12.ドラゴン娘と油そばを啜る
題材が油そばなのは作者が好きだからです。
札幌にももっと専門店が増えれば良いのに。
油そばの材料はスープが無い以外、普通のラーメンと余り変わらない。
まず麺と煮豚は昨日と同じ。
煮豚の煮汁。
豚の旨味たっぷりのこれに手を加えてタレにする。
因みに市販のインスタント麺やチルド麵に、この煮汁を少量加えると旨味が増すぞ。
豚脂。
これは煮豚から出た脂を冷やし固めて取り出したものだ。
豚脂はスーパーなんかでチューブで売っているが、あれらは精製されていて今一つ味気ない。
やはり直接肉から煮出して取った方が美味い。
葱と海苔。
勿論薬味。
他にもおろしにんにくやニンニクチップ、煎りゴマ摺りごま何かがお薦め。
卵。
今回は煮卵ではなく、潰して麺に絡める温泉卵でいく。
生卵でも良いのだが、火を通した方が味が濃くなるからな。
酢、ラー油、マヨネーズ。
実食用卓上調味料。
この三つは鉄板。
まず麺茹で用のお湯を沸かすのだが、油そばは汁が無い分麺を沢山食べやすい。
二人分で四玉茹でるつもりなので、大鍋で大量に沸かす。
この間に俺はタレ作り、ディーネには…。
「ディーネは葱と海苔を頼む。葱は昨日と同じ感じで、海苔はハサミで細く刻むんだ」
「…この、黒い紙みたいな物は、食材なのか?」
「海苔って言う海藻、海の草を細かく刻んで紙みたいに延ばして干したものだよ」
「海の草を食べるとは、異界の食は奥が深いのう…」
この世界でも、海藻なんて食べる民族は日本人以外余りいない。
中国人は脚のある者は机と椅子以外は食べると言うらしいが(誰が言ったかは知らん)、日本人も負けてないよな。
煮豚の煮汁をフライパンに入れ、醤油と、コク出しに鰻のタレを加えて軽く揺すりながら極弱火で火にかける。
元々煮汁には昆布出汁と豚肉で十分旨味が出ているので、少し調味して煮詰めてやればそれだけでタレとして使える。
因みにフライパンを使っているのは、鍋よりも表面積の大きいフライパンの方が速く煮詰まるからだ。
只あっという間に煮詰まるので、焦げない様に注意は必要だが。
煮詰まった所でタレを丼に注ぎ、熱いうちにラードと胡麻油を落としてタレの用意は完了。
空いたコンロで温泉卵用のお湯を沸かし、茹でる前に卵の尻に画鋲で穴を開けてやる、すると後で殻が向きやすくなる。
氷水の用意と、タイマーを十二分でセットして…。
「コーヘー、全部刻んだぞ」
おっと、いいタイミングで。
「じゃあ次はこの卵を頼む。お湯が沸いたら火を止めてこの水一杯と、このお玉を使って割れないように注意しながらそっと卵を入れる。そしたら蓋をしてタイマー…この機械の音が鳴ったらお玉で卵を取り出して、直ぐにこっちの氷水で冷やす。」
「茹でるのに火を止めるのか?」
「固まりすぎないように余熱だけで火を通すんだよ。温泉卵って言ってな、昨日の煮卵よりさらに柔らかくトロトロになる」
「ほう、そんな茹で方があるのか」
納得したのか、睨むような真剣な顔で鍋に向き合うディーネ。
そんなじっと見てなくても…いやまぁ良いか。
今の内に食卓の方の用意をしておく。
付け足し用の調味料を運んでおき、ペットボトルのお茶とコップ、箸を出す。
ディーネ用には割り箸を…。
「…一膳買うか?」
一瞬考え、けれど直ぐに首を振って自分で否定する。
一晩で妙に馴染んだが、ディーネはずっとここにいる訳じゃない。
やはり俺みたいな一般人じゃなく、どこか然るべき所に頼った方が良いし、帰る方法があるなら帰った方が良いに決まっている。
だが自分のその思考に、妙に寂しいような悲しいような感覚を覚える。
…成程、馴染んだのはディーネだけではないらしい。
自分自身に苦笑を向けるが、聞こえてきたタイマーの音を合図に思考を棚上げし、調理の仕上げをすべく台所へ向かう。
「おお、コーヘー。言われた通り水に浸けておいたぞ」
「ああ、ありがとな。後は茹でるだけだから、卓に着いてて良いぞ」
「うむ!」
いい返事を返し、機嫌良さげに尻尾を振りながら台所を出ていく背中を見送る。
…さてやるか。
沸き立つ鍋に四玉分の麺を解しながら放り込む。
油そばの麺は普通のラーメン用の麺でいいのだが、茹で時間は袋に書いてある時間より少し長くする。
袋の時間は茹でた後に熱いスープに浸かる分も計算に入っているので、油そばだと固くなってしまうのだ。
鍋に注意を向けつつ卵の殻を剥く、と言っても温泉卵なので生卵と同じ要領で割るだけである。
うむ、言い茹で具合だ。
言ってる間に茹で上がった麺を笊に空け素早く湯切り…流石に四玉分は重いな。
湯切りした麺をタレの入った丼二つに分け入れるが、片方は若干多めにしておく。
どっちの分かは最早言うまでもあるまい。
丼の縁に立てるように煮豚を並べ、麺の真ん中に温泉卵を落とし、葱と海苔を散らして…。
「完成、っと」
♦ ♦ ♦ ♦ ♦
「これがアブラソバとやらか。見た目にはらーめんから汁が無くなっただけじゃが…」
「食べてみりゃあ分かるさ。味も食い方もかなり違うからな」
「食べ方も違うのか?」
「まず最初にお酢とラー油を掛け回す。 お酢はその黄色っぽい液で酸っぱい調味料、ラー油は赤くて辛い油だ。 酢は三周、ラー油は二周ぐらいかける」
「うむ」
「かけたら具も一緒に、タレと絡めるように底からかき混ぜる!」
「こ、こうか?」
「麺全体にタレが絡んで色が均一になったら食べ頃だ。好みでお酢やラー油を足したり、マヨネーズを入れても美味い」
「…こんな感じか?」
「上出来。それじゃあ…」
改めて手を合わせて。
「頂きます」
「イタダキマス」
ズルッ、ズルルルルッ
美味い。
このこってり濃いのにしつこくない感じ!
卵が絡んでまろやかになってるのがまた良い。
「昨日のしょうゆらーめんとやらとはまた違って美味いのう!」
どうやらドラゴン娘もお気に召したようだ。
「脂でこってりしておるのにくどくない。むしろしょうゆらーめんよりさっぱりしておる」
「お酢とラー油の効果だな」
「この、ノリとか言う物も良い。こんなに薄いのに、味も匂いも意外にしっかりある」
「日本人以外には『紙食べてるみたい』って言われる事もあるんだけどな」
「我は好きじゃぞ!」
「口に合ったなら何より」
「うむ!じゃが何よりもこの卵が良い!ハンジュク、じゃったか?火を通し切らん卵がこんなに豊かな味になるとは!」
「…」
うん、こんなに喜んでもらえるとやっぱり嬉しい。
「む?どうしたコーヘー?」
「何でもないよ。それよりそのマヨネーズを入れても美味いぞ」
「ううむ、まだ先があるとは、何と奥深い…」
マヨネーズを混ぜた油そばを一啜りしてまた喜ぶ彼女を見ていると、知らず肩に入っていた力が抜けていくのを感じる。
この後の話し合いの結果がどうなるかは分からないが、そう悪い事にはならない気がする。
「なるようになるか」
「?何ぞ言うたか?」
「…麺を食べ終わった後にご飯を入れて、残ったタレと絡めて食べると美味いぞ」
「おお!それも食べるぞ」
「あいよ!」
俺も食べよ。




