15.ドラゴン娘と同居する
「其方は良い奴じゃの」
は?
「何だよいきなり」
「得体も知れぬ存在である我を家に入れてくれたばかりか、食事を馳走し一夜の宿まで貸してくれた」
「…まぁ見つけたからには放り出すのもなんだしな」
「最初は我の体目当てかとも思ったが」
「おい」
「偶に視線がこれに向いておったしの」
言いながら自身のその豊かなお胸様を持ち上げる。
ありがとうございます。
じゃなくてよしなさい、はしたない。
「今もこうして、昨日会ったばかりの他人に過ぎぬ我の事を真剣に考えてくれておる」
「…この国には乗り掛かった舟って言葉もある」
「何よりも」
「?」
「一番に考えるべきであろう選択肢を、敢えて言おうとしていない。恐らくは我の身の安全の為に」
「…!」
「今の我は、この国に流れ着いた、言わば遭難者であり難民じゃ。ならば何よりもまず最初にこの国に庇護を求めるべきじゃろう。だのに其方は、分かっていながらそれを決して口にしない」
「…それは」
「単刀直入に聞くぞ。…もし我がこの国に庇護を求めたら、どうなる?」
「…」
ディーネが人間ではないという証明は簡単だ。
少し体を調べれば角や翼、尻尾が本物なのは直ぐに分かるし、DNA検査だってある。
少なくともこれまでに確認されている、如何なる生物とも“違う”という事は認められる筈だ。
地球上の未確認生物と見做される可能性も有るが、魔法も合わせれば異世界の存在を容認する可能性は十分にある。
「…日本政府はそう悪い扱いはしないと思う。世界でも稀に見るお人好し民族だからな、正当な理由で保護を求めてきた相手を蔑ろにするような真似をしたら、国民が敵になる。この国では国民を敵に回した政治家はやっていけないんだ」
だが。
「それも絶対じゃない。日本政府が異世界の存在を信じたなら、異世界へ行ける可能性が有るのなら、その情報は喉から手が出るほど欲しいに決まっている。それこそ、何をしてでも」
国民の手前保護を求めてきた相手を蔑ろには出来ない。
けれど、そもそも保護を求めてきた存在そのものが国民に知られなければ、何をしても問題は無い。
「そして仮にこの国が大丈夫だとしても、他の国もそうだとは限らない。いや、間違いなく日本以上に過激な行動に出る」
政府に保護を求めるならば、ディーネの存在を隠すのはほぼ不可能だ。
国外から漂着した遭難者への対処がどういう物かは知らないが、恐らく外務省辺りの管轄だろう。
しかし当然いきなり外務省に連絡が取れる筈も無い。
最初は警察なり消防なりに行く必要がある。
そこから情報が上がっていく段階で、間違いなくディーネの情報は国内外に拡散してしまう。
そうなればあらゆる国がその身を求めて、合法非合法問わず何かしらの手段を講じてくるはずだ。
そしてそれは国だけではない。
「裏表問わず、世界中のあらゆる国家、組織、研究者、宗教家なんかがディーネの身を求めて、大挙して押し寄せてくるだろう。そうなったらその先に待っているのは三通り。異世界や魔法の情報を絞り出すための“情報源”。希少生物としての生きた“標本”。神としてか悪魔としてかは分からないが、“信仰の象徴”」
「…どれもロクな物では無いの」
「勿論これらは最悪の部類の予想だが、多分どうなったとしてもそう外れないと思う」
「そうじゃな、我でもそう思うわ」
「だから国に頼る訳にはいかない。俺はディーネを、俺の友達をそんな目に合わせたくない」
俺の言葉にディーネは一瞬ポカンと呆けた顔をし、それから嬉しそうに微笑んだ。
「友達、か。我を友と、そう言ってくれるのか」
「当然だろ。何だ、ディーネは違うのか?」
「そんな訳あるまい!コーヘーは我が友じゃ!」
自分で言って、ディーネにも言われて、ようやく俺の中で心が固まる。
そうだよな、困っている友達を助けるのに、男も女も関係ないよな。
「なぁディーネ」
「む、なんじゃ?」
「ここで、この家で暮らさないか?」
また呆けた顔をするディーネ。
「…我は、この世界の事を何も知らん。世間知らずみたいな物じゃ」
「常識は勉強すれば良い。取り敢えずは良識があれば十分だ」
「金がない」
「そりゃそうだろ。幸い俺は稼ぎも蓄えもそれなりにある。一人養うぐらいは問題ない」
「その恩に、返せる物も何もない。強いて言えば体ぐらいか」
「そんな理由でそういう事をしても嬉しくない」
「真面目じゃの」
「それに友達を助けるのに、見返りを求める気は無い」
「そうか…」
ディーネは俯き、その表情は窺い知れない。
「本当に、良い奴じゃ…」
小さく呟くように言われた言葉だけが、辛うじて耳に届いた。
目の辺りから水滴のようなものが落ちるのが見えたのは、まぁ、見なかった事にしておこう。
そのまま暫し、手の甲でぐしぐしと乱暴に目を擦ってから上げたその顔には、若干赤くなった目と、それ以上に輝かんばかりの笑顔が浮かんでいた。
「こちらからお願いする。どうか我を、この家に置いて欲しい」
「…ああ、勿論だ」
それを聞いたディーネは増々笑顔を輝かせて、
「これからよろしく頼むぞコーヘー!」
「こちらこそ、よろしくなディーネ」
こうして中堅ラノベ作家の俺の家に、ドラゴン娘の同居人が出来たのだった―――
この先二人の関係をどうするかは考え中です。
現時点ではお互いに抱いているのはほぼ友情のみです。




