13.ドラゴン娘はちょっと抜けてる
夕食から食休みを挟んで一時間後、コーヒーカップを置いたテーブルでディーネと向かい合う。
「では、今後の事を話そうか」
「うむ、よろしくお願いする」
「まず現状分かっている事を纏めよう」
1.ディーネは異世界からこの世界へ転移してきた。
2.1の原因は不明。
3.ディーネの元居た世界にはこの世界から勇者が召喚された事がある。
4.勇者が最後どうなったかは不明。
5.よってディーネが帰れるかどうかも不明
「こんな所か?」
「実質何も分かってないようなもんじゃのう…」
「情報が何にも無いからなぁ…」
せめて転移の原因だけでも分かれば良いんだけど…。
「んー、こういう時は直前の状況を考えるとか…」
「と言うと?」
「野営して気付いたらこの家だったって言ってたよな?」
「うむ、食料が尽きてすきっ腹がつらくてのう…。とっとと寝て、直ぐに次の村を目指そうと思っておったのじゃ。それが気が付けばこの場所で寝かされておったという訳じゃな」
「周囲に人の気配とかは?」
「無いな。そもそも我が野営したのはかなりの山奥じゃ。昼間ならともかく、夜に好き好んで野営しようという奴なぞおらん」
「…じゃあ何でお前はそんな所で野営したんだよ?」
「その辺の獣や魔獣何ぞ、竜の気配を察したら絶対に近付いて来んからの。人がおらんのなら我には却って安全なんじゃ」
成程、近付いて来るのは危機察知能力の低い人間だけって訳か。
「うーん、じゃあその場所に何か変な物があったとかは?」
「変な物、というか変な場所じゃったのう。何しろ遺跡じゃったからの」
ん?
「遺跡?」
「山越えをしておったんじゃが、途中道を間違えた所為で、山頂の手前あたりで日が落ちてしまっての。野営に丁度良さそうな洞窟があったので入ってみたのじゃ」
「…」
「そうしたら奥に遺跡があっての。罠らしいものも見当たらんかったし、中々頑丈そうじゃったからそこで休む事にしたのじゃ」
「…因みにどんな感じの遺跡だったんだ?」
「台形の祭壇みたいな感じじゃったの。一番上には何やら儀式の跡と思しき随分古い魔法陣があったわ」
「…その山の辺りでさ、何か異世界が絡んでくるような伝承とかってない?」
「伝承?…そういえば勇者召喚を行った神殿が山のどこかにあ、る、と…」
そこまで言ってようやく思い至ったのか、言葉が止まる。
マジで今の今まで思い付かなかったのか?
「それ、どう考えてもさ…」
「い、いや待て。仮にそうじゃとしても、あの陣は完全に死んでおった。あちこち崩れて欠けておったし、何より魔力も全く通っていなかった。でなければ幾ら我でもそんな陣のある所で休もうとは思わん!」
「あ、そうなの?」
「そうじゃ。ああいった魔法陣というものは、一度使うごとに魔力を籠める必要があるし、魔力が通っていない限りは落書きと変わらん。外から魔力を籠めてやれば別じゃが…あ」
何だ、「あ」って。
不安しか感じないんですけど。
「おい…」
「その、我等竜族は生まれつき持っている魔力が多くての、無意識に放出して周囲に影響を与えてしまうのじゃ。じゃから余り一ヶ所に固まらない様に、長老たちや子育て中の者以外はあちこち旅しておるのじゃが…」
「周囲に、放出…」
「…魔法陣が、我の放っていた魔力を勝手に吸収して、作動してしまったのかもしれん」
「魔法陣が勝手に吸収、っていうのはある事なのか?」
「技術としては有る、が普通は人が管理している、大規模な魔法装置に付ける物じゃ。人の見ていない所で勝手に作動したり、魔力過剰で暴走しようものなら大変な事になるからの。まして勇者召喚の魔法陣になど…」
そりゃそうだ。
もし誰もいないときに勝手に勇者が召喚されたりしたら、間違いなく大変な事になる。
まして何かの不具合で、勇者以外の“何か”が召喚されたりしたら…。
成程、だからそんな山奥の遺跡の魔法陣に、そんな機能が付いているとは始めから考えなかったのか。
けど…。
「もしこの仮定が全部正しいとしても、“勇者召喚”の魔法陣だろ?何で勇者が呼ばれずに、ディーネがこっちへ来てるんだ?」
「魔法陣自体が欠けたり崩れたりで劣化しておったからの、不具合が生じたのかもしれん」
「つまり“異世界から勇者になる存在を呼び出す魔法”が、“陣の周囲の存在を異世界に送る魔法”に変質してしまった、と?」
「恐らく…」
聞けば聞くほどそれしかない気がしてくる。
と言うかそれなら言葉に関する事も説明がつく。
気にはなっていたのだが、ディーネは普通に日本語を喋っている。
口の動きからしてもそれは間違いない。
恐らくだが、勇者召喚の魔法には現地の言葉を刷り込んだり、環境に適応させる効果もある筈だ。
でないと会話もままならないし、大気組成が同じだとも限らない。
菌やウイルスに対する抗体の問題もある。
最悪呼び出した瞬間に即死、という可能性すらあるのだ。
…気になる点は多いが、検証のしようもない以上これ以上の考察は無意味だな。
今はそれよりも、ディーネの身の振り方を考えるべきだろう。
帰還の方法を探すにせよ直ぐに見つかるとも思えないし、当面はこっちで生活する必要があるんだから。
ただその前に一言言っておきたい事がある。
「正体も良く分からん魔法陣の上で寝るんじゃありません」
「面目ない…」
しょんぼりするディーネ。
この子はちょっとアホなのかもしれない―――




