観測者
「面白いね、セラって」
その言葉が、やけに残る。軽いはずなのに、どこか引っかかる。
「本当に面白い」
違う。今のは…クラリスじゃない。
「……え?」
思わず声が漏れる。クラリスがきょとんとする。
「なに?」
何も気づいていない顔。でも確かに聞こえた。もう一つの声が。
「………聞こえたか」
今度ははっきりと。低く、静かな声。確かに聞こえたのに、どこから聞こえているのかわからない。空間そのものから滲み出るみたいに。空気が重く、静かに沈む。クラリスの笑顔が、ぴたりと止まった。
「…あれ?」
小さく呟く。さっきまでの軽さが消えている。ヴェラの視線が、一瞬で鋭くなる。
「…出てきたか」
低く吐き捨てた。その一言で理解する。これが……
「そう警戒するな。ヴェラもな」
声が落ちる。すぐ近くで。でも、そこには誰もいない。
「興味が湧いただけだ」
ゆっくりと空間が歪みだす。そこに、何かが形を持ち始める。人の輪郭。
「ノクス」
クラリスが小さく呟く。その声には、わずかな緊張が混じっていた。今までとは違う。明確な上下がある声。
「呼んでないですよ?」
軽く言っているが、いつもの調子じゃない。探るような声。
「呼ばれてないから来た」
静かに答える。意味の分からない理屈。けれど、否定できない圧がある。
「悪趣味」
ヴェラが吐き捨てる。隠す気もなく、敵意すら混ざっている。
「お前の遊びに付き合う気はない」
ほんの一瞬、空気が止まる。
「遊び、か」
ノクスがわずかに笑う。
「なら、そういうことにしておこう」
興味なさげに流す。怒りも否定もなく、ただ、どうでもいいと切り捨てるように。
その視線が、こちらへ向く。逃げ場がない。
「…なるほど」
観察するような声。ゆっくりと、値踏みするみたいに。
「これは、確かに…空白だ」
ノクスが一歩近づく。異様なほど強い圧に体が強張る。
「だが」
わずかに間をおいて続ける。
「完成に最も近い」
意味が分からない。けれど、理解してはいけない気がした。
「…もうやめな」
ヴェラの声が低く、鋭く響く。
「セラに触れるな」
明確な拒絶。けれど、ノクスは気にしない。まるでそこにいるヴェラの存在を認識していないかのように。
「セラ…といったか」
名前を呼ばれただけで、息が詰まる。
「…いい」
短く言う。評価するように、決めるように。
「使える」
その一言で、すべてが決まった気がした。
何かが、取り返しのつかない方向へ動き出す。
「…気に入った」
静かに言う。
これは、選ばれたんじゃない。捕まった。




