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白い野牛  作者: 毛玉丸子
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出会い ―赤い人―

俺はそのバッファローを見たときとても驚いた。白かったからだ。そして、とても、とても、美しかったからだ。




その白いタタンカ(バッファロー)の子供が自分の目の前に現れたときは思わず息を飲んだ。時は既に夕暮れ時で、地平線に沈もうとする太陽が、その白いタタンカを背後から照らしでいた。その赤い光に白い毛皮の毛先は真っ赤に染まっている。そのまま根元に行くに従って白さが残っている様はまるで毛皮が燃えているようにも見え、タタンカの呼吸に合わせて毛皮がうごめいている様がますます炎を思わせた。そして、そのタタンカの黒い瞳はまっすぐに俺を見つめていた。

元々、俺はハンブレチア(ビジョン・クエスト)を行う為に村を出たはずだった。しかし、ハンブレチアを行う山へと向かう途中でのこの出来事は、俺に既にハンブレチアが始まっているのではと思わせた。なぜなら白いタタンカといえば、我々の部族において白いタタンカの子供に姿を変え、ワカンタンカ(大いなる神秘)の存在を教えた乙女、プテサン・スカ・ウィンの話を思い出させる神聖な生き物だからだ。俺は、この白いタタンカこそがワカンタンカから自分に示された啓示ならば良いのにと思った。しかしながら、残念なことに此の時の出来事はハンブレチアではなかった。すぐにそれが現実のものだとわかったからだ。タタンカの湿った鼻面が手に押し当てられ、その冷たさに俺ははっと目覚めた。

「白いタタンカよ。どうか俺をハンブレチアを行うにふさわしい場所へと連れて行っておくれ。」

俺の言葉にタタンカはその瞳を以て返してくれた。やがてゆっくりと歩き出したタタンカの後を俺はずっと着いていった。それは酷く長い時間だった。俺はその間、何も口にすることは出来なかった。それはタタンカも同じだった。タタンカの歩みは非常にゆったりとしたものでその間に俺が何かを口にすることは出来ただろう。けれども、俺はタタンカのその姿にすっかり見とれていた。俺がタタンカの後を着いていったのはまるで恋に落ちた男が相手についつい着いて行ってしまうのに似ていた。




やがて、太陽がまた再び落ちる時がやってきて、タタンカの歩みは止まった。

俺は一体、どうやってこんなところまで来たのかさっぱりわからなかった。けれども気がつけばそこには大きな一枚岩があった。柔らかな緑の絨毯に覆われた大地で、そこだけ茶色の荒れた肌をさらしたその岩の上に俺はよじ登った。タタンカの蹄ではこの岩には登れないのだろう。彼は静かに岩の下に寝そべった。

岩の上に横たわる。オーサ(聖域)なんてものは作らなくても、獣に襲われることはない、というよくわからない自信があった。白いタタンカがいるからかもしれない。

やがて、俺の肌を焦がしていた太陽は沈み、月の冷たい光が俺の体を冷やした。月の冷たい光が去ったかと思うと、この身を焦がす太陽が昇った。そして、また太陽が沈み、月が昇り……。そんな日々が続いた。もう幾日過ぎたかわからなくなっていた。

ただ、俺はワカンタンカへの祈りを捧げていた。どうか、俺へ啓示をください、と。ずっと、身じろぎもせず、飲み食いもせずに岩の上にいたが、それに対する苦痛はまったくないといってもよかった。

やがて、俺は自分が夢にいるのか現にいるのかさっぱりわからなくなった。しかし、その時、目の前にとある光景が見えた。白いタタンカ―それもあまり大きくはないタタンカだ。大人と子供の中間地点のタタンカだろうか―がふわふわと影のように踊っていた。その白い体は色とりどりの布で飾られており、また不思議な模様が多彩な染料で描かれていた。その背には男が乗っていた。小柄だが、たくましい体つきだった。

やがて、タタンカはその男よりも小さな人に姿を変えた。細身のすらっとした人である。長く伸ばした黒い髪を一房だけ結っているのが、プテサン・スカ・ウィンをますます思わせたが、俺はその人が男であるということに気がついた。胸が平らであったからである。彼は男の隣に寄り添うようにして立っていた。二人はとても幸せそうである。やがて彼は男の手を引いてどこかへ行こうとする。男はそれに素直について行く。そのまま、その光景はちょっと強い風に吹かれたチャヌンパ(パイプ)の煙のように千々に千切れてしまった。

俺は岩の上でその身を起こした。まるで自身も岩になったかのように体が固かった―何日も動いていなかったのだから当たり前なのかもしれないが―。

俺はゆっくり体をほぐした。気がつけば朝日が紫色の空をその光で引き裂きながら昇っていくところだった。すがすがしい朝である。きっとこれほどすがすがしい朝は一生のうちでもう二度と無いだろう。

改行というものは難しいですね。その点も含めて手を加えることがあるかもしれません。ちなみに今回は攻め視点です。

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