185 別れの握手と石の玉座
翌朝。
階段エリアまでフレイヤたち七人を連れてきて、彼女たちとの奴隷契約を解消した。
「地上に出たら、右手に大きな黒いテントが張ってあるはずだ。そこにリディアたちがいるので合流してくれ」
代表して、フレイヤが言う。
「ここまでありがとう、アレス。お前には感謝しかない」
「次は地上で会おう、フレイヤ。その時、俺はヒューマンの姿だから、フレイヤは気づかないかもしれないけどな」
フレイヤと固く握手を交わし、俺たちはそこで別れた。あとはリディアに任せよう。
「さて、ラグナ、ベルガ。攻略の続きにいくぞ」
「わかったわ」
「承知した」
俺たちはオーガエリアの十一ヶ所目の集落へ向かって飛んだ。
◇
十一ヶ所目の集落は予想通り一回り大きく、新たな魔物が十匹追加されていたが――
「トロールかよ……ここってオーガエリアじゃなかったのか」
ここまで誰も来たことがなかったため、ここはオーガエリアとされていたのだろう。
予想外の魔物の登場に、俺は少し驚いた。
「ラグナ、ベルガ。全滅バッチで、おそらくトロールが生き残るはずだ。再生能力が厄介だから、細切れにするかミンチにするか、とにかく徹底的に再生不可能な状態になるまで攻撃してくれ」
「わかったわ」
「承知した」
全滅バッチを起動すると、予想通りトロール十匹が残った。全滅バッチの〈溶岩弾〉は間違いなくトロールにも当たっているのだが、再生能力のほうが勝っているようで、俺たちが近づくころには完全に再生していた。
「面倒だな、コイツ」
俺は両手に持つミスリルのショートソードで、トロールの再生が追いつかない速さで切り刻んだ。
ラグナも俺と同じように刀で切り刻んで対処していたが、ベルガだけは「ふん!」と巨大なバトルメイスを一振りするだけで、トロールの身体を四散させ、再生不可能な状態にしていた。トロールはベルガに任せたほうが効率がよさそうだ。
その日は十ヶ所の集落を壊滅させ、翌日に備えて就寝した。
◇
翌朝。
二十一ヶ所目の集落は、これまでよりまた一回り大きくなり――
「次はジャイアントかよ……」
オーガやトロールよりも遥かに大きいジャイアントが、十匹追加されていた。ジャイアントは岩を投げてくるため、遠距離にいても危険だ。しかし、素早く動ける魔物ではないため、俺にとっては〈溶岩弾〉の的でしかなかった。
全滅バッチの〈溶岩弾〉で、ジャイアントの場合は頭部を狙うように設定してから起動すれば、やはり生き残るのはトロールの十匹だけだった。
「このエリアは、俺の全滅バッチとの相性がかなりいいな」
これが単なる攻撃魔法だったら、こうはいかなかっただろう。複合魔法である〈溶岩弾〉の威力が大きいからこそであり、他の冒険者ではこう簡単にはいかないはずだ。
その日も十ヶ所の集落を壊滅させた。
◇
翌日。
三十一ヶ所目の集落はまた一回り大きくなったが、増えたのはまたもジャイアントだった。ここからジャイアントは二十匹になる。本来なら大きな脅威だが、俺たちにとっては昨日までと何も変わらない。
その日も十ヶ所の集落を壊滅させた。
◇
――四日後。これまでに新たにサイクロプスとギガンテスが追加されていた。
サイクロプスは額の中央に巨大な単眼を持つ、五メートル以上ある巨人で、巨大なこん棒を振り回して攻撃してくる。ギガンテスはさらに大きく、十メートル近くもあり、投げつけてくる岩だけでも通常の城壁に穴が開くほどの威力がある。
ただ、巨大である分、動きは遅い。結果として、どちらも俺の〈溶岩弾〉の的でしかなかった。このエリアは、もはやオーガエリアではなく、巨人エリアと呼ぶべきだろう。
そして四日後の午後。
俺たちは巨人エリアの最奥まで辿り着いた。
その一帯に入った瞬間、空気が変わる。森はある。岩山もある。だが、そのすべてが本来の姿を失い、巨大な力に踏み荒らされた痕跡だけが残されていた。地面には人の胴ほどもある足跡が幾重にも刻まれ、折れた巨木は爪楊枝のように転がっている。
遠くから聞こえるのは風の音ではない。――巨体が動くたびに響く、地鳴りそのものだ。
丘の上では、ジャイアントたちが無造作に腰を下ろし、丸太を武器代わりに振り回している。さらに奥、岩山と岩山の隙間には、単眼のサイクロプスが陣取っていた。巨大な一つ目が獲物を捉えるたび、岩塊が投げ放たれ、空を切り裂く音が遅れて届く。
彼らは見張りであり、処刑人でもあった。
そして、その中心。
簡素ながら異様な威圧感を放つ巨石の玉座の周囲には、ギガンテスたちが立ち並んでいる。他の巨人種よりも一回り、いや二回り大きいその体躯は、まるで動く山のようだ。
彼らは争わない。ただ、王の命にのみ従う存在として、沈黙を守っていた。
玉座に座すのは――オーガキング。
常人の何倍もの体格を誇りながら、その瞳には野獣とは異なる知性の光が宿っている。この地の秩序は、単なる力ではなく、王の支配によって保たれていた。
「ここも外か。普通に戦う場合は、山や森が邪魔になりそうだ」
百二十匹いる魔物のどれもが巨体であるためか、ここはこれまでのエリアの王がいた場所よりも遥かに敷地が広かった。
「よし、一つ前の集落に戻ろう」
「わかったわ」
「承知した」
一つ前の集落も、これまでのエリアに比べれば遥かに広い敷地を持っている。
さっそくこの集落を、アンデッドエリアでかき集めた石材を使って頑丈な城壁で囲んだ。
そしてここには、俺が従魔にしたギガンテス五十匹とグレートオーガ六十匹を待機させている。それぞれに、人が近づいてきたら岩を投げて威嚇すること、城壁を越えられた場合は可能な限り生け捕りにすることを命じ、見張りに立たせた。
「よし、ここはこれでいいかな」
この集落を作り終え、俺がそう言うと、ラグナが訊ねてきた。
「このあとどうするの?」
「オークエリアのオーブを置いている場所で、今日は休むつもりだ。明日の朝にオークキングを倒したら、ここまですべてのオーブを置きに来る」
「わかったわ」
「承知した」
その後、俺たちはオークエリアの王の手前にある集落――オーブを置いている城壁で囲まれた集落まで飛び、そこで明日の朝に備えた。
◇
翌朝。
「ベルガ、念のためこれを着けておいてくれ」
俺はベルガに〈誘引無効の指輪〉を渡した。このダンジョンでは通常、〈誘引〉は効かないはずだが、念のためだ。俺とラグナには、《勇者》の称号の効果である“全状態異常無効”のおかげで〈誘引〉は効かない。
これで準備完了だ。
「じゃ、オークキングを倒しに行くぞ」
「わかったわ」
「承知した」
俺はラグナとベルガを連れて、オークキングの待つ最奥の城へと飛んだ。
そこには、黒ずんだ石を無骨に積み上げただけの城壁があった。城壁の上では、粗末な鎧をまとったオークたちが見張りに立ち、鈍い眼光で周囲を睨みつけている。
「全滅バッチ起動」
城内も含め、この集落一帯を範囲に指定して全滅バッチを起動する。オーク程度であれば、ジェネラルであっても倒してしまう全滅バッチだ。今日はここでしか戦わない予定なので、魔力も惜しみなく使う。
何発もの〈溶岩弾〉を放った。
「おお、一匹を除いて全部倒せたな。残ったのはオークキングだろう。倒しに行くぞ」
「わかったわ」
「承知した」
俺はラグナとベルガを連れて、城内へ入った。




