配役
「まあまあ!」
割り込むように、少女が一歩前に出た。
「そんな怖い顔しないでよ~」
くすくすと笑う。けれどその笑顔は、どこか不自然だった。
もう一人の方は、小さくため息を漏らしながら、興味が無いように視線を逸らす。
けれど完全に外れたわけではない。こちらを警戒するように見ている。
「とりあえずさ!…自己紹介!しよっか」
少女が手を叩き、軽やかな音を響かせながらくるりと回る。
「アタシはクラリス!」
胸を張って名乗る。その笑顔は、やっぱり完璧だった。
「このサーカスの歓喜担当!みんなを笑顔にするのが仕事なの!」
その言葉に、観客席の光景がよぎる。誰も笑っていなかった。それでも、笑顔にすると言い切る。そのズレが妙に引っかかった。
「で!」
クラリスが隣を指さす。
「こっちは……」
「ヴェラ」
遮るように、低い声が響く。
「…怒り」
付け足すように言う。感情の乗らない声で。その一言だけで空気が重くなる。
「真逆でしょ!」
クラリスが笑う。本当に楽しそうに。
「でもそれがいいんだ!」
軽やかに言って、こちらを見る。
「じゃあ次は君!」
逃げ場はない。
「名前は?」
「……セラ」
「セラ!」
クラリスが嬉しそうに繰り返す。無邪気に笑って。
「配役は…できないじゃんね」
困ったように笑う。その声は少しだけ、楽しそうだった。
「…で、それってさあ」
指先でチケットを叩く。トントン、と規則的に。
「ここにいられないってことなんだけど」
さらりと言う。まるでどうでもいいことのように言う姿に背筋が冷える。
「排除すればいい」
ヴェラの迷いのない一言に空気が凍る。
「え~?それじゃつまんないじゃん」
クラリスが不満そうに声を上げる。でもその口元は、少しだけ楽しそうに歪んでいた。
「せっかくの空白なんだよ?」
一歩近づく。
「何にでもなれるってことかもしれないじゃない?」
囁くように言う。その目は笑っていなかった。
「……」
ヴェラは何も言わないが、明らかに納得していないようだった。
「…チケット持ってるなら」
気づけば口が動いていた。
「それを用意した人がいるんじゃないの?」
一瞬の沈黙のあとクラリスの表情がぱっと明るくなる。
「それいい!確かに、あの人ならわかるかも!」
「やめな」
低い声が割り込む。
「あれは…関わるな」
ヴェラは何かを言いかけて、吐き捨てるように言った。それだけで十分だった。
ここにいる誰よりも『あの人』が危険だと理解するには。
「まあいいや!」
クラリスはさっきまでと同じ明るい顔に戻ってくるりと回る。軽やかに、楽しそうに。
「壊れるかどうか、見てみよっか!」
……壊れる?何が。誰が。答えは、聞かなくてもわかる気がした。




