11本来の護
王邸から歩いて半刻のところに夢見の館がある。
石造の館には、大小合わせて三十の部屋があり、そのうち三部屋が護族専用の部屋になる。護族専用の部屋は、もちろん夢見の部屋の近くにあるが、使われることはあまりない。
前任の夢見リシアの護であったヨルナは常にリシアのそばにいたので、部屋にはほんの少しの荷物だけ置いてあるだけだった。
イリューは、前例のない異性の護であったため、いざという時のために、本来ラナに付くはずであった護を同行させていた。
彼女は専用の部屋でイリューに呼ばれるのを待っていたことになる。
「はじめしてよろしくお願い致します。護族、次期、長ニアでございます」
赤茶色の短い髪、意志の強そうな二重な瞳、スラリとした立ち姿が美しい。
「え、次期、長?」
ラナは咄嗟にイリューの顔を見た。彼は瞼をゆっくり閉じて肯定した。
「はい。次期、長にございます」
聞き間違いではなかった。
そんなすごい人が自分付きの護についていいのだろうかとラナは戸惑った。
「ラナ様よかったじゃないですか、すごい方に護ってもらえて。マールは安心です」
「よろしくね、ニア」
「じゃあ、リズとアルマの紹介と訓練も兼ねてお風呂に行きましょうか!ニア様もいるしゆったりしましょ!」
「こんなときに?!」
「こんなときだから、ですよ!」
ラナは助けを求めるようにイリューに視線を送った。
「ゆっくり入ってきてください」
「ほら、ね、行きましょう!」
マールがその後隣の部屋で控えているリズとアルマを呼び出した。
ラナもお風呂に入りたい気持ちには抗えそうもなかったので、行くことにした。
***
イリューはラナの入浴時間が相当長いことを知っていたので、今のうちに王邸へ行くことにした。
誰にも気づかれないように素早く館から出ると、王邸へ向かった。
主人を守る気が全く感じられない王邸の裏門を抜け、外側の窓の張りを上手に伝って目的地まで辿り着く。イリューの体より大きい木製の窓を三回叩いた。合図の一回が返ってきたので窓を開ける。
「どうしたの、こんな時間にさぁ。緊急かい?」
シアが眠そうにこちらを見る。隣でファタが無表情で分厚い資料をどんどん重ねていっている。
「こっちは調べても調べても証拠が出てこない地獄調査だよー。だいたいどっから見つけてきてんだよ、ファタ。こんなにたくさん」
「過去の財務資料です。ザザ王子の隠し部屋から発見しました」
「また勝手なことして。王子不在なのに働きすぎなんだよー!休みたいの、僕は!」
「シア、北国の爆発事故知ってるよな」
「ああ、今あれだろ事故じゃなかったかもしれないって調査し直してる…」
「その爆発事故の夢見をラナがしていて…」
「ラナちゃんが?」
「今日、ロドルに会ってラナが気づいたんだ。爆発前の現場にロドルがいたってことを。そして、奴だけが生き残ってる」
「北国の証拠隠滅爆発事故だったってことか」
「爆発事故の被害者名簿を調べてみよう。北国の財務関係がいたら証拠が出るかもしれない」
「私北国行きます。身軽です。顔も知られてません。いいですよね?」
「北国はファタにまかせる。シアはいつも通り。ターヴァは?」
「僕と同じで別室で地獄調査だよー」
「俺は引き続きラナの護衛に専念する。このことに気づいたのはラナなんだ。ロドルにそれを知られたら間違いなく彼女を消そうとするだろうから」
「僕が代わりたーい!いいなぁ、あんな綺麗な子のそばにずっといられてさ。羨ましいよ」
「護ることだけが目的じゃない。彼女の夢見をいち早く知りたいからだ」
「とか何とか言っちゃってさー、惚れてるんでしょ、ラナちゃんに」
シアは口を尖らせてイリューを責める。
「では戻る」
シアの質問には答えないでイリューは入ってきた窓をそっと開けて闇に消えていった。
「本当素直じゃないよねぇ〜今日の会食の様子見たら惚れてる以外ないだろ!って感じだったじゃん!な、ファタ?」
「さぁ。わかりかねます。仕事です。続けてください」
「はぁーい。やりますよ、やれるまではね!」
そう言っている顔は、眠くてしんどいとしか伝えていなかったが、ファタは無言でどんどん機械のようにシアを働かせまくるのだった。




