第2話 僕の人生が変わった日
次の日、僕はクラスの当番だった。休み時間にクラスの女の子と一緒に黒板を消していると、先生が僕に声をかけてきた。
「桜庭くん、灯町だったわよねえ」
「はい」
「それじゃ、ちょっとお願いがあるのだけど、頼まれてもらえるかしら。白神くん、ずっとお休みしているでしょう。プリントがたまっているから、届けてあげてほしいの」
今までは先生が持って行っていたのだけど、今日から保護者会があるから、持って行くのが難しいんだって。
僕はしらがくんに会いにいけると思ってうれしくなった。
「わかりました、行きます」
「家はわかる?」
「わかります。前にせとくんからききました」
せとくんは出席番号でしらがくんの次の子だ。そのせとくんが教えてくれた。この間しらがくんと一緒に行った神社の近くにある集落の中に一軒だけアパートがあって、そこがしらがくんの家だと。
僕がせとくんからきいた話を伝えると、先生はうなずいた。
「そう、そこのアパートよ。そこには白神くんとお母さんしか住んでないから、どの部屋か迷うことはないわ」
それでも、部屋番号は101だと教えてくれた。
放課後、僕は学校を出るとしらがくんのアパートに向けて歩いて行った。ちょっとうきうきした気分になっていた。
でも、しらがくんのアパートの近くまで行ったとき、その気持ちは急にしぼんでしまった。
しらがくんのアパートはとても古かった。家の周りは草がぼうぼうに生えていて、その間にごみが埋もれたようになっていて、僕はおそるおそるアパートの101号室の玄関の前まで歩いていった。なんだか変なにおいもしていた。
僕は玄関のチャイムを鳴らした。家の中から、どなた、と女の人の声が聞こえた。多分、しらがくんのお母さんだ。
僕は震えそうになる声を我慢しながら言った。
「あの、しらがくんに学校のプリントをもってきたんですけど」
すると、玄関のドアが少しだけ開いた。隙間ぐらいにしか開いてないところから、大人の女の人がこちらを覗くように見ている。
「つるぎのクラスの子かしら?」
「はい。先生に頼まれて持ってきました」
僕は細くあいたドアの隙間からプリントを差し入れた。しらがくんのお母さんはそれを受け取ると、するすると中に引き込んでいった。そしてドアはゆっくりと閉じた。
僕はどきどきしながら、でもほっとしながらアパートのドアに背を向けた。
と、敷地の前の道路にしらがくんがいた。
「よう」
声をかけられて、僕はなんか泣きそうになりながらしらがくんに駆け寄った。
「なんだ、外にいたんだ」
「うん。どうした」
「今、プリントを家に届けてきたところだよ。後で見てね。宿題のプリントとかプールのお知らせとかあるから」
「ああ、そっか」
そう言って、しらがくんは僕の手をとると、僕の家の方へと歩き出した。
「お前、今日はもう帰った方がいい」
「でも、せっかく来たんだから、一緒に遊びたいよ」
「んー、そっか。そうだな。じゃあ、昨日の神社に行こう」
神社はしらがくんのアパートと僕の家の中間にある。ちょうどいいなと思って、神社に行った。昨日みたいに太鼓はしごの上にあがって、でも何をするわけでもなく二人ならんで座って足をぶらぶらさせながら、町をただ見ていた。
僕はしらがくんにきいた。
「なんで学校に来ないの?来ればいいのに」
「んー、別に?行く必要ないかなって」
「でも、来たらきっと楽しいよ。すくなくとも僕は楽しい。しらがくんと一緒に昼休みとか遊べるってことでしょ」
「ん……しらが?俺の髪のこと?」
しらがくんは真っ白な髪の毛を引っ張りながら言った。しらがくんの勘違いに僕は笑い出す。
「違うよ、しらがくんの名字でしょ。でも、そうだね。下の名前で呼んだ方がいいのかな。たくみって名前、かっこいいもんね」
「たくみ。うん、そっちの方がいい。そんじゃ、お前は司な」
「司?なにそれ。僕のあだ名ってこと?いいよ、別にそれで」
僕は言いながら、その呼び名がしっくりくる感じがした。ゆかり、という名前は女の子に間違えられるから嫌だったんだ。司、なら間違えられることはない。
それから少しして、僕は家に帰った。家に帰ると、居間にお父さんがいた。今日は夜勤明けだったんだ。夜勤明けのお父さんは結構のんびり寝たりゲームをしたりしているものだけど、今日はきちんとした様子だった。
居間には、お父さんだけじゃない、お母さんもお姉ちゃんもお兄ちゃんもいた。お父さんは静かだったけど、なんだか怒っているようにも見えた。お母さんはちょっとおびえている感じ。お兄ちゃんはつまらなそうにしているけど、これはいつものこと。
そしてお姉ちゃんは見るからにうきうき嬉しそうにしていた。
居間に入った僕を見るなり、お姉ちゃんは言った。
「あんた、もうこの家の子じゃなくなるのよ。一学期が終わったら出て行くことになったから」
「希空、黙って」
お父さんを気にしながら、お母さんが言った。お父さんはただお姉ちゃんを見た。それだけでお姉ちゃんは黙る。
お父さんは僕に言った。
「お前は、親戚の神村さんの家にもらわれていくことになった。夏休みに入ったらすぐに神村さんの家に行く。そのつもりでいろ」
僕は頭の中が混乱した。
次のお話でこの作品は終わります。次話は前半にストレスのかかる部分がありますが、すぐにピンチは脱するので安心して読んでください。_




