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第三の幽霊

三日後の昼過ぎ、細木さんは再び神社にやってきた。


その顔には疲労と苦悩の色がありありと浮かんでいる。


「どうですか?あれから良い案は浮かばれましたか?」


「いや……正直どうしたらいいか……まだ分かりません」


「そうですか……。その……おじい様にも御相談いただきましたでしょうか?」


「はい……でも『お前がやれ』の一点張りで。ただ……」


「ただ?」


「霊に関して見落としている情報はないかもう一度確認しろとだけ言われました」


「なる程。彼らに関する他の情報ですね」


「そもそもあいつら、日本語上手くないですか?」


「それについては調べがついています。元々彼らは日本オタクで何度も渡航歴があるようです。移住してからはさらに言葉が上達したんでしょう。自分達を弾圧する母国の言葉を憎んでいた節もあります」



仕事柄とはいえ細木さんの情報収集能力にはいつも舌を巻く。


警察や探偵などの情報調査会社とも顔が利くようだ。


「でも……そもそもどうして日本に移住してきたんでしたっけ?」


「確か母国で同性愛が禁じられていたのもありますが、二人とも露出性癖の持ち主であったことも分かっています。ラブラブスタンでは公衆猥褻罪の最高刑は死刑だそうですから……。それともう一つお伝えしていない情報があります!」


「え!」


「二人を執拗に追い回す男がいて、そいつから逃れる意味もあったようです。彼は2人が日本へ移住した直後、後を追うように日本へ渡っています」




なに……!




その話に俺は喰らいついた。


「細木さん!その男の情報についてもっと詳しく教えてもらえませんか!」


「え!はい。結構ですが……実は彼は2人の事故の翌日に自殺していまして……」


「自殺!」


さらに俺の目が光る。


「構いません!頼みます!」


「分かりました。なんとか解決に向けてよろしくお願いします!」


細木さんは祈るように俺に対して頭を下げ、《第三の男》について詳しく教えてくれた。


(こいつは使えるかもしれない!)


俺はこの男に望みを託すことにした。




1週間後の満月の夜。


俺はパトロールカーに同乗して再び現場に向かっていた。


「あれから毎晩出没しているようですね」


「はい……。二人の行いは益々エスカレートしてまして。言葉に言うのも憚られるような状態です」


(あの晩以上って……一体どんな状態なんだ)


俺の身がかすかに震えた。


「このままでは通行止めしなくてはならなくなります。なんとか……よろしくお願いします」


「ええ。今宵はこいつにかけてみます……」


そう言って俺は狩衣(かりぎぬ)の袖から、青白く光る人形に切られた紙を取り出した。



中央分離帯に近づくにつれ、変態カップルの激しい 嬌声が響いてくる。


「オオオオオ!!ロリアナ!君の唇はバラとルビーの至高のコラボレーション!君の瞳は1億カラットのダイヤモンドも平伏させる!君の尻は東洋の天上界に実るという蟠桃(ばんとう)も及ばない!全ては!全ては私のものだあぁぁぁ―!」


「アアアアア!そうだよ!そうだよ!全部あげる!全部ミハエルにあげる!髪の毛 一筋まで全てあげる!だからミハエルのも僕のものだ!全部僕のものだ!愛!愛!愛!愛!アイアイアイアイ―――ン!!」




やばい……。



こいつら本当にやばい……。




俺は正直逃げ出したくなってきた。



しかし落ちくぼんだ目で……祈るような顔で俺を見つめてくる細木さんの顔を見るとそういうわけにもいかない。



「行くっきゃない!」


俺は中央分離帯に横付けされたパトロールカーから気合を入れて飛び出した。


奴らはこっちに目もくれず、激しく絡み合ってやがる。


俺はド変態カップルの前に立ち睨みつけた。


そして懐から先ほどの形代(かたしろ)を取り出した。


「見てろ!お前らの営みをぐちゃぐちゃにかき乱してやる!」


そう言って形代を右手で前に掲げ、左手で印を切りながら呪文を唱えた。


ぼーっと形代の光が増し、煙のようなエクトプラズムが吹き出してくる。


それは人の姿を形取っていく。


やがて、磨き上げられた筋肉に全身が覆われた、全裸髭面の男が発現した。



「ほ、ほう!これが霊体召喚ですか!」


細木さんがメガネを整えながら興味深げに凝視する。



そしてマッチョマンを見た変態カップルは二人とも同時に絶叫した。



「ジュリアーノ!」



「おお!愛しのロリアナ……。会えて嬉しいよ!」


ジュリアーノは艶のある重低音で嬉しそうな声をあげる。



ロリアナは眉間にしわを寄せて全裸マッチョマンを睨みつけた。


「一体何しに来たの!もう顔を見せないでって何度も言ってるじゃない!」


「ロリアナよ……。つれないことは言わないでくれ。こうして自ら命を絶ってまでお前に会いに来たのに。あんなに愛し合った中じゃないか!」


「そんな昔の話は言わないで!今、僕にとって……ミハエルが全てなんだ!死ぬことによって二人は永遠に結ばれたんだ!君はもう関係ない!」


「美の天使よ……。私はお前が死んだと聞いた時、深い悲しみに落ちた。そしてあの世まで追うことを誓い、お前の写真を胸に抱いて全裸で東尋坊の崖から飛び降りたんだ。しかしお前は……そんなつまらない男と寄り添っている!」




「あの……晴朗さん。彼は全裸になる必要があったんでしょうか?」


「しっ!聞こえるよ!細木さん。黙って見守りましょう」



こいつら同類なんだって……細木さん……。




「うるさい!もう僕はミハエルのものだ!君なんかあっちに行け!」


「そんなわけにはいかない。お前はそいつと別れて私と天国に行くんだ。さあ……こちらにおいで!」



手を差し伸べるジュリアーノ。



(よし……頑張れ!その調子だ!髭面全裸マッチョマン!)


俺は思わず手に汗を握った。



しかしその前にミハエルが立ち塞がった。



「私の愛しいロリアナに迫るのはやめろ!ジュリアーノ!」


「邪魔するな!ミハエル!この泥棒猫め!」


「未練がましいぞ、ジュリアーノ!もうロリアナの心はお前にはないのだ!」


「そんなわけはない!ロリアナ……お前の本当の気持ちを聞かせてくれ」



ロリアナはミハエルの背中に隠れて顔だけをそっとのぞかせた。


「本当だよ……。僕の心は君から完全に消えた。もう君とはとっくに終わってるんだよ……」


「そんな……ロリアナ!嘘だと言ってくれ!」


「嘘じゃない……。ジュリア―ノ。さようなら」



それを聞いたマッチョマンは愕然として目を見開いた。

 

そして天を仰ぐと絶叫しながら泣き出した。



「ロリアナ!嗚呼、ロリアナ!うがあぁぁ――!」



ところが ジュリアーノはひとしきり泣いた後、ロリアナの前に立ちふさがるミハエルの裸体をしげしげと眺め始めた。


「しかし……ミハエル。君の肉体も……こうしてじっくり見れば……なかなかに美しいな!」



(はぁ!何をうっとりしてやがる……)



 

「ジュリアーノ。僕の裸はそんなに美しいかい?」


「ああ!均整の取れた素晴らしい体だ。君はこんなに素敵だったんだね。もしかしたら……君を愛せるかもしれない」



(マッチョマン!お前、何を言い出すんだ!)



「どうだろうロリアナ。お前がミハエルと別れる気がないなら、私が彼も愛そう。そうして3人で愛を深めないか?」



(マッチョマン!頼むからそんなこと言わないでくれ)



「僕……ミハエルと別れなくて済むならそれでもいい」


「ミハエルはどうだ?」


「私も、もしかしたらジュリアーノの肉体に魅了されてしまったのかもしれない。君を受け入れるよ」



(だ、駄目だ!駄目だ!駄目だあ!)



「おお!ミハエル!」

「キャハ!ジュリアーノ!」

「嗚呼!ロリアナ!」



3人は激しく交互に抱き合い愛の咆哮を上げ始めた。


 

(う、嘘だろ……何でこうなるんだ……)




凄まじく繰り広げられる地獄の3 P狂宴を前に、俺と細木さんはなすすべもなく茫然と立ち尽くすしか無かった。





次回  晴朗は最後の手段に打って出る











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