牢の中5 眉目秀麗
どこの誰だと言われても、今の女狐を直接見ていない。
昨日の今日で少し寝むたかったが、今日墨夫たちが来るのなら早めに女狐に関して色々と頼みたかったので学校へ行くことにした。
家を出る前に貴羅に声をかけた。
「もう家を出る。」
「…そう。」
動けそうなら途中から来ると言ったが今日は休めと返した。
学校に着くと祢呼と墨夫は辛そうだった。時々、寝てしまいそうな顔をしていた。
放課後、三人だけになると教室で墨夫に声をかけられた。
「こっそり持って来た。見るだろ?」
墨夫の兄の鎮夫が大学に入る前と、震災後とで撮った石見家の2枚の家族写真だった。
震災後のは玉藻の前の時と似ている。無意識に女狐が好む姿なのだろう。
「確かに、眉目秀麗だな。」
「びおく?」
「眉目秀麗。容姿端麗と同じ様な意味だ。基本、男に使う。」
死ぬ前の京も整った顔をしていた。二人、趣が違うので好みが分かれるだろう。
祢呼も横から覗き込み、崩れた笑みを浮かべる。
「貰うわけにはいかないよね?」
「バカかお前は。」
その後「うるさいだの」「ヤブ医者」だのの墨夫と祢呼の言い争いが始まったのを己は放っておいた。
二枚の鎮夫は同じ人物とは分かるが、普通、短期間でここまで顔が変わることは無いだろう。
己は紙を取り出して簡単に鎮夫とやらの胸像を描いた。
知ってる者なら誰を描いたのか分かるだろう。
「昨日は色々とありがとう。」
描いた絵を祢呼に渡した。
「わぁ~、ありがとう。」
祢呼は嬉しそうに鞄の本の中へ入れ込んだ。
墨夫は引いていた。
「なぜ家から持ち出したか聞かれたら祢呼に頼まれたといえば良い。そして絵の上手い者に模写させたと。筆子にもそう言っておいてくれ。」
持ち出した理由がなければ怪しまれる。
「ならそのお礼ってことで二人にあげる。」
祢呼が鞄から小さな箱を三つ出した。
「え、またくれんの?」
「ええ。」
きっと己と墨夫、貴羅の分だと思ったが、一つを己に渡すと、残りの二つを墨夫に渡した。
「一つは筆子ちゃんにだからね。」
「!…キラにかと思った。」
「そう思ったけど、今日、貴羅は来てないし、ふでこちゃんには今までどおりにスミオの妹、七歳の女の子として接するべきでしょ?敵の近くにいるのなら尚更じゃない。」
「一理あるな。己たちの筆子への対応で気づかれる可能性は大いにある。」
「…。」
筆子の名前が出たあたりから墨夫の顔が曇りだした。
「何か理由をつけて筆子ちゃんと喧嘩したことにでもすれば?二人、ぎこちなくてもその背景があれば納得されるんじゃないかな?」
「うーん…」
「あと墨夫、何でも良いから子供用の娯楽品を貸してくれ。」
「娯楽?」
「雑誌でも、玩具でも何でも良い。お前がもて余しているもので良い。このまま家に寄るので貸してくれないか?」
下校は途中で祢呼と別れ、二人で墨夫の家へと向かい、己は家の玄関前でしゃがみ込んで待つことにした。ここまで来た目的は匂いだ。
主にこの家から出入りしてるものは五つ。
己の知ってる墨夫と筆子のモノを除くと男が二つ、女が一つだ。その男のうち、禍々しいものを一番まとっているのが女狐の匂いで間違いないだろう。
女狐に対して色々と考えを巡らせていると墨夫から「少年倶楽部」と言う雑誌を渡された。
「一番古い、返せなくても良いヤツだから。」
「ありがとう。」
雑誌を鞄に入れると家路についた。
家の玄関に入る前から「やめて」とか「開けて」といった那由他の騒ぐ声がする。
匂いは己の使っている座敷牢からで少年の祖母の匂いもそこからする。
急いでそちらに行くと座敷牢の中で老婆が貴羅に馬乗りになって片方しかない手で貴羅の首を閉めようとしていた。
こんなことなら早く帰っていれば良かった。




