13つながり
着任の儀式から、半月ほどが経った。
その間、夢を見ることはなく、何も知らなければ、平穏に過ぎた日々だった。
ラナは、北国について、特にロドルが北国にいた時期について調べることにした。
ロドルが第二王子の統治補佐になっていたのは今から五年前。三年前のあの爆発事故があってから、すぐに東国のザザ王子にやはり統治補佐として引き抜かれている。
(第二王子とザザ王子には何かの繋がりがあったのかな…)
「北国について調べてらっしゃるのですか」
リズが、ラナの手元にある本を見て言った。
彼女は手際良くラナにお茶を出した。ふわっといい香りが漂う。
「うん。ちょっと興味があってね…。あ、ニアもお茶飲む?」
「いえ、結構です」
ラナの隣に立っているニアはぴくりとも動かず断る。
「リズ、ありがとう。下がっていいよ」
「はい。では失礼いたします」
リズが出入り口のドアを開けた時、同じタイミングでイリューが入ってきた。
最近は着替え入浴時以外にも、ニアと交代することが度々ある。が、一体何をしているのかはラナはよく知らない。
「お帰りなさい、イリュー」
「すみませんでした。…あれ、ラナこの本どうしたんですか?」
イリューは北国に関する本と束になっている幾つかの資料を見て驚いて言った。
油断した。イリューが来る前に片付けておくべきだった。
「あ、それは、えっと…シアが貸してくれました」
「シアが?」
ラナはイリューの声が低くなったのを感じた。
(怒るよね、やっぱり)
「実はイリューには内緒って言われてて…」
「そうでしょうね…」
「ごめんなさい、私が調べたくて無理を言ったから、シアは助けてくれようとして…」
「ラナ、わかってると思いますが、こんなことしてるってことだけでも十分危ないんです。これ以上調べるのはやめてほしい」
「じゃあ、誰が調べてくれるんですか?この話はこれで終わりですか?」
「終わりにはしません。…シアが…調べてくれています」
本当は言いたくなかったという表情だ。ラナは面白くない。
「シアはイリューも調べてるって言ってました。それは本当なんですか?」
怒りと諦めが同時にやってきたのか、イリューは一瞬言葉を失ったが、そのあと観念したように言った。
「…本当です」
「イリュー様、情報共有お願いします」
ニアは全くの無感情で、イリューのそばに行き一礼した。ラナとイリューが話していても気にかける素振りはない。
「今?」
「今です。引き継ぎますから。よろしくお願いします」
「…わかったよ、どうぞ」
イリューはまた観念して言った。
「読書時報告一、ラナ様は北国についての概要を学びました。報告ニ、北国第二王子とロドルの関係について学び、紙にまとめました。報告三、ロドルとザザ王子との繋がりに疑問を持ちました。その間従者のリズがラナ様にお茶の提供を行っております。以上です」
ニアの報告は端的でわかりやすい。話されるタイミングさえ良ければもっといいのだけれど。
「イリュー様が戻られましたので、私は隣の部屋で控えております。失礼いたします」
ニアはイリューが戻ると、すぐに報告をして交代する。そして隣の部屋にいて、自分の交代の時を待っている。彼女にとって必要な仕事の流れだと言うことに、ラナも半月経って理解した。
「ずいぶんと調べてるんですね」
イリューが大きなため息をつく。
「結局ニアが報告するから隠しててもバレちゃいますね」
「ラナ」
「はい。…ごめんなさい。ちゃんとわかってます。でも、わかってても止められなくて…本当にごめんなさい」
「…気になることは仕方ないと思います。調べたくもなる。…ラナはどうしたいんですか」
「私は、何があったか知りたい。知ったことで後悔するより、知らないまま後悔する方が嫌なんです」
「ラナの気持ちはわかりました。ただ、どうするか、少し時間をもらえますか」
「…わかりました」
ラナはイリューを困らせてしまったと落ち込む気持ちと、それでも言わなくてはいけなかったという気持ちが混在した。
***
王邸にある統治補佐室であるシアの部屋は、働き者のファタのおかげで書類と本の山だ。
辛うじて足の踏み場は確保されているものの、決して広い部屋ではないので、歩けなくなるのも時間の問題だ。
「あのね、僕は東国の側近なんだから、ラナちゃんにロドルのことを聞かれて知らない、でごまかせるわけないでしょーが!」
最近仕事に忙殺されているシアは、心に余裕がないので常にイライラしている傾向にある。
そうだとわかっていても言わなければいけないことは言わせてもらう。
「だからと言って、言っていいことと悪いことの判断もできなかったのか」
「勝手なことばかり言ってくれるよ。お前なんかラナちゃんのそばにいるだけでいいけど、僕は本来の仕事に加えて、お前に頼まれた仕事までやってんだー!もっと感謝しろー!」
「本日の睡眠2時間です」
ファタが情緒不安定になってるシアを横目で見てイリューに伝える。
「わかった。とりあえず、シアは寝た方がいい」
イリューはため息をついて、言いたかったことを我慢した。
「仮眠しますよ。移動します」
ファタに抱えられながら、シアがイリューに向かってぶつぶつ文句を言いながら退室していく。
イリューは腹が立つ気持ちを抑えて何も言わなかった。
(さて、どうするか…)
そもそもラナを護るために護を務めているのに、彼女を危険な目に合わせるのは矛盾している。
かと言ってラナに、手を引けと言ったところで、隠れて調べようとするだけだろう。
シアの立場と性格考えると確かに断るのは難しいのもわかる。
「全部話してしまってはいかがですか」
気配がなかった。
「ファタ、びっくりした」
「イリュー様が気づかないなんて危険です。寝てますか」
「お気遣いありがとう、大丈夫だよ」
「頭を悩ませるくらいなら、話すべきです。結局、ラナ様が夢見である以上、いつ夢で事実を知るかわかりませんから、隠せません」
確かにその通りだと、思っている自分がいる。
けれど、本当にそれで良いのだろうか。
隠しきれないとわかっていても、ラナには安全なところにいてほしいと思っていたはずだ。
ノック音がした。
「はい。どうぞ」
ファタが、早口で応える。
「あれ?何でイリューがいるんだ。やべ、なんかダジャレみたいになった。いりゅんだ、みたいな」
「なってません」
ファタは冷たく言い放つ。慣れているんだろう。
元気よく入ってきた彼は、ファタに冷たくされて、あからさまにがっかりして見せた。
「何かあったのか」
「実は、ザザ王子の隠し部屋にあった大量の書類の中に、メモが挟まっていて、これこれ」
ダーヴァは、ポケットから小さなメモを出した。
栗色の髪がふわりと揺れた。
イリューはメモを見たあと、同じくメモを覗き込んでいたファタに確認するように視線を移した。
「同じです」
「…シアが、起きたら話し合おう」
ファタとダーヴァは無言で頷いた。




