15嘘(前編)
夢見の館には、読み方が常駐している。夢見が夢を見た時にすぐにでも分析できるようにするためだ。
「私は反対です。すぐにでも読み方を呼びましょう」
「シアが来るまで待って」
そこは譲れない。
「待っても半日ですよ」
ため息をついてマールは言う。視線の先にはイリューがいる。
「私はお茶の用意をしてきますので、何かあったらリズかアルマに言ってくださいね。隣の部屋にいますから」
「わかった」
ラナはソファに深く座り、近くにいるニアに気づかれないように、ため息をついた。
「なぜ、護族だなんて嘘をついたんですか?本当は、王族なんですか?」
向かいに座るイリューを見る。彼は苦しそうな顔をしている。
(私も苦しいよ…)
「ラナを、護りたかったからです」
「それだけですか?」
「……ラナの夢見を一番に聞きたかったのも、あります」
「私を、利用したかったってことですか?」
声が震える。
「そうじゃなかったとは…、言えません」
言葉を失う。
主室の扉が鳴る。
「どうぞ」
「ラナ様、シア様と部下の方がいらっしゃいました」
リズが申し訳なさそうに顔を出して話す。
「通してくれる?お願い」
「かしこまりました」
途端に扉の外が騒がしくなる。
「ラナちゃん、大丈夫?!」
扉が開いて、シア、後ろにファタとターヴァが見えた。
「僕はそっちの方がわかっちゃったんだって感じだったんだけど」
マールが出したお茶を一口飲んでからシアが言った。ファタは、一緒に出されたお茶菓子を口を大きく動かして食べている。
「え、どういうことですか」
「ラナちゃん、ロドルのこと知りたがってたから、そっちの方がわかったのかなぁって思ってたらイリューのことだったからびっくりしたよ」
「私もそう思ってました」
ファタがもごもごしながら話してるのを見て、ターヴァが肘で彼女の腕を小突く。
「それだったら、ここまでラナ様怒ってないんじゃない?あ、ターヴァです。よろしくね」
この部屋の空気に合わないくらい、にっこり笑うターヴァに、ラナは拍子抜けする。
「イリューは何者って話はしたの?イリュー」
シアがイリューに目線を送る。彼は無言で首を振る。
「ね、ラナちゃん、こいつがこんなに気持ちが落ちてるの、僕初めてみたよ。それだけ、ラナちゃんに申し訳ないって思ってるのもあるけど、ラナちゃんが相手だから、なおさらなんだと思うんだよね。…ラナちゃんもそうでしょ、大事に思っている人だから、裏切られたら悲しいし、気持ちが伝わらないと辛いよね」
大事に思ってる、私はイリューを。だから嘘をつかれていたことが嫌だった。
「イリューは第三王子です」
「ファタ!なんで言っちゃうんだよ!物事には順番てのがあるんだよー」
「第三王子?」
「あーもう!ちょっと待ってラナちゃん、落ち着いてね」
シアが両手を上下左右に動かしながらラナに話しかける。
「シアが落ち着きなよ、お茶でも飲みな、ほら」
ターヴァが自分のお茶をシアに渡した。
「お茶菓子もおいしいです」
「ファタ、食べ過ぎじゃない?もうないじゃん!」
ファタとターヴァのやりとりを見てシアが疲れた表情を見せる。
「ダメだダメだ、イリュー、お前がまとめないと話が進まない。ちゃんと最初から話そう」
ラナはイリューの顔を見る。
彼はなぜ嘘をついたんだろう。
第三王子としての立場を隠して偽ってまでやらなくてはいけなかったことがあったのだろうか。
「話してほしいです、お願いします」
イリューの目つきが先程とは違う強いものになったのを感じた。
「これは、五年前の話に遡ります」
北国に第二王子が就任し、東国の統治を現国王の叔父ザザ王子がしていました。
元々、北国と東国は友好関係にありました。そのきっかけは夢見を排除しようとする意志を両国の統治者がもっていたからだと言われています。
第二王子、…俺の兄ですが、就任してから数ヶ月、妙な噂が王都に流れてきました。
北国で、兄が国のお金を使い込んでいて、国民に影響が出始めていると。
次期東国の統治者として調査するよう命令された俺は、ある人物に辿り着きました。
当時北国の統治補佐だったロドルです。ロドルは、兄の側近として財政管理の仕事にも関わっていました。
ある時、兄が国のお金を流用していると言う疑惑が公になりかけました。そのまま悪事が露呈して国民に裁かれればよかったのですが…例の爆発事故が起こったのです。今から三年前のことです。
国民の意識と話題は爆発事故に流れました。そして、その騒ぎと同じ時期にロドルは東国へ引き抜かれていきます。統治補佐、今度はザザ王子の側近として。
必ずこのお金の流用に東国も絡んでいる、そう思いました。
しかし、北でも東でもその当時の俺の立場では調査に限界がありました。深く探ろうとしても記録も資料も見せてもらえない。証拠など出るわけがありませんでした。
そんな矢先です。
ザザ王子が、病死したのは。
俺は、今でもあれはロドルが殺したと、思っています。
叔父は少なくとも死に直結するような病はもっていなかったはず。あまりにも不自然すぎる死でしたが、遺体を調べることも叶いませんでした。
ザザ王子は、なくなったその日のうちに埋葬されたからです。
次に東国に就任するのは自分です。調べられなかったことがようやくできる、ロドルと兄が何をしていたのか証拠を掴めると思いました。
しかし結果、何もありませんでした。
どこにも何もないのです。
巧妙に過去の資料が隠されていると思いました。
もう、見つけるのは難しいのかと、落ち込んでいた時、あなたに会ったんです、ラナ。
あなたは王都の祝賀会に出席されていました。選ばれた五人の夢見のうちの一人だったのです。
夢見族は夢見の実績を本人たちには伝えませんが、王都にはその報告義務があります。
あなたは、国に配属にならない訓練の時期からすでに、誰よりも多くの実績を積んできていました。
俺はあなたのその素晴らしい力を貸してほしかった。夢見のあなたなら、王家の恥とも言える兄の真実を教えてくれるのではないかと。
リシアが退任したのは残念であったけれど、好機でもあった。すぐに東国の王子として夢見族にお願いをした。あなたを配属させることはそんなに難しくはなかった、ただ…
あなたたち夢見は、夢を見ると読み方を呼ぶのだと後から知った。何をするのか詳しくはわからないけれど、彼らに話すことは絶対であることを知りました。
仮にラナがロドルの夢を見ても、それをロドルも俺も同じ時に知るのでは遅すぎると、思いました。
そして、同じくらい心配だったのがあなたの心と体でした。東国の夢見への嫌悪感や排除への意識、その上ロドルもいる。優秀な夢見のあなたを自分自身のために危険な国へ連れていくことに罪悪感がありました。
できるだけ安全に、できるだけ穏やかに過ごしてもらいたい。護族を信用しなかったわけではなく、俺自身があなたを護りたいと思ったんです。
だから、護族と交渉の上、ニアを連れて行くことを条件にあなたの護衛に就くことができた。




