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中央分離帯の幽霊

次の日の深夜、早速俺は道路巡回パトロールカーに同乗して現場に向かった。


京都第ニ縦貫道の大原野附近は亀岡インターチェンジからそう遠くない距離である。


30分ほど走行すると、やがて現場の中央分離帯が見えてきた。


腕時計に視線を落とすと2時を少し過ぎている。


「あれ……お分かりになりますか?」


細木さんが小刻みに震えながら指をさす。


俺は指先の方角のガードレールに挟まれた場所に目を凝らしてみた。


「ええっと……あっ!なんか……男ニ人が抱き合ってる!」


「はい。今夜もいますね。近くに駐車します」


パトロールカーは中央分離帯に横付けした。


規制車線をコーンで絞り、電光掲示板と警告灯が設置される。


そして車を降りてガードレール内に入った俺は言葉を失った。



半透明で、かすかに白光りする全裸の男性2人が抱き合いながら、お互いにディープキスを繰り返しているのである。


そしてキスの合間に 2人は見つめ合い、何やら激しく情熱的に言葉を交わしている。



「嗚呼!ロリアナ!愛しい ロリアナ!君はなんて可憐で美しいんだ!君の瞳を見るとき……私の心は張り裂けそうになる。いや!全身もバラバラになりそうになるんだ。君は全身が美の刃なんだ!」


長身で彫りの深い顔立ちの黒髪男がそう言い放つと、小柄で金髪の美男子の唇にキスの嵐を浴びせた。


「ミハエル!嗚呼!ミハエル!そんなに激しくされたら僕は壊れてしまうかも……でもそれでもいい!僕はミハエルの情熱を!愛を全て受け止めるよ!」


ロリアナはまつ毛の長い大きな瞳を潤ませながら、自ら背伸びしてミハエルに接吻し返した。


「嗚呼!至福だ!愛の津波だ!ロリアナから放たれる巨大なバイブレーションに僕は飲み込まれ 、パラパラになり、そして生まれ変わるんだ!そして私は新しい体で再びロリアナと1つになるんだ!さあ背を向けて!君の全てを僕に見せてくれ!」


「うん……分かった!恥ずかしい……。とっても恥ずかしいよ。でも嬉しい!愛してくれるんだね!1つになれるんだね!全てミハエルに委ねるよ!僕の体は全てミハエルのものだ!もうどうなったっていいんだ!」



俺はこの時点でかなり嫌な予感がした。


しかし亡霊の怒涛の勢いは止めようがなかった。



恥じらいながらお尻を突き出すロリアナ。


それに向かってミハエルは突撃した。


「クアアァァ――!私たちは一つだ!愛の結晶体の完成だ――!」


「ミハエル―!愛!愛!アイ――――!!」





 

――やりやがった…………。



――ついにやっちまいやがった………。





「晴朗さん!晴朗さん!」


「はっ!細木さん……。」


「大丈夫ですか?」


「すいません、あまりの光景にフリーズしてしまって……」


「その……何か手立てはありそうですか?」


「うーん……。ひとまず霊に話を聞いてみることにします」


「え!彼らにですか?」


「はい。霊の考えていることがわかれば、なにか解決につながる手立てが得られるかもしれません」


「分かりました。でも気をつけてください」


「ええ。ありがとうございます」


そう言うと俺は意を決して、必死に腰を動かしているミハエルに向かって声をかけた。


「あの。ミハエルさん……。お取り込み中大変申し訳ないんですが、ちょっとよろしいですか?」


「な、何ですか!君は!」


「あの……ここは公道なんで。2人で乳繰り合うのはやめてもらっていいですか」


「なぜだ!なぜ君は私たちの崇高な愛の営みを邪魔するんだ?私はロリアナを愛しているのだ!」


「いや……その……愛し合ってもらうのは全然結構なんですけども……ここではやめて欲しいんですよ。あなたがたに気を取られて事故も起きてるし、はっきり言って迷惑なんです」


「私達の愛に一点の曇りなし!この崇高で美しき交わりの姿を皆に見られる事こそ天使の祝福、我らの願い!」


「あの……。あんたらもしかして露出狂の変態さんですか?良くないですよそれ!」


「ミハエル!こんな奴の相手は止めて!僕だけを見て!」


「おお!ロリアナ……すまない!私はいつだって君だけを見つめているよ。好きだ好きだ好きだ―――!」


「嗚呼!ミハエル!愛!愛!アイ――――!!」


2霊は俺を無視して激しく絡み始めやがった。



(駄目だこりゃ……)


ため息をつく俺に細木さんが恐る恐る声をかけてくる。


「あの……差し出がましい様ですが……あなたのお祖父様はお札の様な物をよく使われていたと思います。そんなのはダメなんですか?」


「《退魔の札》ですね。あるにはあるんですが……今回は二体いますからねえ。《七人ミサキ》が良い例なんですけども、数が複数になると難易度があがるんですよ」


「しかしこのままでは……。一応試してもらえませんか?」


「仕方ありませんね……」


俺は気乗りしなかったが、他に手立ても思いつかない。


懐から呪文の書かれた紙の札を二枚取り出し、中指と人差し指で挟んで、2霊に向かって投じた。


札は滑るように飛び、性行為に夢中になっているミハエルとロリアナの背中にピタッと張り付いた。


「オンタタギャトウトハンパヤソワカ……」


俺はそれに合わせて指で印を切り退魔の呪文を唱える。


「く!くあああああ!」

「きゃ!く、苦しい!」


2霊は身をよじって苦しみだした。



「お!いける!いけますよ!晴朗さん!」


細木さんは歓喜の声を上げる。



しかし、2霊は強く抱き締め合うと互いの名を絶叫した。


「ロリアナ――!」

「ミハエル――!」


すると、2人の体が白く発光して、背中の札が2枚共剥がれ落ちてしまった。



「え……なぜ?」


唖然とする細木さんに、俺は冷めた声で説明する。


「二人の愛の力で退魔の札に打ち勝ったんですよ。やっぱり無理だったか……」


「そ、そんなあ……」


細木さんはがっくりと肩を落とした。



「嗚呼!嗚呼!二人の愛をさえぎるものなど存在しない!ロリアナ!好きだ好きだ――――!!」


「ミハエル!そうだね!僕たちの愛は永遠だね!愛!愛!アイ――――!!」


また激しくディープキスをし合う2人。




(こいつは弱ったことになったぞ……)


激しく絡み合う亡霊の姿を見ながら、俺は唇をぎゅっと噛み締めた。






次回  晴朗は《第三の霊》を呼び出す。










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