188 竜騎士と鋼の意志
騎士団長クラウディア側のミノタウロスのオーブが見当たらない。
ラグナが言った。
「アレス、オーブの魔力反応からして、クラウディアが自分のアイテムボックスか亜空間に収納していると思うわよ。殺す?」
ケンイチのそばにオーブが現れたときのように、クラウディアを殺せば出てくる可能性は高い。だが――
「いや、殺すのは最終手段にしよう。まずは俺が、クラウディアに出してもらえるよう交渉してみる」
「そう? じゃあアレスに任せるわ」
そのとき、ベルガが悪魔の王がいた城から、両腕と片足を欠損した奴隷の女性を連れて戻ってきた。
「ベルガ、大丈夫だったか?」
「ああ、なんとか生きていた」
そう言って、抱きかかえていた女性を俺に見せる。俺は呼吸を確認すると、その場に三十部屋ある元貴族の屋敷を出現させた。
「ベルガ、その屋敷のベッドに彼女を運んでくれ」
「承知した」
「ラグナは他の奴隷の女性たちを屋敷のベッドへ運んでくれないか。彼女たちの話を聞いてから対処を決めたい」
「わかったわ」
俺は眠らせたクラウディアに、〈魔封じの腕輪〉を装着して屋敷の主寝室のベッドに寝かせた。
騎士団の六人の男たちは女性化して奴隷化し、〈多重禁能呪〉でスキルをすべて封印してから、屋敷の一階の牢に収容する。
「さて、こいつはどうしたものか……」
眠った奴隷の女性を心配そうに見つめるドラゴン。その女性の名は〈鑑定〉によればレオニア・アッシュレインという。俺はレオニアの主人を俺に変更し、〈覚醒〉で目を覚まさせた。
濃い茶色のショートカットが首筋で静かに揺れ、その下に覗く同色の瞳は、怯えを滲ませて伏せられている。年の頃は二十代半ばほどだろうか。派手さはないが整った顔立ちで、物静かな雰囲気を纏っていた。
よく手入れされた革鎧に身を包み、小さく肩をすくめるように立つ姿は、自らの存在をできるだけ目立たせまいとしているかのようだった。
俺はメスのゴブリンの姿でレオニアに声をかける。
「レオニア、このドラゴンは消せるのか?」
突然ゴブリンに話しかけられたせいか一瞬驚いたレオニアだったが、すぐに落ち着きを取り戻して答えた。
「はい。私のスキルで元いた場所へ転送できます。呼びたいときは、いつでもこちらに呼び出せます」
レオニアを〈鑑定〉したときに、〈竜縁召喚〉というスキルが見えた。そういえば、《万紫千紅》のミリアも『エヴァルシア迷宮』踏破時に同じものを手に入れたと言っていたな。
「そうか。とりあえず元の場所へ返してやってくれ」
「わかりました」
レオニアが〈竜縁召喚〉を発動すると、ドラゴンは光に包まれて消えた。
「屋敷の中で少し話を聞かせてくれ。今後どうするか判断したい」
「はい」
レオニアを屋敷へ案内しようとしたところで、外にいたラグナとベルガが声をかけてきた。
「いつもの家を出してくれないか。この屋敷は私には狭すぎる」
ベルガの体格では無理もない。完全に失念していた。俺は屋敷の隣に工房付きの家を出現させる。
「じゃあ、ラグナとベルガはそっちで寛いでくれ。俺はレオニアと話をしてくる」
「わかったわ」
「承知した」
二人と別れ、俺はレオニアを連れて屋敷のリビングへ向かった。紅茶を出し、向かい合って腰を下ろす。
「レオニアは奴隷のようだが、このまま解放した場合、帰る場所はあるのか?」
少し考えたあと、レオニアは静かに答えた。
「私は元々、ドランヴァール王国竜騎士団に属していました。ゼフィランテス帝国への偵察任務中、ドラゴンとともに捕縛され、奴隷にされました。帝国内で解放されても、再び捕まり、奴隷に戻されるでしょう」
ドランヴァール王国――青龍族のリオナの故郷だ。
「ドランヴァール王国なら、現在アストラニア王国エヴァルシアに使者が来ている。春まで滞在しているはずだ。彼らと合流できれば一緒に帰国できるだろう」
「本当ですか!? ですが『翠月』が帝国軍の敷地にいるので、それをどうにかしないと……」
『翠月』はレオニアのドラゴンの名らしい。〈竜縁召喚〉で呼び出せるが、帰還先を示す『帰還石』と呼ばれる石が帝国軍の放牧場に設置されているため、それを手に入れる必要があるという。
「今、『翠月』はどこにいる?」
「このダンジョンのあるグランドリム郊外の軍放牧場です」
放牧場なら対処は可能だろう。
「わかった。こちらも調整してみる。準備が整うまでこの屋敷で休んでいてくれ」
「ありがとうございます」
一室を与えると、レオニアは一礼して部屋へ下がった。
「さて……」
俺はケンイチの奴隷だった女性たちの部屋を回り、主人を俺へと変更していく。
「あ、この人は治療が必要だったな」
七人のうち一人は両腕と片足を欠損している。〈完治2〉で再生させ、主人を俺に書き換えた。
「あとはクラウディアを奴隷化できれば、巨人エリアに移動できるんだが」
悪魔エリアは王が討たれ、魔物が一匹もいない。誰でも一直線にここまで来られる状況だ。クラウディアたちのように飛行できれば、一時間とかからない。
できれば早急に彼女を奴隷化し、巨人エリアへ移動したいのだが――
《無欲の剣》
魅了・誘引・催淫・快楽系魔法を完全無効。
この称号が厄介だ。〈強制終了〉が通じない以上、正攻法でいくしかない。
可能性は低いが、まずは交渉してみることにした。
◇
主寝室へ向かい、俺は“レッドキャップ”に変身する。
クラウディアを〈部分収納〉で拘束したまま視界を〈空間規制〉で遮断し、〈覚醒〉で目を覚まさせた。
拘束と暗闇を即座に察知しながらも、クラウディアは落ち着いた声で言う。
「私を拘束して、何が目的だ?」
その胆力に感心しつつ、レッドキャップの“アレス”の声で答える。
「あなたが持つミノタウロスのオーブを渡してほしい。素直に渡せば、嫌な思いをせずにすむ」
クラウディアは鼻で笑った。
「このダンジョンの攻略は皇帝からの命だ。渡すわけがないだろう。欲しいなら私を殺すがいい」
自ら渡すより、死のほうを選ぶか。完全な軍人だな。
「仕方ない。正直、あまりやりたくない手段だが、これしかなくてな。途中でオーブを渡したくなったら、いつでも止めるから言ってくれ」
クラウディアは何を言われているのかわからなかったようだが、俺がクラウディアの鎧や下着を亜空間にしまい始めたので、これから起こることに気づいた。
「ふざけるな! どこの男かわからない者に私がやられるなど! おい! この拘束を解け!」
俺は小さく息を吐いた。
「だから、あまりやりたくない手段だと言っただろう? 大人しくオーブを渡してくれるなら、何もしないぞ」
黙って考え始めるクラウディア。
ちなみに俺はクラウディアを襲ってどうにかしたいわけじゃない。『奴隷化』したいのだ。しかし、奴隷化するにはクラウディアが性的に達しないといけないので、この方法しかないのだ。クラウディアの視界を遮ったのは、せめてゴブリンにやられていることだけはわからないようにしてやりたかっただけだ。
そして、覚悟を決めたクラウディアは言った。
「……渡すわけにはいかぬ」
やはり、そうか。俺は一つため息をついた。
「いつでも止めるので、オーブを渡したくなったら言ってくれ」
そう言って俺はクラウディアの全身脱毛から始めた。




