14夢
「それでしょんぼりされてたんですか」
「うん…」
浴場の隣にある脱衣所には簡易の寝台があり、体に香油を塗る時に使う。
ラナはそこに腰をかけ、マールとアルマに香油を塗り込んでもらっていた。
「まぁ、でも、結局ニア様が報告するんですから、隠し事できないですよね」
マールは寝台の横に立っているニアを見て言った。
「何にも見てないようで、すごい見てるんだよね。ニアの報告力にはびっくりだよ、本当」
「その力も相まってバレちゃったと」
「その通り。リズやアルマが私にしてくれたことも細かく伝えてるよ」
「そうなんですか!ラナ様のために働けてるみたいで、なんかうれしいです!」
「そう?そういうもんなのかな」
ラナ様、足を、と促されて、ラナは寝台に足を乗せる、マールとアルマが左右に分かれて足を香油でマッサージをしてくれる。
「アルマは誰からの紹介で私付きになったの?」
「ファタ様です!ファタ様の従者だった私をラナ様付きにと推薦してくださったんです!」
「ファタ様はシア様の部下?なのかな?すごい短い時間でしか話したことがなくて…どんな方なの?」
「綺麗な方ですよね。ただ、何を考えてるのかわからないことが多くて。すごい働き者ですし、シア様をとにかく働かせてるって感じがします!」
たしかに。初めて出会った時も仕事でシアを連れて行っていた。
「今度、機会があったらゆっくり話してみたいなぁ」
「いいと思います。いろんな方との交流は大切ですよ!」
マールがいつになく後押ししてくるので、笑ってしまった。
「ラナ様がこうやってイリュー様のことで悩むのも、日々の主な話し相手がイリュー様だからかもしれませんよ。いろんな方と話すことで思考が広がったり、悩みが紛れたりするんじゃないでしょうか」
「そうだね、ありがとう」
「終わりましたよ!」
アルマの元気な声で、気持ちが切り替わる。
柑橘系の香油は、気持ちをスッキリさせてくれた。ラナは、着せられるがままに寝着に着替えた。
浴場からラナの主室に戻ると、廊下で待機していたイリューが、ニアといつも通り引き継ぎをする。ニアが一礼して隣の部屋へ退室するのを見てラナは緊張した。
ここからはイリューと一緒だからだ。
昼間、注意を受けて以来なので、とても気まずい。
「マール、おかわりもらえる?」
「はい」
ラナはいつもは飲まない強めの苺酒を何杯も飲んでいる。マールの顔を見るとそろそろ止められそうな気がするが飲まないとイリューといられる気がしない。
「苺酒ですか?、珍しいですね、いつもは蜜柑酒ですよね」
「…今日は、ちょっと、苺がいいなって」
イリューに話しかけられて、心臓が波打つ。
お酒で顔が赤くなっているだろうから、今更赤くなったところでわからないだろう。
ラナはイリューの顔をじっと見つめる。
(かっこいいなぁ、やっぱり碧色の目がいいな)
「マール、ラナに水をもらえますか、だいぶ酔ってると思うので」
急に視界がぐらりと歪む。
ふわふわとした浮遊感が気持ちいい。
遠くでマールが自分を呼んでる声がする。
まだふわふわしていたいのに。なぜ呼ばれてるんだろう。
目を開けると、イリューの顔が目の前にある。
どうしたんだろう。
「大丈夫ですか?」
(大丈夫?何がだろう)
「大丈夫ですか?」
何度目かの声掛けでラナはようやく気がついた。
(私、倒れた…?)
「ラナ、お水です」
「ありがとうございます」
イリューがラナの背中に手を回して起こしてくれる。いつのまにかベッドにいた。
彼が運んでくれたんだろうか。
ラナは水を一口飲んでグラスをイリューに渡す。
「横になりましょう」
イリューがラナの体を支えて、ベッドに寝かせようとした。
彼の体がラナに近づいてくる。
真剣な表情、銀色の前髪、碧色の瞳。
ラナはイリューの背中に腕を回していた。
(硬くて広い体…いい匂いがする…)
「イリュー…ありがとう」
その時、ラナの背中にあるイリューの腕に力が込められたように感じた。
その後の記憶は、ない。
赤、黄、青の色の風が横に勢いよく駆け抜けた。
色がある。
(白黒が多いのに珍しい)
天井からの視点だ。
応接室だろうか。
人がいる。
体が動きそうなので、下の方に行く。
心臓に何かが突き刺さったような痛みがした。
ロドルがいる。
向かいに座っているのは、
シア、
ファタ、
イリュー、
もう一人はターヴァだと思う。
音はない。
でも何か言い争っている。
(あれ?)
よく見るとイリューの服がいつもと違う。
(何で?)
いつもの黒い着物ではない。
桜の紋章が、付いている。
(王族の…)
ロドルが笑ってる。
ファタの後ろから誰か出てきた。
イリューとシアがそれに気がついた。
イリューがファタを庇うように前に出る。
その誰かが、イリューに何か、した。
(何をしたの)
イリューが倒れる。
シアとダーヴァが助けようとしている。
イリューの反応がない。
(死んだの?)
途端に色がなくなった。
「おはようございます〜どうでしたか?」
まだ心臓がドキドキしている。
「おはようございます」
いつもの黒い着物だ。
「ラナ様?どうしました?」
マールが反応がないラナを心配して声をかける。
「イリュー、イリューは護族じゃないの?」
ラナの一言で、イリューの顔から笑顔が消えた。




