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桜花のゆめ  作者: さえ
18/24

18マールのいない夜

***

 シアの統治補佐室の隣の部屋が仮眠室、その隣がターヴァの部屋になる。

 ターヴァは、シアと同じく統治補佐をしているので、同じ広さの部屋を与えられている。しかし、調度品が豊富でソファまで置いてあるにも関わらず広々している。

 「なんで、こんな広いの?おかしくない?」

 シアが入ってすぐに文句を言う。ターヴァの部屋に入るのは初めてだったようだ。

 「シアの部屋はさ、汚いから狭く感じるんじゃない?」

 ふふふ、と堪えきれなくて笑うダーヴァを、シアは恨めしい目で見る。

 「僕の部屋が汚いのは、ファタがめちゃくちゃ仕事を持ってきてくるからなんだ、よ!」

 「恐れ入ります」

 「は!褒めてないよ!」

 ファタは、自分に言われた言葉にも関わらず、我関せずといった表情だ。

 「ファタは本当、メンタル強いな」

 「わ!ようやくしゃべった!少しは復活したのか?イリュー」

 「シアはいつも騒々しい。ターヴァはいい加減そうに見えてよく見てる」

 なんで僕だけ悪口!?と、また騒々しくなる。ターヴァがまあまあとなだめているが、なだめてる相手がターヴァなので収まりそうにない。

 「シア、感謝してる。今回シアがいなかったら、ラナと話すのは、きっと難しかった」

 シアの動きがピタリと止まる。

 「えっ…」

 「シア様は褒められるの苦手です。しばらく停止しますね」

 シアが思い切り照れている横で、ファタがそっけなく言う。

 「明日の朝に、すぐ、ロドルと話そうと思う。読み方がどう動くのかはまだわからない。ロドルの耳にラナが夢を見たと情報が入る前に動きたい」

 「明日の朝動くのは賛成だけど、読み方がどう動くことになったかは、ラナ様に聞けばいいんじゃないの?」

 「私が行きます。その方がいいです」

 「ファタ、だめだ。イリュー、お前が行け」

 復活したシアが、イリューを指差して言う。

 「たしかに。ラナ様からしたら、なんでファタなの、イリューは私を避けてるのかも!…とかになるかもね」

 「そもそも、俺はラナに聞きにいくとは言ってない」

 「情報が必要なので、イリュー様が行かないなら私行きます」

 「まかせる」

 「イリューお前ばかだな!ばかばか」

 その時は自分が行かない方がいいと思っていた。

 ラナも自分には会いたくないと思ってると、思っていた。

 けれど、

 まかせなければよかったと、俺は後悔にすることになる。

 

 「マールはもう出発したの?」

 ラナはお風呂上がりの温かい体で、ソファに座る。ソファのクッションがヒヤリとして気持ちがいい。

 「はい、明るいうちにと言うことで早々に」

 「そう…なんともないといいけど…」

 マールは連絡を受けて急遽花国に帰ることになった。馬車で半日はかかるのですぐに用意して出発したようだった。

 「ラナ様はマールさんと離れたことってあるんですか」

 リズはラナが飲むお酒の用意を始める。

 「花国でも普通にあったよ。マールって家族思いだから、度々休んで家族の様子見に行ってるの。小さい弟さんがいてね、成長も楽しみみたいだよ。ただ、今回みたいに、家族から連絡が来て帰ってきてほしいって言うのは初めてだと思うから、マールも焦ってるんじゃないかと思うんだ」

 「たしかに…言われてみればそんな感じではありました」

 「連絡係からリズが受けたって聞いたけど。どんな内容だったの」

 「マールさんのお父様が倒れられて、急を要していると、お母様からの連絡でした」

 「そう…心配ね…」

 「今日、飲まれますか?」

 ラナの気持ちが落ちていることを察してリズが控えめに聞いた。

 「いいの?リズ。リズおすすめのお酒、今日紹介してくれるんでしょ?飲むよ」

 約束だもんね、とラナが笑ってリズを見た。

 「ありがとうございます」

 リズが申し訳なさそうに答えたので、ラナはやだなー気にしない気にしない!とリズの腕をポンポン叩いた。

 その時ノック音がする。

 「どうぞ」

 顔を出したのはアルマだった。

 「どうしたの?」

 どう見ても嬉しくて興奮している顔をしている。

 「ファタ様が来てくださったんですが、お通ししてもよろしいですか!?」

 アルマはファタの元従者で、きっと憧れの存在だったんだろう。部屋に入って欲しい、自分が色々もてなしたい、願わくば話したい…といったところかな。とラナは思った。かわいい従者だ。

 「もちろんよ、お通しして」

 やったー、とついつい声に出てしまうところがアルマのかわいいところ。目をつぶろう。

 「失礼します、ファタです。遅くにすみません」

 「いえ、夜はこれからでした。お付き合いいただけますか?」 

 ラナはにっこり笑ってファタを向いのソファに座ってもらった。

 

 「私の村で採れた桃を使った果実酒になります」

 リズがグラスに注ぎながら説明する。とろりとした乳白色の液体がグラスに注がれていく。

 「私は…」

 「心得ております!お水ですよね!」

 アルマがわかってましたとばかりにファタの前に水のグラスを置く。

 「ファタは飲まないの?」

 「飲めないのです。飲むと踊り出します」

 「え?」

 踊り出す?

 「冗談です」

 (え?冗談とか言うんだ、びっくりした…)

 アルマが楽しそうに笑う。

 「それファタ様の鉄板なんです!久しぶりに聞いてもおかしいです…っ!!」

 「ラナ様、どうぞ」

 「ありがとう」

 桃のお酒はとろりとして甘かった。甘いからたくさん飲んで酔うこと必至のお酒だろう。

 「いかがですか?」

 「甘いから強いのがわからなくて酔っちゃいそうだね。うんでも、おいしいよ」

 「ありがとうございます」

 では私たちはこの辺で一旦失礼します、とリズが退出しようとすると、アルマはあからさまに名残惜しそうにしていた。

 「アルマ、あとで時間あげるから、ね?」

 「いいんですか!嬉しいです!いつでもお呼びください!」

 リズとアルマは揃って主室から退室していった。

 「何をお話しに来たんですか?ファタが一人で来るのは珍しいことですよね」

 「私が行きたいと申し出ました。ラナ様と落ち着いてお話を進められるのは私だと思ったからです。消去法です」

 なるほど。

 たしかにそうかもしれない。

 「まず一番聞きたいことは読み方の動向です。どうなりましたか」

 「読み方は今回の夢は早急に対応しなければならない案件として王都に連絡すること、ロドルを拘束することを視野に入れてます」

 「ロドルに、今回の夢見の件はまだ伝わってないと言うことでよろしいですか」

 「そうですね。伝わってはいません。伝えることで未来が変わる可能性が高まると考えた結果、王都への連絡になったのだと思います」

 「なるほど。こちらの動きとしては明日の朝ロドルと話をすることになっています。私が襲われる、とのことでしたので十分に警戒していこうと思っています」

 「本当に、気をつけてください。お願いします」

 「ところで、ラナ様はイリュー様のことを好きなのですよね」

 「…っ!え?」

 あまりにも直接的に聞くので、驚いて飲みかけた桃酒がでて来るかと思いひやっとした。

 「いきなりですね」

 「よく言われます」

 ファタは水を口につける。見惚れるほど綺麗な顔立ちをしている。

 「ラナ様のことは正直私はよくわかりません。知っているのは、非常に優秀な夢見であることくらいです」

 「あ、ありがとうございます」

 褒められたのかと思い、お礼を言ってみたが、なんの反応もない。

 「ですが、イリュー様のことは知っています。彼の責任感の強さ、優しさに、私ももちろん、周りの人間は助けられてきました」

 イリューらしい。

 そう言うところにも惹かれたのかな…

 と、ラナは桃酒を飲んだ。甘くておいしい。

 「王都の祝賀会で、彼は王家の一人として参加していました。彼がラナ様を初めて見た日です。明らかにいつもと様子が違いました。あなたが誰なのか、どんな夢見なのか、彼に頼まれて調べたのは私です」

 「そう、だったの…」

 「その時からイリュー様はあなたに惹かれていたのだと思います」

 彼は、その時から私を見てくれていた?

 出会った時には、もう特別な気持ちをもっていてくれたと言うこと?

 「なぜ、その話を私に…?」

 「イリュー様は言わないでしょうから」

 「え、…?」

 「ラナ様と一緒で、なかったことにしようとしてるからです」

 「ちょっと、ちょっとまって、どういうこと?」

 「私が言いたかったことは終わりです」

 ファタはまた水を飲んだ。今度はとても美味しそうに飲んでいる。

 終わりですと言われて、話を続ける勇気が出せなかった。

 ラナは開きかけた口を塞ぐようにお酒を流し込んだ。

 きっと、イリューと直接話さなければいけないんだろうと思う。

 「アルマ、入っていいよ」

 少し大きめの声で呼びかけると、アルマが待ってましたとばかりの笑顔で扉を開ける。

 ラナはアルマをソファのところまで呼び寄せて、ファタの隣に座るように促した。

 「ラナ様ありがとうございます!ファタ様!久々に晩酌お付き合いしていいですか?」

 「水だけど」

 「水ですね!」

 最高です!と、アルマは続ける。

 (大好きなんだなぁ…)

 私も、そうだったのかな。

 他の人から見れば大好きなんだなってわかる仕草とかしてたのかな…。

 そっか、イリューもそうだったのかな。

 他の人はわかってるのに、本人たちだけわかってなかったのかな…。

 (ばかみたい…)

 ああ、なんか酔っ払ったかもしれない。

 飲みすぎたのかな、ちょっと気持ち悪いかも。

 横に、なりたいな。

 「ラナ様、ベッドに行かれますか」

 察したのかニアがラナに声をかける。

 「お願いしてもいい?」

 「了解です。抱き上げます」

 ふわりと体が持ちあがる。

 ゆれる、ゆれる。

 目が回る。

 気持ちが悪い。

 でも横になればこれくらいなら平気。

 ラナは深呼吸した。

 ほどなくして、体がベッドに沈んでいくのを感じる。

 「…ありがとう、ニア」

 あんな少量でこんなに酔うなんて、よほど強いお酒だったのかな。

 「ラナ様、大丈夫ですか!」

 アルマの心配そうな声が聞こえる。

 「大丈夫。すこし、酔っちゃった。アルマはファタとお話してていいからね」

 「ありがとうございます、お香の準備しますね」

 「ありがとう、私は、少し眠るね…」

 気持ちの悪さと眠気が、混在してやって来る。

 なんだか目が回る。

 こんなに、酔ったのはあの日以来だな、ラナはぼんやり思い出していた。

 


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