閑話4.異界の食との出会い
ズル ズルル…
何じゃこれは―――
コーヘーから饗された“らーめん”という麺料理は、何とも奇妙な物じゃった。
縮れたようなねじれたような麺。
その麺が沈むほどの大量の熱いスープ。
薄いが掌ほどもある肉と、薄茶色に色付いた半生の茹で卵。
しかも食べる時には音を立てて啜り込むという、我の常識からすると酷く下品な食べ方をすると言う。
もし躾の厳しかった母上に知れたら、尻を引っぱたかれるかもしれん。
しかし今はそんな事はどうでも良い。
「コーヘー!」
「お、おお、どうした?」
「物凄く美味いぞ!」
「…そりゃあ良かった」
らーめんは途轍もなく美味かった。
鶏の旨味がこれでもかと溶け出した出汁に、ショーユとか言う黒いソースで味付けされたスープが後を引いて止まらない。
上に浮かべられた鶏の脂も芳しい。
麺はモチモチと弾力があり、噛み締めるごとに小麦の旨味が滲み出てくる。
薄切りの肉は冷たい時には肉を噛み締める食感が楽しめたが、温まるとふんわりと解れるような柔らかさに変わり、どちらも違う味わいがある。
そしてこの卵!
中身が生なのはどうかと思ったが、これが素晴らしい!
味が芯まで染みて、とろりとした黄身が、ああ…。
ズル ズルルっ ズズ、ゴク… ズルルルルッ
ゴク…ゴク…ゴク…「「ぷはぁーーー!」」
夢中で麺を啜り続け、気が付けばスープの一滴まで飲み干してしまった。
ああ、もう終わりか…。
もう少し食べたいのう…。
いや、好意で馳走になったというのに、幾ら何でも図々しすぎるじゃろう。
…でも食べたい。
「…俺はお代わりするけど、グランディーネはどうする?」
「食べる!」
誘われたからには仕方ないの!
断るのも失礼じゃからの!
と、それはそうと。
「あ、コーヘー!」
「どうした、大盛りにするか?」
「それは是非…違う!でも大盛りは頼む」
「了解。で、どうした?」
「ディーネじゃ」
「…?」
「我の事はディーネで良い。親しい者はそう呼ぶ」
「…良いのか?」
「勿論じゃ。一緒に料理をして、一緒にらーめんを食べた仲じゃからの!」
「じゃ、じゃあディーネ、直ぐ作るから待ってろよ」
「うむ!」
台所へ向かう背中を見送り、ふと、ごく自然に愛称を許した自分に少しだけ驚く。
身内や同族以外に愛称で呼ばれるなぞ、初めてではないか?
…そう思うと少し恥ずかしくなってきた。
むう、いかん、顔が赤くなってないかの…?
「出来たぞ」
「おお!待ってたぞ!」
我は内で感じる気恥ずかしさを誤魔化す様に、殊更大きな声で返すのじゃった―――




