牢の中7 未来予知
少年の祖母が亡くなった。
不言が言うには、女狐の尻尾に侵されてる間に本来の寿命が来たので尻尾が出たのなら死ぬのが普通だそうだ。
これから杉下家は葬儀等で忙しくなる。よって貴羅の隠り世行きは可能なら今晩にでも行われるだろう。
貴羅は不言の元から今まで通り学校へ通うので会えなくなるわけでは無いが、このまま貴羅と同じ家で過ごせると期待した分、寂しく感じた。
「巻き込みたくなかったのに酷い目に合わせて済まない。」
「悪いのは貴方ではない。気に病まないで。」
「本当に済まなかった。」
「今はこれからのことを考えましょう。」
これから…は女狐を倒し、この体を貴羅と少年に返すことだ。
「お兄ちゃん、何か先読みで見えてることってある?」
「きちんと現状の把握をしてから見よう。でないと今日の一日分を無駄にして終わらせるかもしれない。」
この不言ってのは先から目を瞑っていた。今の貴羅の発言と何が関係があるのだろう。
そのことを己から本人たちに聞くか、相手から言い出すのを待つかと考えていると陸が乗り込んできた。
「那由他、娘がいるんだろ!!!」
おそらく、卯の花あたりから貴羅の居場所がばれたのだろう。
「いつも仕事で何日も放ったらかすくせに何ですかっ!!」
玄関で那由他と陸が言い争い出したので己は二人の方へ向かった。
「陸、落ち着け。」
「落ち着いてられるか!だいたい面倒だから知らせるなって、俺は親だろ!!」
「先ほど、那由他の義母が亡くなった。」
「!」
陸が一度黙った。
「…それと何の関係がある?」
怒鳴るのはやめたが口調には苛つきが残っている。
「その義母の体から九尾の尻尾が出できた。不言がそれを見つけた。」
「………。」
「貴羅は無事だ。意識も戻った。今不言と奥にいる。」
「なら良い。」
「会ってやると良い。」
「えっ!?」
なぜ、お前がここで驚く。
黙ってしまった陸だったが、那由他が睨んでいるのに気づくとしぶしぶと言った感じで靴を脱いで牢の方へと向かった。
これから隠り世に貴羅を移す話になるだろう。
これは己や少年には関係のないことだ。しかたない。貴羅が言った通り、今は女狐のことを考えよう。
まず、少年の祖母は尻尾の有無の差で臭いの違いは無かった。これでは誰も信用できなくなる。
考えていると目を閉じたままの不言が己の所へ来た。
「少し話せますか?」
陸と貴羅の住んでいた屋敷で話すことになった。建物の中に勝手に入るのは抵抗があったので屋敷の庭、丁度少年が死んだのところを眺める位置にある腰掛けに並んで座った。
「初めて我輩が貴良ちゃんと合ったのは貴良ちゃんが五歳ー、貴良ちゃんのお母さんが無くなった時です。」
艶さんが死んだ後、陸は死ぬつもりだったので幼い貴羅を卯ノ花の家で奈子さんに押し付けてすぐに隠り世へと消えた。
奈子さんは那由他を頼ったが、当時の那由他は人間であったので隠り世に行くことも屋敷の敷地に入ることも出来なかったので式神のトンビを飛ばして示尾を頼ったそうだ。
示尾は首を吊っていた陸を見つけた時、助けて良いのか迷ったらしい。首を吊っていても死にきれていない状態の人間を助けて後遺症で日常生活を送れないことを知っていた。だが、今助ければ問題ないと不言が見えたと言うので、二人で陸を下ろしたそうだ。
目が覚めるまで何日かかかったが、後遺症が出ずに済んだのは陸が鬼だったからだろう。
不言は陸が起きたら貴羅を育てる様になる言葉をかけてくれと那由他に言われたそうだ。
陸からは震災後に奥さんと似た人と縁が出来るのが見えた。一瞬だけだが陸が奥さんと思ってしまう暗示を貴羅が知らずにかけるので、貴羅と一緒で無いと出来ないものだった。なので「きちんと貴羅の父親を担えば奥さんに会える。」と伝えたらしい。
相手は京の妻だったので念の為に人妻であることも匂わせたそうだ。
陸の方はこれで放っておいて良い。少し時間がかかるが、一応立ち直る。だが、初めてあったときに貴羅は時々守らないと行けないのが見えてしまった。
艶さんの亡くなり方のせいで周りに鬼の娘って知られてしまい、貴羅は度々命を狙われることになる。陸では敵わない分、彼女に矛先が向くのだ。
石を投げられたり、すれ違いざまに蹴られたり。
不言は相手の顔を見て疑問に思ったことが、過去でも未来でも見えるそうだ。先読みは一人につき、一日に一回。二回目以降は身体への負担があるので滅多なことが無い限り控えている。その代わりではないが、一日一回を守るなら、何人やっても問題は無い。
大体の場合、普通に相手の顔を見た程度では起こらないのだが、貴羅の場合は不言が彼女に興味を持ってしまったせいで無意識でやってしまうことがあるらしい。
この子は何が好きだろう。どうしたら喜ぶだろう。この娘が困ってることはないか。将来、この子はどんな人と一緒になるのだろう…。
とある日も自身の好意による興味だけで貴羅のことを見てしまい、その日に貴羅は角材で頭を殴られ、彼女はしばらく動けなくなった。頭の骨が割れるほどだったそうで不言は深く後悔した。
「我輩の失態だ。」
後悔の念を抱きながら初めて会った日に貴羅と祢呼と取った写真の貴羅を「また元気になれるだろうか?」と眺めていると、今よりも少し大きくなった貴羅と祢呼が学校に通っているのが見えた。
この時に先読みは写真でも可能なことを知ったらしい。
写真では一枚に一回しか出来ないのと先読みで見えた時よりも前の時期に取った写真からだと見ることができない。なので先読みした時が過ぎたら貴羅と一緒に写真を取る様にした。
今回は撃たれたことよりも、少年の祖母に入っていた尻尾の方が危険だったのだろう。
「先読みになかったのに貴良ちゃんが頭を撃たれたと聞いて肝を冷やしました。」
もし、貴羅が撃たれなかったら女狐の尻尾はあのままだっただろう。貴羅が撃たれたのでこれで良かったとは思えないが、その事で不言を責めるのは筋違いだ。
「自分ではどうしょうもないことがある。仕方無い。この体もそうだ。自分の意志とは関係なく、決まった時間に人間で無くなる。」
「そう言えば貴方の使っている体は何ですか?日本にはいない族種の様ですが?」
「狼男とか狼人間とかって訳せば良いかな。満月の夜だけ狼になる。元の持ち主は狼の時の記憶が無くてその時は暴れている様だ。」
「貴羅ちゃんはそのことを知ってるんですか?」
不言が目を開いて己の顔を見た。
「あぁ。ただ、少年本人が知られたく無いから本人が言わない限り、貴羅からは話さないだろう。」
「…今、貴方の今日の一回分を使ってしまいました。」
「仕方無い。何が見えた?」
不言の返答は女狐を狩るのに有効だと思った。
「あと、もし可能なら…」
「貴良ちゃんの伴侶ですか?」
直球に言われるとは思わなかった。この青年も貴羅のことを好いてるのが分かる。
「…そうだ。終わったらこの体に少年の魂を還して貴羅に引き渡す予定ではある。」
不言は少し考えたようだった。
「何度か将来のことは見ましたが、緑子を抱いてる貴良ちゃんの横に、話せるくらいの小さい女の子が見えました。二人共目が黄色です。」
黄色。
「貴良ちゃんから聞いたんですが、その体の目は元は黄色かったんですよね?」
「その様だ。己が使いだしてから青くなった。」
己が不言か…。彼も同じことを思ってるだろう。
何の因果か本来の僕の目と不言の目は同じ色なのだ。
然のセリフ等が「貴羅」表記なのに
不言のセリフが「貴良」なのは
不言がキラの名前(漢字)を(貴良)だと認識しているからです。




