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嫌われ鬼娘と彼女に恋した─僕と己─  作者: ラーテル 弓倉


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お義母さん

私が後妻として嫁いできた時は、すでに義母の腕は片方なかった。


そのことに本人は今気づいて取り乱したので、過去に鬼屋敷に花泥棒しようとして腕を取られたと説明した。義母は自身がそんな端ない真似をしたことに心底驚いていた。


勤二さんから元々穏やかな人だったと聞いたので尻尾の影響だろう。



「あと、さっき質問されて義母さんが答えた年から、もう10年以上経ってますから。」


花泥棒の時は記憶がない…。どうやら尻尾が入っていた時の記憶はない様だ。あれは貴羅が生まれる前だったからかなり前からになる。


お義母さんを落ち着かせるために最低限知らないと困るだろうと思うことを時系列順に話した。


勤二さんは前妻さんと別れて、自分が後妻に入って子供がいること。四郎さんはドイツで結婚して息子を連れて戻って来たこと、前の震災で母屋がだめになり、座敷牢のある離れと蔵を家代わりに使っていることなど、とりあえず今最低限知らないと困りそうなことを話した。



他にも先の震災で無くなったご近所さんや親戚、十二階等の有名な建物がダメになったことも伝えたが、説明が終わる頃には落ち着いて来た様子だった。


「…○○さんと勤二はどうして離婚したのかしら…」


「〇〇さんはお義母さんが追い出したと聞きましたけど?」


いくらその間の記憶が無いとは言え、隣近所、みーんな知っている。私は黙って置かない方が良いと判断した。

前妻はもうすぐ産み月だという時に玄関(かまち)から落とされた。

前妻は助かったがお腹の子がダメになり、流産をネタに散々いびって追い出したのをお義母さん本人が私やご近所さんに得意気に話していたこともきちんと伝えた。


それを聞いた彼女の顔から血の気が引き、小さくしていた身体が益々小さくなった。






「地震…、〇〇さんは無事だったかしら?」

「一応、生きてるかどうかを調べる方法はあります。」


私は自分の部屋から埃を(まと)った箱から反魂香を取り出した。

「相手が死んだ時だけ煙がその人の姿になります。」

煙とは自由なので刹那に人の顔や姿に見えたりするが、反魂香は煙が切れるまでしっかりとその姿を保ってくれる。なので煙が出てすぐにぬか喜びさせないために説明してから燐寸(マッチ)を擦った。結果はすぐに出る。


「存命ですね。」

煙は他の線香と同じようにただ煙としてなにの形にもならずにただモヤモヤとしたうねりを続けているだけだった。お義母さんは安堵した。



時間も時間で、本人が落ち着いた様だったので、お義母さんにお茶を出してから私は夕飯作りを始めた。


夕飯が出来たので呼びに行くとお義母さんの姿が見えなかった。牢の方まで然さんを呼ぶがてら聞いたが知らないと言われた。 



心当たりは無いのかと言われたら一つだけあるのだ。

勤二さんの前妻さんのところだ。


ここに嫁いだ頃、昔の郵便物を調べてこっそり顔を見に行ったことがあるので家の場所は知っていた。皇居よりも西の方だったので前の震災では火事の被害はそうなかったはず。あれから何年も経つので本人がまだいるかは判らないけれど…。



然さんに娘と一緒に夕飯を取ってもらってる間に古い郵便物から○○さんの住所を再確認してから家を出た。


お義母さんはどのくらい前に出たのだろう?

もしかしたらもう家に戻ろうとしていて、道は何本もあるから行き違いになるかもしれない。



前妻の家に着くと、開いていた玄関の扉からお義母さん達の騒いでる声が聞こえて来た。

「本当にごめんなさい。」

「今更罪悪感が芽生えたからって誤りに来られたって迷惑です!いったいどの(つら)()げてここに来たんですか!!」


全くその通りなのだ。

「ごめんなさい。」

「悪いと思ってるのなら赤ちゃんを返してよ!!」

赤ちゃんは帰ってこない。

「○○さん、ごめんなさい。」


前妻さんの名前は何回聞いても覚えられない。

いつも名前のところで全ての音が消える。聞き取れたと思って覚えようとしても記憶に遺らない。

文字の時は虫食いの様にそこだけ何もない様にくすんで見えないのだ。その現象は同じ名前の他人にも起こる。



「そう思うのなら二度と顔を出さないでください。」

「本当に…」

「お義母さん、帰りましょう。」

埒が明かないのでお義母さんを起こして残った方の腕を優しく引いて家から連れ出した。


「お騒がせしました。」

それだけを発する時だけ家の中を見た。

私には〇〇さんと思われる人だけ顔が見えないのだ。

初めて見に行ったときも。今も。



「和枝さん、迎えに来てくれてありがとう。迷惑かけたわね。」

「大丈夫です。帰ったらお夕飯にしましょう。」

「ありがとう、いただくわ。」


帰路での会話はそれだけだった。

帰ると娘が出迎えてくれた。


それに対して普段、顔を合わせただけで暴言を履いていたお義母さんが愛おしそうに返したので動揺したのか娘が引っ込んだ。

「こんなに怖がられるなんて、あんなに小さい()にまで私は酷い人間だったのね。」


私は何も返せなかった。

お義母さんは少し一人になりたいと言って自身の部屋に行ってしまった。


一人分の夕飯を用意してお義母さんの部屋へ行った。声をかけても返事がない。中に入るとお義母さんは横になっていた。


「お義母さん…」


あぁ、やっぱりだ。()れると冷たい。お義母さんは亡くなっていた。


まだ主人は帰ってないので、然さん達に伝えようと座敷牢へ寄った。然さんは娘を寝かしつけてるのかいなかった。

「本来なら、かなり前に寿命を迎えてたのが、尻尾のせいで先送りになっていただけです。ナユさんが気にしなくて大丈夫です。」

不言が言うのならそうなのだろう。


死を持ってみんなから嫌われ、恨まれてしまった名前、形から開放されるのだ。そうでも思って少しでも魂が成仏されると良いのだが心の内は本人にしかわからない。


とは言え、彼女イビリのせいで私は甥にかなりあたっていたのは事実だし、きっと、(あの子)は私のことを恨んでいるだろう。私もお義母さんには狐のせいだったとしても許せないことがある。



「〇〇ちゃんなら今、然さんが寝かしつけてます。」

「…ありがとう。」


お義母さんが前妻さんと同じ名前を娘につけてしまったので、私は自分の娘の名前を覚えることも呼ぶことも出来ないのだ。

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