23本当の気持ち
夢見の館を出て南側に、散歩で歩くにはちょうど良い広さの、いくつかの庭園がある。
白い花を集めた庭園、三色菫、葉牡丹、紫羅欄花などを咲かせた複合色の庭園、庭の背面に草丈の高い植物、手前には地面に這う低い植物を組み合わせた立体的に見える庭園もある。
小さいながらも果樹園があり、林檎、桃、梨などの果物も栽培しているようだ。
ラナはいつもの散歩の道程をゆっくり歩いていく。
あの夜から半月が経った。
いまだに、あの気持ち悪さと苦しさを思い出すが、その度に助けてもらえたことに感謝する。
「ニア、少し休んでもいい?」
「どうぞ」
ラナの少し後ろを歩いていたニアが答えた。
石でできた長椅子がいくつか並んでいる、いつもの休憩場所だ。
ラナが腰をかけると、ニアが少しだけ距離を取って左側に立った。いつもより離れてるな、と感じた時、声をかけられた。
「ラナ、散歩中?」
「イリュー?どうしたの、こんなところに」
久しぶりに見る彼は護族の装束である漆黒の着物ではなく、桜の紋章が入った艶のある滑らかな紫色の着物を纏っていた。
意識が戻って翌日までは一緒にいられたが、それから会っていなかった。国の仕事とロドルの件の処理で忙しかったと聞いている。
走ってきたのか、息切れしている。
約半月ぶりに会った彼にラナはどきどきしていた。
「ようやく時間がとれて…マールに聞いたら、ここだって聞きました」
「うん。体力を戻すために散歩してるんです」
「座ってもいいですか?」
「どうぞ」
イリューは、ラナの隣にそっと座り、彼女の顔をとても嬉しそうに見つめた。
「何、イリュー」
「後悔したくないから、ちゃんと伝えたいと思って」
「なに、を?」
心臓が高鳴った。
「ラナのことが、好きです」
イリューが私を好き。
私も…
「私もイリューが好き」
ラナが答えた瞬間、イリューは緊張していた面持ちから笑顔になった。
イリューが両手を広げる、ラナは答えるように彼の胸の中に体を預けた。
イリューの逞しい体に、どきどきしていた。
彼の抱きしめる手に力がこもっているのが嬉しかった。ラナも背中に手を伸ばし、おそるおそる抱きしめた。
「…嬉しいです」
頭の上の方でイリューの声がする。
「…私も、です」
彼の胸の中で目を閉じて深呼吸をした。
ずっとここにいたいくらい、気持ちが良かった。
「もうすっかり第三王子ですね」
イリューがラナの手を優しく握る。どきどき弄ぶように親指でラナな指を触ってくる。
「シアが仕事が減ったーって喜んでます。就任してから一年、国の仕事と並行してロドルのことを調べていて、大変だったので」
イリューがラナの顔を見る。
「ラナを騙していたこと、今更ですけど、本当にごめんなさい」
そんなに丁寧に謝られると思ってなかったのでラナは動揺した。
「今はもう、事情がわかってるから、大丈夫です。嘘をつかれたってことよりも、私が悲しかったのは…」
言いかけてやめる。なんだか照れくさい。
「なんですか言ってください」
ラナの手をぎゅっと握る。
「イリューが私のことを何とも思ってないんだって…わかった時が悲しかったんです」
「何もないって言った時ですね。あの時は…素直になれなくて、何もないわけなかったのに…ラナ、これからはそんなこと心配にならないくらい、ちゃんと伝えていきますから。一緒にいてください」
イリューが握ったラナの手にキスをする。
その柔らかい感触に、ラナは真っ赤になってしまった。さっきから心臓がうるさいくらい鳴っている。
イリューってこんな人だった?という問いを何度も頭の中で繰り返している。
「もう、伝えられなかったという後悔はしたくないんです。だからたくさん、好きを伝えさせてください」
銀髪の前髪から覗く深い碧色の瞳が、ラナだけを見つめてくる。
ラナは、真っ赤になった顔を空いた手で抑えながら、はい、と答えた。




