20明け方
ラナの主室の隣の部屋は、簡易的な応接室になっていた。普段はラナが仕事をしたり、読み方と話をしたり、従者が控える部屋になっている。
今は主室も寝室も、調査が行われているため入ることができない。
「今ファタが来るから、それまで待ってろ!」
シアはそこに座れとソファを指差した。
リズは真っ青な顔をして震えて座った。
「シア、怒ったところで彼女はなにも知らないんじゃない」
ターヴァが大きく呼吸をして言った。逃げようとしていたリズを直接捕まえたのは彼だ。
「私、何も知りません、知らなかったんです」
「うるさい!勝手に喋るな!まだ何も聞いてないんだよ!」
ターヴァのことを完全に無視して、リズを怒鳴りつけた。
怒らないでいられるか。
まだ、助かる見込みはないんだ。
応接室の扉がノックされる。
「失礼します」
ファタがアルマを連れて入ってきた。アルマは自分がいていいのか不安がっていたが、ファタが私のそばにいなさいと言うと安心したようだった。
その様子とは対照的に、リズは高身長とは思えないほど体を小さくして震えている。
「ラナに、何をしたんだ」
自分でも信じられないくらい低い声が出る。
リズがびくりと肩を上下させた。
「寝る前にいつもお酒を嗜まれるので、そのお酒に、毒を、入れました。そのあと寝る時はいつもお香を焚いていましたので、有毒の煙が出るお香を、焚きました」
「君は、それを誰かに頼まれたの?」
シアが今にもリズに殴りかかりそうだったので、ターヴァが前に出て聞いた。
「あ、ちょいまち、アルマちゃん、隣の部屋から一人、誰でもいいから来てくれる人呼んでくれる?」
「何してんだよ!ターヴァ!もうわかりきってるんだからかさっさと言わせろよ!」
「もお、すぐ感情的になるんだから。落ち着けって」
「呼んできました」
「ロキと申します」
呼ばれた従者は、清掃していたようで清掃用具を慌てて床に置いて自己紹介した。
「はい、じゃもっかいやるね。リズ、君は誰にそれを頼まれたの?」
「……言えません」
「そっかぁ、でも、言っても言わなくても君はその人には守ってもらえないよ。現にほら、俺たちに捕まっちゃったでしょう?本当に君を守ってくれる人なら君、ここにいないよ」
リズはターヴァの顔を見て、また俯く。
「でもね、今本当のことを言ってくれたら、俺たちが君を守るよ」
「何言ってんだ、ターヴァ!!俺は守んねーぞ!」
「シア様、落ち着いて」
ファタがシアのそばに寄って、1人がけのソファに彼を座らせる。
「もっかいきくよ。誰に頼まれたの?」
「…家族もですか?家族も守ってもらえますか?」
リズが泣きながら問う。
ターヴァはにっこり笑って頷いた。
「……メト様です」
「聞いた?」
ターヴァが従者のロキを指差す。
「は、はい!」
「君、証人だからね、今のこと忘れないで」
「はい!」
「ロキ、ありがとう。下がっていいよ」
ロキは、また慌てて清掃用具を持ち、隣の部屋であるラナの主室へ戻って行った。
「ロドルの部下ですね」
ファタが妙に納得した顔で呟く。
「あいつずるいから。逃げない手を打っておかないとね。俺らだけが聞いてても仲間だろ口裏合わせだ、とか言われたら腹立つじゃん」
「従者の発言なんか証拠になんのか」
「この国では潰されるだろうけど、王都が動けば通用するよ」
「王都、動いてんの」
シアの動きが止まる。
「軍が、向かってる。昼には着くんじゃないかな。その前にリズに聞きたいこと聞いておかないと、ね」
ターヴァはにっこり笑ってリズを見た。
「開けるよ」
「どうぞ」
扉が開く音がして、ターヴァが入ってきた。
「ラナ様、どう?」
「まだ、意識は戻らない。ただ呼吸が少し安定してきた」
「少し話せる?」
ターヴァは、椅子に座ってイリューを呼び寄せる。
緩慢な動きでイリューは向かいの椅子に座る。
「心が疲れると体はもっと疲れるよね、大丈夫?」
「大丈夫。どうだった?シアとファタは?」
「シアは興奮状態。ひどいからファタについてもらってる」
「リズはなんて?」
「メトに脅されてやったみたいだ。なんの毒かとかなんのお香なのかはただ渡されただけだから、わからないらしい」
「そうか…そもそもどこで繋がってたんだ」
「リズは、街で盗みを働いたことがあって、で、たまたま見回ってたメトに見つかって、家族にバラすって脅されてたらしいよ。メトはそう言う、捨て駒的に使える人間を日々見つけてるんだろうな。もう最初からラナ様目当てでラナ様付きになってたってわけ」
「半月以上前からの計画ってわけか」
「そうなるね。ラナ様がなんらかの夢を見たら殺すって手筈になってたみたいだから、恐ろしいよ。ロドルは自分と無関係の夢を見てたとしてもやる予定だったってことでしょ」
ターヴァが身震いする。
「ラナ付きだから、ラナが夢を見たらすぐわかるし、もしかしたらなんの夢を見たかも伝えてるかもしれないな…」
「だとしたら、ラナ様が見た夢とは別の展開になる可能性もあるね」
「…軍は?」
「昼には来る予定。相当お怒りらしいよ、叔父様」
「…だろうね」
「どうする」
ターヴァがイリューの顔をじっと見つめる。
「朝には、片をつけたい」
「わかった、準備するね」
ターヴァがにっこり笑う。
どうしてこんな時に笑える余裕が作れるのか、いつも感心する。
イリューは、視線をベッドのラナに移した。
まだ、意識は戻らない。




