空白
「こっちだよ!」
舞台脇にある幕をくぐると、さっきまでの明るい舞台が嘘みたいに、薄暗い通路が続いていた。少女は迷いなく進んでいく。足音がやけに響く。
「舞台裏、思ったより広いでしょ?」
振り返った少女は、相変わらず明るく笑っている。でも、その声はさっきより少しだけ低く聞こえた。
「えっと…舞台裏…?」
少女に問われてようやく気付く。通路はどこまでも続いてるように見える。テントの大きさとは明らかに合ってない。
「…広すぎる」
思わず呟くと、少女は嬉しそうに、より一層笑顔で頷いた。
「うん!いっぱい使うからね!」
何に、と聞こうとした瞬間、奥のほうから、かすかに音が聞こえた。何かが擦れるような音。それから、押し殺したような声。
「気にしなくていいよ!」
すぐに少女が言う。明るい声で、少し、早口に。
「みんな準備中なんだ」
少しトーンの低い声で言う少女に、何も聞く気にはならなかった。重くなった空気の中、少女がふと立ち止まり、くるりと回りこちらを向く。
「チケット、見せて?」
その言葉に小さく心臓が跳ねる。理由は分からないが、見せてはいけない気がした。でも、拒むことはできなかった。チケットをゆっくりと差し出すと、少女はそれを受け取って、何の躊躇もなく裏返した。
「…あれ?」
ほんの一瞬、笑顔が歪んだ。すぐに笑顔は戻る。でも確かに空気が変わっていた。
「おかしいなあ…役割がないなんて」
役割。その言葉に、背筋がわずかに冷えるのを感じた。




