰の骨は二つずつで分かれていていた。どちらがどちらなのかは判らないが片方が、一組は天と葉奈の二人だろう。
よってここに無いのは男の誰かになる。
誰の骨がない?もう骨の大きさを比べて、あの時いた面子に当てはめるしかないか?それは骨が折れるな。それだけの時間はあったとしてもそこまで来る気力は無い。とは言え、埋め直してまた後日に…ってのも気が引ける。
「お兄ちゃん。」
振り返ると祢呼の弟が立っていた。橙色と黒色の斑に生えた髪と肌、祢呼よりも人間に近い形の体格。汚い黄緑色の中に細く存在する黒目。聞いていたはずだったが、名前が思い出せない。
「えっと…」
「十郎だよ。」
そんな名前だったっけか?自信がない。
「なんで墓を掘り起こしてるの?」
こいつ、女狐の尻尾が入っていたのか?ここで己が対面することを不言には見えてなかった…もしくは分かっていて対峙させたか…。さて、己一人でどう乗り切るか。
「…どうしてこれが墓だと知ってる?」
とりあえず出た言葉に
「姉ちゃんの手前、気付かないフリをしてたのかと思ったけどやっぱり分かってなかったんだ。」
と返してきた。なるほど、この子と初めて話したときに妙な安心感があったのはこのためだったのか。
「夜か。」
名前を呼ばれた相手は、ちょっと微笑んだように見えた。
「敷地の外からは人目につきにくいところだけど、傍から見たら正気の沙汰じゃないよ。まあ、そもそもそれが墓だって分かる人の方が少ないか。」
「墓が一つ足りないと思って確認せずにはいられなかった。何か知ってるか?」
「足りないのは京兄だと思うよ。示尾兄、嫌ってたし。ナユ姉は本当に可哀想だったよ。何回も させてから させてるんだもん。」
「…嘘だろ?」
「ウソじゃないよ。ほかの男にも させてたし。葉奈姉もナユ姉ほどの頻度じゃなくても似たようなことをされてたし。そもそもウチの姉チャン(天)が刃物を常備してたのだって自身に京兄を近づけさせないためだったし。」
京…お前と言うやつは…。気分が悪くなる。
「示尾兄はナユ姉のこと好きだったからさ、死体でも良いから京兄にはあたりたかったんじゃないかな。そう言うこともあったからさウチもナユ姉には幸せになって欲しかったよ。だからウチもどこかの死んだ捨て子の体に入るのは反対だったんだよね。まあ、良い家に貰われたから良かったけど。でも嫁ぎ先にあんなババァがいたらそうでもないのかな?」
「その姑さんはこの前亡くなったよ。」
「ふーん。なら良かったのかな。それよりも、京兄が成仏したってホント?」
「あぁ。陸がそう言ってたし、那由他が反魂香でも姿が現れなかったと言ってたから間違いないだろう。」
「なに自分だけ先に楽になってるんだろうね。元々は京兄の女関係でウチ等が殺されることになったんじゃないか。」
「それはそうといつから祢呼の弟に?」
「貴羅が仔猫を敷地に入れたことがあってさー、そのすぐ死んだのに入ったんだよ。とりあえず屋敷の近くをウロウロしてたら卯ノ花を見つけてついて行って、その後に色々あって祢呼の弟になったんだよ。元々化けれる素質のあった猫みたいだったからできたみたい。」
卯ノ花が白猫、奈子さんが茶トラ。黒髪だったので祢呼はハチワレだと思っていたがどうやら卯ノ花と、同じ白猫だったようだ。
たしかに白猫と茶トラの子がサビ猫が生まれるかと言われたら違和感しか無い。
「母さんはウチが鬼だったどころか、自分の子で無いことすら知らないから絶対に言わないでね。」
「そんなことがあるか?」
「本当の子供が死産だったから、その代わりなる条件で息子になったの。その子が十時だったか十日だったかに生まれたとかで十郎だってさ。」
なんて適当な…と思ったが、己も子どもたちの名前を付けるときはそんなんだった。
「それで天には会えたか?」
「全然。姉チャンは消されたんじゃないかなあ。あれだけあの処刑に関わったヒト達を殺ってまわってたら相手だって対策してくるでしょう?ここから出てから姉チャンに会った鬼はいないみたいだし。」
たしかに、天くらいに暴れてたら無理もないだろう。
「己は不言に言われて来たんだがお前は?」
「ウチは墓泥棒がいたから声をかけただけだよ。」
「今宵、女狐を倒す予定だ。お前も参加するか?」
「関係ないよ。ウチが鬼だったことは、今は少し体の強い化け猫になったってことでしかないよ。」
目を閉じるように十郎が笑った。
「怒りとか許せないとか、そう言った復讐心とかはお前には無いのか?」
同じ双子の姉である天では喜怒哀楽がハッキリしていて特に怒りに関してはとても、強く表現する娘だった。 処刑された後、肉体を失ってすぐから敷地内に入る者の体を乗っとり、己達を殺した関係のある全てのものに復讐して廻っていた。
逆に夜は感情的な言動を取っていた記憶がない。いくつになっても幼い話し方をしていたが、己の元にいた子どもたちの誰よりも大人だった気がする。
天は最後まで抵抗し、処刑中でさえすっと暴言を吐いていたが、夜は刺された時の痛みに「うぅ」と唸っただけですべてを受け入れているようだった。
彼の返答はうーん…と少し考えた様な表情をしてからだった。
「アレらは滅びるべきだと思うし、またウチ等みたいな目に遭うヒト達が出ないためにも然さんや陸達の行動は必要だよ。そのために動いてる事には感謝している。けど、当事者とは言え、ウチ自身が何かしてやろうって感情はおきないんだ。」
元々、夜がその考え方だったのか、元の肉体の持ち主の考えグセなのかは判らない。
ただ、精神的に女狐に対して離脱している夜に対して少し羨んだのは気の迷いだと思うことにした。
夜が他人事であったことに対して責める気は微塵も起きなかった。彼は墓を戻すのを手伝ってくれると「そろそろ帰らないと母親が心配する」と帰ってしまった。




