187 勇者のパーティと冷華の執行剣
「やはりそうか。ミノタウロスエリアと悪魔エリアは、別のパーティが王を倒したようだ」
「うそでしょ!?」
「本当なのか?」
俺はラグナとベルガにも石板を確認してもらった。
左上――悪魔のオーブの位置を示す穴には、『ケンイチ』という名前と、その下に括弧書きで七人の女性の名前が刻まれている。ケンイチ以外は奴隷ということだろう。
「ラグナ、『ケンイチ』って知っているか? 名前からすると転生者だと思うんだが」
「ええ、知っているわ。私の前に召喚された《勇者》よ。今は女性七人の奴隷とパーティを組んで、冒険者をしているはずだわ」
石板の記載と一致する。その《勇者》で間違いないだろう。
さらに右下――ミノタウロスのオーブの位置を示す穴を見る。
「クラウディア・ローデン? ラグナ、知っているか?」
「《冷華の執行剣》と呼ばれる、帝国第二騎士団の団長よ。皇帝の指令遂行のためなら、手段を選ばない女性だと聞いているわ」
そうか。厄介そうな人物が出てきたな。
クラウディアのほかに、男性六人の名前と奴隷の女性一人の名前が刻まれていた。俺は二人に告げる。
「おそらく騎士団長たちは、何らかの方法で飛行して移動している。ミノタウロスのオーブの移動速度が速すぎるからな。それで問題は、なぜ騎士団長が勇者のところへ向かっているのか、だが……」
ラグナが口を開く。
「協力してオーブを集めているのかしら? 別々に悪魔とミノタウロスのオーブを回収して合流し、それから巨人エリアの奥に置いてある、私たちのオーブを狙っているとか?」
それに対し、ベルガが異論を述べる。
「もし別々に攻略するなら、騎士団員をさらに八名ほど追加して別動隊を編成するんじゃないか? 騎士団長は、勇者のオーブを奪いに行った可能性のほうが高いと思うが」
ふむ……ここで考えていても答えは出ないな。
「相手の動き次第で、俺たちの対策も変わる。彼らが合流する地点まで偵察に行こう」
「そうね。それがいいわ」
「賛成だ」
俺たちは勇者ケンイチのパーティと、騎士団長クラウディアのパーティが合流すると思われる、悪魔エリアのポイントへ向かって飛んだ。
◇
三十分ほど飛行し、ようやく目的地に到着した。
そこは悪魔の王がいた城の一つ手前にある、かつて集落が存在していた採取ポイントだった。
俺たちは透明化し、さらに気配を遮断して上空から接近する。
二つのパーティはすでに合流していた。
外にテーブルを出し、代表者二人が向かい合って話し合っている。
一人は勇者ケンイチ。
黒髪を短く刈り込み、黒い瞳で前を射抜く男だった。
無駄を削ぎ落とした筋肉質な体躯は、鍛え抜かれた鋼のように引き締まり、その上から高級な革と磨き上げられた金属板を組み合わせた鎧をまとっている。革はしなやかに身体へ沿い、金属は要所を堅牢に守る――実用と威厳を兼ね備えた装いだ。
精悍な顔立ちは歴戦の気配を同時に感じさせ、鋭く結ばれた口元には揺るがぬ決意が刻まれていた。
もう一人は騎士団長クラウディア。
銀色の長い髪を後ろで一つに束ね、静かに佇んでいた。
金属のような光沢を帯びたその髪は腰のあたりまで流れ、わずかな動きに合わせて冷たい輝きを揺らす。
オレンジの瞳は夕焼けのように鮮やかでありながら、そこに宿る光は凍てつく刃のように鋭く、感情の温度をほとんど感じさせない。
全身を覆うフルプレートアーマーは重厚でありながら一切の無骨さを感じさせず、彼女の均整の取れた体躯に合わせて誂えられていた。磨き上げられた装甲は隙なく身体を守り、その姿は一人の騎士であると同時に、処刑を執り行う執行者のような威厳を漂わせている。
帝国第二騎士団団長――《冷華の執行剣》。
その名のとおり、咲き誇る華のような美貌を持ちながらも、近づく者すべてを凍りつかせる冷酷さをまとっていた。
さらに周囲を見渡すと、一匹のドラゴンと、それを世話している奴隷の女性がいる。
どうやってダンジョン内にドラゴンを連れ込んだのかはわからないが、何らかの手段があるのだろう。
それぞれを〈鑑定〉で確認した。
奴隷の女性はスキルレベル5程度だが、それ以外は騎士団長のパーティも勇者のパーティも、全員がレベル9のスキルを保有していた。
(あれ? 勇者のほう、一人減っているな)
石板には奴隷の女性が七人と記されていたが、ここにいるのは六人だけだ。
そう思った瞬間――
「はあ!? 無償でオーブをよこせだと!?」
ケンイチが激昂し、怒鳴り声を上げた。
「こっちは一人欠員が出るほどの乱戦を勝ち抜いてきたんだぞ!? ふざけんじゃねぇ!!」
するとクラウディアが冷静に問い返す。
「ほう。そいつは死んだのか?」
ケンイチは、当然のことのように答えた。
「両腕と片足を切られたんだ。捨ててきたよ」
(なっ……!?)
まだ生きているのに、置き去りにしたのか!?
俺は外に声が漏れないように〈空間魔法〉で囲ってから、ベルガに指示を出した。
「ベルガ、悪魔の王がいた城まで行って、奴隷の女性を連れて来てくれ。〈高治癒〉で止血するだけでいい」
「わかった。行ってくる」
ベルガは即座に飛び立ち、単身で城へ向かった。
その間に下では、ケンイチとクラウディアが席を立っていた。
「それで? 勇者殿は、このあとどうするのだ?」
クラウディアの問いに、ケンイチはニヤリと笑う。
「騎士団長さんは知らないのか? 《勇者》はな――人型が相手なら必ず勝つ魔法を持っているんだよ!」
ケンイチは両手を掲げる。
「第四階梯聖魔法〈感度調整〉一万倍! 第八階梯聖魔法〈強制終了〉!」
ナオキも使っていたコンボだ。
俺は自分で見つけたが、帝国の勇者にとっては、常識の戦術なのかもしれない。
――だが。
(効いていない!?)
クラウディアは、まったく動揺していなかった。
「攻撃したな? では、こちらは正当防衛だ」
その瞬間――クラウディアの姿が消えた。
次の瞬間には、ケンイチの背後に立っている。
剣を抜いた状態で。
「大人しく渡せば、死なずに済んだものを」
その言葉と同時に――
ケンイチの首から上が、地面へと落ちた。
(なぜ……〈性魔法〉が効かなかったんだ?)
俺はクラウディアを〈鑑定〉する。
すると、特殊な称号が表示された。
《無欲の剣》
魅了・誘引・催淫・快楽系魔法を完全無効。
(こんな称号があるのか……知らなければ、勇者は確実に負けるだろう)
ケンイチの奴隷たちは動かなかった。
主人を失い、すでに自由の身のはずだ。
だが、仇を討とうともせず、クラウディアに抵抗する様子もない。
そのとき、一人の騎士がクラウディアに尋ねた。
「この奴隷の女たちは、どうしますか?」
クラウディアはわずかに考え、答えた。
「連れて行っても邪魔なだけだ。ここに放置する」
そして続ける。
「しばらく時間をやろう。好きに使え」
「さすがクラウディア様! 話がわかる!」
騎士団の男たちは一斉に動き出し、奴隷の女性たちへと群がった。
(……見ていられないな)
俺は即座に〈部分収納〉を発動し、全員の動きを拘束する。
「なっ!? 何が起こった!?」
クラウディアの叫びを無視し、俺は一人ずつ触れていく。
〈熟睡〉。
ヴァンパイアロードから手に入れた〈絶対状態異常付与の指輪〉のおかげで、全員が即座に意識を失った。
「とりあえず、オーブを回収しよう」
俺とラグナは地上に降りる。
悪魔のオーブは、ケンイチの死と同時に地面へ落ちていた。
ケンイチのアイテムボックスから出現したのだろう。
俺はケンイチの死体ごと亜空間へ回収する。
――だが。
騎士団長クラウディア側の、ミノタウロスのオーブが見当たらなかった。




