表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/11

第三話 片言の妖怪

「ただいまー」


「おう」


「今日さ、会社でね」


「おう」


「子どもたちが今度帰ってくるって」


「おう↑?」

語尾が少し上がった。

聞いているアピールである。


私は、もはやこの微妙なイントネーションの違いを聞き分けられるようになっていた。

奴は、年々日本語を失っている。

若い頃は違った。

「今日も綺麗だね」

「会いたかった」

「愛してる」

聞いてるこっちが恥ずかしくなるくらい甘い言葉を吐いていた男が、今ではほぼ「おう」しか言わない。

もしかすると長年の結婚生活の中で、日本語能力が退化したのかもしれない。

だが恐ろしいことに、この会話で成立してしまうのだ。


「今日何か食べたい?」


「お、おう……」

これは考えているである。


「ゴミ出しした?」


「おう」

これはたぶんした。


「お風呂入った?」


「……おう」

これは入ってない。

長年連れ添った結果、私は妖怪語を理解できるようになっていた。

最近では背中を見るだけで感情までわかる。

ソファーに対して斜め四十五度なら機嫌が良い。

完全横向きなら眠い。

体育座りしている時は腹を壊している。

もはや野生動物の観察に近い。


結婚三十年。


甘い言葉は無い。

変わりに、新言語で会話可能になっている。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ