支配
「ちょっとまってよ」
クラリスが笑う。いつもの調子に戻ったみたいに。でも、ほんの少しだけ声が硬い。
「勝手に決めることないんじゃない?」
「それ、クラリスが見つけたんだからな」
2人はわざとらしく肩をすくめる。その奥にわずかな苛立ちが滲む。
「所有権の主張か?」
ノクスの声が落ちる。静かで、冷酷。
「違うよ~」
クラリスがくすくすと笑う。
「ただの順番。先に見つけたのはアタシってだけ」
その言い方は、まるで物でも扱うみたいだった。
「…ならいい」
あっさりと返される。迷いもなく。
「最終的な所有は私にある」
絶対的な前提。覆せない何か。クラリスが一瞬だけ黙る。笑顔のまま。
「…チッ」
静かな空間に舌打ちが響く。ヴェラだった。
「だから嫌いなんだよ」
敵意も隠さずに吐き捨てる。
「全部自分のものだと思ってやがる」
鋭い視線が向けられる。けれど、ノクスは気にしない。
「事実だからな」
淡々と。否定の余地すら与えない。その視線が再びこちらへ向く。
「セラ。こちらへ」
命令だった。拒否もできない。足が勝手に動く。止めようとしても止められない。
「…触るなっつってんだろ」
ヴェラの声が割り込む。明確な警戒。
「壊れる前に終われよ」
忠告だった。怒りではない、本気の忠告。
「壊れる程度なら、価値はない」
ノクスは即答する。価値。それで測られている。存在として。
「…安心しろ。別に壊す気はない」
優しさのような響き。でも、中身は空だった。
一歩近づく。距離がゼロになる。
「完成させるだけだ」
次の瞬間、ほんのわずかに指先が触れる。それだけで、世界が歪む。音が消える。視界が揺れる。内側に何かが流れ込む。強制的に。歓喜、怒り、悲しみ、恐怖、名前のつかない何か。全部が一気に混ざる。それでも…壊れない。
「……やはり」
ノクスの声に、わずかに満足感が混ざる。
「適応するか」
その瞬間、全てを見透かされた気がした。
「これは使える。今日から君は、私のものだ」
抗えない声で言い渡される。はっきりと。
世界がそれを肯定するように静まり返る。何も言えない。何もできない。
逆らえないものに触れてしまったと、遅れて理解した。




