異端
「えっと…それって」
何を意味しているのか聞こうとした、その瞬間だった。奥のほうから乾いた音が響いた。
—コツ。
規則的で、迷いのない靴音。
「……あ」
少女が小さく声を漏らす。その視線の先、暗がりの奥から誰かがこちらへと歩いてくる。コツ、コツ、と近づくにつれて、空気が張り詰めていく。
やがて姿が見えた。その人は、少女の隣でようやく足を止めた。
「お前、何してんの」
問いかけているのに、答えを期待していないような響き。少女は少しだけ笑顔を強める。
「新入りみたい!チケットも持ってるし、こっち側!」
そう言って、手元の紙を軽く振る。
その瞬間、鋭い視線がこちらに向いた。見られている、というより…測られている。
「…それで」
ゆっくりと、こちらへ一歩近づく。
「何の役?」
答えられるはずがない。知らない。
「……分からない」
絞り出すように言う。
「は?」
明らかないら立ちが混じる。少女が慌てたように口を挟む。
「あのね、書いてないの!」
くすくすと笑いながら、でもどこか焦ったように。
「演目がないの!初めて見た!」
その言葉に、もう一人の視線がチケットへわずかに動く。
「……ありえない」
その声は低く、はっきりと拒絶の色を帯びていた。
「役割のないやつが、ここに立ってる?…おかしいでしょ」
少女が楽しそうに笑う。
「ね?面白いよね!」
同意を求める声。けれど、返ってきたのは沈黙だった。
もう一人は、何も言わず、こちらをまっすぐに睨んでいた。
その視線の意味を、理解したくなかった。でも、理解してしまう。
ここにいること自体が、普通じゃない。そして、普通じゃないものがどう扱われるのか。
その答えを、まだ知らないはずなのに、知っている気がした。




