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百花征く剣 ~ 殺して奪うか、“えっち”して複製するか ~  作者: 凪山キコ
第四章 モノ・インフィニティ編

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190 解放の朝と変わりゆく氷華

 メスのゴブリンの“セインテス”に変身し、ケンイチの奴隷だった女性冒険者七人を〈覚醒(アウェイク)〉で順に起こしていった。食事を与え、事情を聞くためだ。レオニアも呼び、全員に夕食を配ったあと、七人から話を聞いた。

 彼女たちは奴隷の両親から生まれ、生まれたときから奴隷として育ったという。平民に道具のように扱われることが当たり前の環境で育ち、そのまま大人になった者たちだった。ケンイチや他の男に無理やり抱かれることも当然のこととして刷り込まれており、これまでの扱いに対して特別な怒りや精神的な傷はないという。ケンイチに対しても、特別な感情は抱いていなかった。


(こんな人たちがいるなんて、想像もしていなかったな)


 エヴァルシアで生活することを告げても、それは俺からの命令だから従う、という態度に変わりはなかった。奴隷から解放すると言っても、実感が湧いていない様子だ。普通の生活に慣れるまでには、相応の時間が必要だろうと感じた。



 一階の牢にいる、女性化している騎士団員六人にも夕食を届ける。最後に主寝室へ向かい、クラウディアを〈覚醒(アウェイク)〉で起こした。俺の姿を見た瞬間、彼女は目を見開く。


「メスのゴブリン!? 噂には聞いていたが、本当に存在したのか……」


 そういえば、クラウディアの前に現れるのは初めてだ。


「クラウディア、そこに下着と服、靴を置いてある。身につけろ。着替えが終わったら食事を用意する」


 “アリス”に似せた声で告げると、クラウディアは無言で着替え始めた。やがて身支度を終え、ぽつりと口を開く。


「私は……オーブを渡したのか?」


 自分の中からオーブの魔力が消えていることに気づいたらしい。やはり、自分の意思で渡した記憶はないようだ。


「ああ、オーブは貰ったよ」


 そう答えると、クラウディアは悔しげに唇を噛みしめた。


「私を……私を手込めにした男はどこだ!? 会わせろ!」


 今はゴブリンの姿だ。会わせるわけにはいかない。


「断る。あきらめろ」


 一蹴したが、クラウディアは食い下がる。


「一目でいい! 顔だけでも見ておきたい!」


 しばらく押し問答を続けるうちに、違和感を覚えた。頬が、わずかに赤い。


「会ったところで何も変わらないだろう。なぜ、そこまで会いたがる?」


 騒いでいたクラウディアは急に静まり、小さな声でつぶやく。


「その男なら……私の夫にしてやってもいい……」


 顔を染めるクラウディア。嘘だろう。あれは拷問のはずだった。

 だが冷静に考えれば、拷問であれ精神的な“治療”であれ、やっていることに違いはない。俺に依存させるという点では、結果は同じということか。


「大人しくしていれば、会える機会もあるかもしれないな」


 そう告げ、食事を与える。エルマの料理は相変わらず出来がいい。クラウディアは文句ひとつ言わず、むしろ感心した様子で平らげた。



 その日の定期連絡で、現在の状況と保護している奴隷たちの件をセレナに報告する。モニター越しのセレナが口を開いた。


『ケンイチという勇者が連れていた七人の奴隷の女性と、レオニアという元ドランヴァール王国竜騎士団の女性は、エヴァルシアに連れ帰っても問題ないでしょう。レオニアはドラゴンの件があるけれど、それは後で考えるとして……騎士団のほうはまずいわね。騎士団長を奴隷にしてエヴァルシアへ連れ帰ったと知られれば、戦争になりかねないわ』


「一応、クラウディアと騎士団の六人には、エヴァルシアとの関係が分からないよう接している。やはり七人はダンジョンクリア直前で解放するしかないか。クリア後はおそらくダンジョンコアに向かうだろうし、連れてはいけない」


 結局、クラウディアを含む騎士団の七人は、石板にオーブを嵌める前に〈熟睡(ディープスリープ)〉で眠らせ、階段エリアに放置する方針となった。

 モニターの前に、セレナと交代してリディアが現れる。


『アレスさま。明日ですが、ケンイチという勇者の奴隷だった女性七人だけを、いつも通りエヴァルシアへ連れ帰ります。奴隷契約を解き、これまでと同じように地上へ送り出してください』


「わかった」


『そして明後日、レオニアを地上へ送ってください。私たちは彼女とともに軍の放牧場へ潜入し、レオニアのドラゴンを連れ去ります。他にもドラゴンがいれば、従魔の主を書き換えて奪取します』


 放牧場への潜入か。リディアたちの実力なら問題ないだろう。だが、彼女は続けた。


『レオニアに〈身体強化〉、〈気配察知〉、〈気配遮断〉、〈魔力感知〉、〈念話〉を渡しておいていただけますか。潜入には必須です』


 〈念話〉以外はレベル付きスキルだ。直接付与するしかない。……仕方ない。眠らせて行うか。


 その夜、レオニアを〈熟睡(ディープスリープ)〉で眠らせ、指定されたスキルをすべて渡した。


 ◇


 翌朝。

 予定通り、ケンイチの奴隷だった女性七人の奴隷契約を解き、地上で待機しているリディアたちのもとへ向かわせた。


 その後、巨人エリアの奥へ戻る途中、ラグナが声をかけてくる。


「少し見ていかない?」


 朝、階段エリアへ向かう際にも気づいていたが、五十人以上の冒険者が最初のオーガの集落へ一斉に攻め込んでいた。

 このダンジョンに残る魔物はここだけだ。魔力を感知できる者なら、この先にすべてのオーブが集まっていることも察しているだろう。だが彼らの実力は、よくてAランク相当。大半はBランク程度だ。最初の集落を殲滅するだけでも手間取っている。


「放っておいていいだろう。奥までは辿り着けない」


 ラグナとベルガも同意する。


「そうね。この調子じゃ、私たちのほうが先にクリアするわ」

「この程度では、どこかで行き詰まるな」


 その日は、奥のオーブを置いているエリアで静かに過ごした。巨人の王を倒すのは、明日レオニアを地上へ送ってからの予定だ。


 やることもなかったため、どうせ元に戻す予定の騎士団員六人を男の姿へ戻しておいた。武器以外の装備は、女性化しても着せたままだったので、そのままにしてある。


 クラウディアは、拷問の際に〈美容〉をレベル8まで上げた影響なのか、身だしなみに強い関心を示すようになった。化粧水や乳液を要求するので、エヴァルシア商会で扱っている品を、無地の瓶に移し替えて渡す。鋏と櫛も与えると、自分で丁寧に髪を整えた。

 もともと整った顔立ちだったが、さらに磨きがかかったように見える。


 初対面では氷のように冷たい印象だったクラウディアが、鏡を覗き込みながら、どこか柔らかな表情を浮かべるようになっていた。

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