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嫌われ鬼娘と彼女に恋した─僕と己─  作者: ラーテル 弓倉


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 鬼 屋

この『鬼 屋』は(ろく)が屋敷を建てた頃に作った店だ。



屋敷をぐるりと囲む塀に隣接して経っており、店は治外法権の対象にはならない。

鬼以外の客や来訪者が来た時にはここを使っており、己が知る限り、一番訪れたのは艶さんだったと思う。



「私、お母さんの顔を覚えて無いの。」


十分経つか経たないかの短い時間で貴羅は、己の元へ来た。

「…そうなのか。」


六畳ほどの小さな店で、屋敷側と道側の両方に入り口があり、背もたれの、ついた長椅子が向かい合うように置かれその真ん中を長机が鎮座している。一見、線対称の様に見えるが店は道側には窓がない。客の秘密を守るためだ。


聞くつもりがなくても、聞こえて来たり、窓が開いているとつい聴き入ってしまう者もいる。結界を張って内部の声が外に出ない様にされてあった。

またこの結界は必要がない時に外から開けられない様にもなっている。なので看板とは別に『必要ナ時ニシカ開カヌ』と張り紙もしてあった。




今日、学校で貴羅自身の意識が無いときのことを祢呼に聞きだしていた。

祢呼は艶さんのことを覚えていて、勝手に見たことを謝っていたが、貴羅は赦すかわりに箱の場所を教えてもらっていた。



「そもそも、お母さんが死んだ時より前ってあまり覚えてなくて… 箱の中を見ても特に思い出さなかった。一応、娘だから頃合いが来たらお父さんに話して箱の中の物をもらおうとは思ってる。付き合ってくれてありがとう。」

「あぁ。」


酷い記憶は思い出さないようにできていると言う。母親の死に方が死に方だったので思い出せなくなっているのだろう。




「………。」

「どうした?」

「貴方は、アドルフの体を使うまでは屋敷の敷地内にいたのよね?」

「そうだ。」

「お母さんのこと、何か知ってる?」


「…そうだな、月に一、二度、(ここ)で会っていたよ。それが当たり前になった頃に急に艶さんが来なくなった。」

「つやって言うのね。姓は?」

「姓までは分からない。」

「そう。」


貴羅が聞いてこなかったのか、(ろく)が教えて来なかったのか…まさか自身の母親の名前を知らないとは。



「とにかく、艶さんが来なくなってから、陸はあちこちと捜し廻っていたよ。なかなか見つからずにかなり(やつ)れていた。見つかってからは他の人に自分と関わりがあるのを悟られないように隠り世を使ってから艶さんのところに通う様にしてた。(ろく)なりにかなり気をつけていた様だったが…」

「…そう。」


貴羅は長机に肘を付き、指を交差させて口を隠すような格好で目を閉じた。その指を少年は触れる度に気持ちが高揚していた。それで今の己も同じ気持ちになっている。




「あの日、あの後はネコの家に預けられて、その日はお父さんは帰ってこなかった。おばさんがバタバタしてたのを覚えてる。その後、お父さんはネコの家で何日も寝てた。元々お父さんって私とお母さんではなくて、お母さんにだけ会いに来てたの。私達がネコの家に行く日は必ずお母さんを訪ねる人がいて、その人と私が合わないように周りがしてた。あとから思えば相手はお父さんだった。私はお父さんの顔はお母さんが死んだ時に初めて見たの。」




「あのままお父さんを放っておいて死なれても困るから、周りは生きようと思わせる内容をお兄ちゃんに先読みで見させたみたい。私の父親をしてればまたお母さんに会える的な事を言ってたのを覚えてる。」



たしかに陸は貴羅とどう接したら良いのかわからない様なだった。だが決して貴羅を大切に思っていなかった訳では無い。


ワザワザ己の横で無防備に体を小さくして座っている。今の貴羅は己に慰めを求めているのだろうか?

己はできるだけ角を避けるようにして頭を撫でた。


「陸は、貴羅が小さいうちは会わないと決めていたんだ。()()()()()()の娘だ。周りに知られたら何をされるかわかったもんじゃない。実際、(ろく)もかなりの嫌がらせを受けたし、貴羅達に矛先が向かないために艶さんと話し合って貴羅を護るために決めたことだ。」


「………。」



貴羅の反応がない。まあ今まで自分が思っていた物と相違することを言われたのだ。急にそれを受け入れろと言う方が無理だし、真実が何であれ彼女がどう受け取ったかは別なのだ。

屋敷に住みだしてからの貴羅も度々酷い目に合ってきた。それを回避するために、いくらか不言が守っていた様だったが…見え無いで被害に合ってきたのは事実だ。




女の角は初潮を迎える頃に生えだすと言う。触れ無い様にしている左右の生えだした角は彼女が大人に成りかけている証拠だ。


このままだと色々な己の心の内を吐露したくなるので、丁度会話が途切れた今、切り上げてしまうのが一番良いだろう。





「そろそろ出よう。」


己が先に立ち、出口の方に向かおうとすると急に貴羅に背を向けると後ろからしがみつかれた。

「!、どうした?」

よろけた不可抗力かと思ったが、「お願い、少しだけこうさせて。」の発言に己は戸惑った。


「私は貴方の存在を受け入れているのか、貴方に残ってるアドルフが還ってくるのを望んでいるのかが…貴方とアドルフが切れない今は判らない。」


己はゆっくりと貴羅の指をほどいて彼女の隣に座った。

お互いを意識して、それを共有していた時に別れて、死んだことを受け入れないといけない時に己が邪魔をしたのだ。そう思うのが普通だろう。



「おいで。」


両手を広げて指示したが、貴羅は目線を反らして座ったまま動かなかった。彼女の意志を無視してそのまま動けないでいる彼女を持ち上げて膝に座らせ、今度は己の方から抱きしめた。

貴羅は体を強張らせている。




己だけ仰向けになりながら、貴羅の座る位置を膝から腰の位置に動かした。己のが硬くなってる意味を貴羅がわかっているかは知らない。


「貴羅はあの時の続きをどちらとしたい?」



単にあの時は死ぬ少年の気を紛らわすためだけだったかもしれないが、好意の無い相手にあそこまで出来るだろうか?再現させれば彼女なりに何か思うところがあるかもしれない。


貴羅は「そういうつもりじゃなかったんだけど…」と言いたげに己の顔を見て悩んでいる様だ。


しばらくして横座り状態だった貴羅が己に対して正面を向くように足を広げてしゃがんだ状態になり、両手を己の胸に置いて姿勢を取ってから、頭ー、頬の横に手を添えて来た。

己の背が延びた分、貴羅は体を支えにくい様で当時と同じ様にしたくても上半身が傾いた状態になっている。そういった身長差に貴羅が小さくて可愛いと思えて、少年の感情や記憶のせいだとしても、もう己自身がこの娘が欲しいと思った。







徐々に貴羅の息が激しくなって、それにあわせる様に体が震えだした。


「?」




「私が、私がっ…」


貴羅は興奮状態でわぁーっと泣きながら叫びだした。

「私が、アドルフを殺した!私が殺した!私が…」


己は上半身を起こして貴羅を抱きしめたが、彼女の続く狼狽を遮ることはしなかった。




一番触れたくなかった部分を己が刺激したことや、少年の死に対して(祢呼から詰め寄られたことはあったが、)それらしい罰を受けなかった分、罪悪感もあったのだろう。それほどまでに貴羅にとって少年のことは大きいのだ。下手に今、留めてしまうとずっと彼女の中に残ってしまう気がしてしばらくそのままにさせた。




しばらくすると何も言わなくなったかわりに今度は呼吸の乱れが気になったのでゆっくり背中をトントンしてやった。途中、嘔吐もあったが徐々に落ちついた。





「…すみません。」

吐瀉物で服を汚したことを謝られた。


「問題ない、己が無神経だった。悪い事をした。」

そう答えてまだ膝の上にいた貴羅を不可のかからない程度の力で抱きしめた。


…どちらかと言うと彼女は「ごめんなさい。」の方を言うと思っていたのでその方が気になった。その言葉で己の感情的な部分が冷静になった。




貴羅は己たちの座っていなかった方の長椅子の座面の板を持ち上げて中から服を取り出した。

「お父さんのだから少し大きいと思う。」


いつも(ろく)が着ている半島の物とも大陸の物ともつかない服だ。隠り世の鬼がよく着ている。己の元に居た時は陸も着ていなかったので、示尾(ジオ)の元についてからの影響だろう。己も着るのは初めてだった。着るのに手こずっていたら貴羅が手伝ってくれた。…少し丈が長い。


気づいたら貴羅も着替ていた。今まで彼女が着ているのを見た事のない着物だったが、それには見覚えがあった。


「それも艶さんの着ていた物だったよ。」

「そうなんだ。」


貴羅は来た着物の帯を見たり、袖を揺らして柄を見たりと、少し嬉しそうだ。


「出ようか。」

「ええ。」

貴羅が嬉しそうな顔ままでこっちを見てくれた。






日が暮れそうだったので今度こそ帰った方が良い。屋敷の反対側から店を出ると、不言が煙管(キセル)を蒸かして待っていた。

結界が己と貴羅の邪魔をすると判断したので入れなかったのだろう。


彼はゆっくりと己たちを交互に見た。どちらも着替えたことにはすぐ気づいただろうし、何があったのか見たのだろう。彼は貴羅に声をかけた。



「そろそろ帰ろうね。」

「うん。」


不言が「失礼します。」と己に声をかけてから貴羅達は隠り世へと帰ってしまった。

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