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嫌われ鬼娘と彼女に恋した─僕と己─  作者: ラーテル 弓倉


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牢の中4 権謀術数

はじめに接触してきたのは貴羅からだった。


筆子が敷地内の石を拾っていたら貴羅は中国語で話しかけて来た。急に「あなたは狐か?」と聞かれ、驚いて返事が出来なかったので、そのまま言葉が解らないふりで首をかしげてごまかした。


そんな筆子に貴羅は更に中国語で続けた。

「大陸の子だと思ったから中国語で声をかけたんだけどなぁ。」



そう言うと貴羅は浅いため息をついてから筆子に近づき、頭を優しくなでた。その頃の貴羅には角が片方は生えていたが見えていたので、筆子は相手は中国から来た鬼子で、言葉の通じる友達が欲しいのだと思ったそうだ。そう、この時までは。


「狐は血を抜いて煮込んで喰うもの。私等の敷地の中にいたんじゃ私に喰われても仕方ないわ。長く苦しま無いように早く済む方法で殺してあげるね。」

貴羅がゆっくりと筆子に手を伸ばした。


「いやっ!!」

筆子が嫌がり声を上げて相手の手を払うと貴羅は口を開いた。

「やっぱり分かってるじゃない。」

そう、日本語で。



玉藻の前の時も含めて殺された殆どに鬼が関わっていた。なので女狐にとっては貴羅も警戒対象になっていた。今の筆子は狐の体だ。中身は違うと弁明して理解される相手か分からない。それはそれで面倒だし、先に殺してしまおう。

そう身構えた筆子だったが、貴羅にはその気がなかった。


「カマをかけて怖い思いにさせたことはごめんなさい。でも貴女の魂が中身と違うことは見て分かる。」

「どうしてそうだと思うの?」


貴羅の説明によると生き物は中身の意志で体を動かすそうだ。筆子の様に中身と外身が違う者は体の方の記憶やくせに引っ張られて中身の意志と摩擦生じて、ぎこちなさが見え(己には全く解らないが)、更に 筆子の様に中身の種族が強いと体が悲鳴を上げてる様に感じるらしい。己が女狐だけは嫌な気配を感じられる様に、貴羅の場合は中身と外身が同じかどうかが分かるのだろう。


たしかに鬼は色んなことがわかる。風向きや天気、地震等の震災がいつ起こるかは殆どの者が分かる。寿命や病気の事…、極希に未来予知なんかが出来る者もいると言うが己には無い。




「貴女の中身が狐かどうかまでは分からない。けれど、お父さん達が探してる狐と関わりはあるのは間違いないでしょ?」


なぜそう思うのかを問うとポケットに詰めた「殺生石」を指摘された。それとちょっとした仕草で筆子が嫌々(いやいや)集めていることにも気づいてそれも指摘された。


「その狐が()る限り、帰って来られない人がいるの。貴女が私の邪魔をしたり、私の周りの人を傷つけないのなら私からは手を出さないであげる。」

筆子は女狐には逆らえない立場なのが見て取れたため、今後も殺生石を集め続けることを咎めなかっただけでなく、早く集める様にと促したと言う。




それから一週間ほど経ったある夜、墨夫の兄、鎮夫(しずお)が頭を撃たれて怪我して帰ってきたのだ。相手は配達員であった登木克視になった京だった。


撃たれたと言っても実際には派手に(かす)っただけで当日からケロッとしていたが他の家族のいる手前、つらそうなふりをして、しばらく通院していたそうだ。



その後、また鎮夫と筆子しかいない日に女狐が筆子に拳銃を渡して来たのだ。

これは先日、女狐に怪我を負わせた物だという。

「私を撃った配達員の物よ。」

これで「屋敷で話してた娘ー貴羅」を撃つ様に言われた。撃った後騒ぎになったら、近くの川原で拾ったと言うこと。ずっと人を食べる鬼を怖かったとか言ってれば今の貴方ならそう咎められないだろうと。

しかもこれが成功したら石を集めるのをやめて、完全に縁を切って良いとまで改めて断言された。


「まあ絶対にしないといけないわけじゃないから、筆ちゃんが好きな方を選んでね。」




その次の日、傷の経過を見るために朝から母親に付き添われて鎮夫は病院に行く。

この時しかない。筆子は登校に合わせては貴羅を探した。


その日は貴羅が己に話があると行った日、昨日だった。

貴羅を見つけたが己に声をかけていたので躊躇った。


どうしようかと見ていたら二言、三言だけ話して貴羅だけ歩みが早くなったのでそこを狙って話をしだした。


「とても大切な話があるの。貴女の生き死にに関わる。」

己に聞かせるわけにはいかないので、後ろを気にしながら話していたら己が二人を走って二人を追い越して行ってしまった。


女狐のお願いは絶対ではない。とは言え、お願いの内容から貴羅に目をつけたのは違わないだろう。女狐から言われたことは全て貴羅伝に伝えたそうだ。


「貴女から狐に私のことを話したことある?」

(わたし)からはしたこと無いよ。ただ、きらの女親やきらの存在は知ってたよ。」

私達の妹分だとは言わなかった。


「少なくとも、初めて会った時のことは筒抜けだったでと思う。」

貴羅は右手の親指と他の指とで丸を作って筆子に見せるようにした。

「殺生石が見聞きした事はお姉さまは吸収したからわかるって言いたいの?」

「ええ。でもまだ可能性の範囲を出ない。今は持ってる?」

「流石に朝からは拾ってないよ。」

「そう。今後、私達が話すときは殺生石が近くに無い時にしよう。」

今後、筆子が殺生石を持っているか、いないかを貴羅と会ったときに分かる様にしたそうだ。


「今日は先客があるから夕方…いや、日が暮れて、ほぼ夜になるけど良い?」

貴羅は屋敷の正面から敷地に出てそのまま左へ向かうようするので、適当な時に頭を撃つようにと言った。


「いや、流石に鬼でも危なくない?」

「もし心配なら何か越しに撃って威力を圧えたら良い。」

「うーん…。」

「その何かは私が用意しよう。」



合図もせずに撃って良いと言われたが筆子は偶然を装って木の枝を踏んで、貴羅が少し身構えたのを確認してから撃ったそうだ。

貴羅は持っていた鞄を貫通させて玉の衝撃を抑えた。


その鞄は今、貴羅の寝ている頭元にあって手に取ると重かった。

中は表紙の硬い本がいくつか入っていた。

日本語の中に一冊だけドイツ語の本があって、それは己が(ろく)に頼んだ本と同じものだった。どちらも中古だったがこちらの方が少し汚い。

開くと日本語で訳そうと沢山の書き込みがあった。

他の物ならともかく、これは少年が知ったら嫌がるだろう。狼男についての本だ。



「ねぇ…」

先より意識がしっかりしてきたのだろう。貴羅の目ははっきり物を見るような光を取り戻していた。

貴羅は己のシャツの袖を掴んだ。

「まだ筆子を殺してないよね?」

「ああ、大丈夫だ。今頃墨夫と家にいるだろう。」

「そう、なら良い。」

なんかすっきりしないな。


「筆子に自分を撃つように言ったんだな。万が一のことは心配しなかったのか?」

「今まで何度か殺されても生きてたからそれくらいで、死ぬことは無いと思ってる。」


「殺されてって…」

「おの土地で誰かが死んだ後は特にね。何回か刺された。角材で頭の骨にヒビが入るほど、殴られたこともあった。あと石竹君の時は兄って人が復讐を建前に服を脱が…」

「だまって!」

貴羅の言葉を遮った。


「もういいから!僕はキラが傷付いて欲しく無いんだよ!そう、危ないことしないでよ!!櫛なんかまた買えば良かったんだし、目だって返さなくて良いんだ!!」



遮ったのは(少年)の方だった。己もこの先を聞きたくなかったので貴羅が続けていたら己の方も止めていただろう。

突然の少年の叫びに貴羅は驚いたがすぐに己の顔を別な意味ー、不思議そうに見だした。


「やっぱり。」

「?」


「貴方からアドルフが出てくるとき、その時だけだけど必ず瞳の色が変わる。」

「そうなのか?」

目の色なら(オレ)自身で判断ができない。

「元々のアドルフの目は琥珀色(きいろ)だった。」

「そうなのか?」


「貴方がアドルフの身体に入ってからは濃い縹色(あお)になった。でもアドルフが出てくるときだけ碧色(みどり)になるの。」


そう言えば毎日貴羅を見ると少年から借りた左目は琥珀色(きいろ)だった。毎朝自身を鏡で見たときに右目が青かったので見るたびに抱いた違和感はそこだったのかと改めて気づきれた。



「黄と青の間に緑にが在るから、アドルフが出るときは体が元の形に戻ろうとするのだと思う。」

筆子から聞いた貴羅がわかると言う摩擦が起こっているか聞いてみた。

(みどり)色の時には起こらない。今さっき叫んでた時もだけど、貴方が墨夫を投げた時もそうだった。」


目玉を戻した後、己か僕(どちら)なのかの判断基準が出来たわけだ。

「あとは貴方が私を見つけた時は刹那に戻るわ。」



「 …そうか。……さっき那由他(ナユタ)に呼ばれてたから少し出てくる。」

そう言い残して己は牢の中からは出た。






ははははは。


あれらの全ての感情は少年のものか。これで心置きなく少年に、貴羅に、この体を返すことに未練を待てなくなる。

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