閑話5.友達
割と真面目回
友達
この短い一言が、我にとってどれほど嬉しいものだったのか、コーヘーは知るまい。
竜は孤高の種族。
若い内に家族とすら別れ、その長い生の殆どを流浪の旅で過ごす。
それは何も望んでそうしている訳では無い。
世界を守る為に、そうせざるを得ないのだ。
生まれついてその身に強大な魔力を宿す竜は、自然周囲に発する魔力、そこから生まれる魔素もまた膨大な物になる。
魔素は生物が生きるため、自然を保つためにも不可欠な物じゃが、過ぎれば猛毒じゃ。
過剰な魔素は魔素溜まりとなり、魔素溜まりは魔物を産む温床となる。
そればかりか、場合によってダンジョンすら生み出してしまう。
ダンジョンは魔素溜まり以上に大量の魔物を産みだす、まさに災害。
発見次第国を挙げて攻略、討滅せねばならない代物じゃ。
無論自然の状態でも魔素溜まりは出来るが、竜が一所に留まる事でそれが加速してしまう。
集団で居れば尚の事じゃ。
同族以外の者と、長く共に在ることも出来ない。
竜や精霊のような、大量の魔素を産む種族の傍にそれ以外の種族がいると、その膨大な魔素に当てられ、心身に良くない影響が出てしまう。
場合によっては、命に係わるほどの。
稀に同族以外と番う者もいるが、それは僅かな例外じゃ。
相手が魔素に対し強い耐性を持つ種族であるか、或いは年に数回、ごく僅かな時間の逢瀬を重ねるかじゃ。
それに最強種である竜は畏怖と畏敬の対象でもある。
強大な力を持ち、永い時を生きるが故に、人の間では竜に関して、良かれ悪しかれ虚実様々な伝承がされている。
土地によっては神、或いはその遣いとして信仰されている事もあると聞く。
人からすればそのような存在に好き好んでは近付きづらいじゃろう。
しかしそうでなくとも、竜は余り他種族と深く心を交わそうとはしない。
竜は長大な寿命を持つ種族、その齢は数千年、長ければ万を数える者もいる。
比べて他の種族の命は短い。
人の中では長命なエルフですら長くとも千年程度。
どれほど心を交わそうと、どれほど親しくなろうとも、皆我らを置いて、先に逝ってしまう。
故に竜は群れず、留まらず、放浪し続ける。
世界に害を及ばさないように。
たった一人で。
じゃが、人と変わらぬ精神性を持つ竜が、こんな生き方に孤独を感じぬ訳が無い。
竜の生涯は孤独との戦いでもあるのじゃ。
なのに、ああ、だと言うのに。
『ここで、この家で暮らさないか?』
これがもし元の世界でのことならば、一も二もなく断っていたであろう。
それ以前に竜の生態や性質は有名な話、どんなお人好しでも決して誘ったりはしない筈じゃ。
…じゃが、我は気付いてしまった。
魔素の無いこの世界でなら、竜は人と共に生きられる。
竜が他の生物の害になるのは、その身から発する多量の魔力、そこから生まれる魔素が原因。
じゃが魔素の無い、世界を構成する要素として始めから存在していないこの世界では、我の発する魔力は魔素に変わることなく、只々溶けて消えていく。
そもそもからして、魔物やダンジョンの発生など、魔素の存在によって派生するあらゆる事象が世界の機構として組み込まれてはいないのだ。
そのことに気付いた時、我が真っ先に思った事は、
これなら、誰かと一緒に生きられる―――
本当は我も言いたかった。
どうかここに置いて欲しいと。
我が友になってほしいと。
だから嬉しかった。
誘ってくれたことが。
友だと言ってくれたことが。
だから、我の返事は決まっている。
「これからよろしく頼むぞコーヘー!」
「こちらこそ、よろしくなディーネ」
人間であるコーヘーは、いつか我を置いて死んでしまうじゃろう。
どれだけ一緒に居られるかは分からない。
我はこのままこの世界で生きるのか、元の世界に帰る事になるのか、それも分からない。
ひょっとしたら、世界に対する異物として、弾き出されてしまうかもしれない。
それでも―――
この世界に生を受けた者ではない我に、それでも祈ることが許されるのなら…どうか異界の神々よ、この良き友と、今は一緒に居させてください―――




