幕間~フレア師匠の楽しい講義の時間①~
これは、ダグがフレアに弟子入りして、そう間もない頃の講義のお話。
ー講義「美について」ー
「師匠、これは魔法に必要ですか?」
僕はすっと手を上げて思わず聞いた。
大分マイルドに聞くことができたと思う。
「急に何言ってるんですか?」とか、言ってしまうところだった。
「馬鹿野郎!これは一般常識の講義だよ!
常識も知らない哀れな弟子に、魔法以外にも教えてやろうというウチの優しさがわからないってのか?」
「わあ、ありがとうございます。」
まだ弟子入り間もないけれど、これで「いや、別に教わらなくてもいい方面の内容だと思います。」なんて言えば、よくわからない理論でとても怒られるのがわかっていたので、静かに聞くことにした。
「よっし、それじゃあしっかり聞きなよ!」
師匠がしたり顔で話し始めた。
美の価値観というのは、時代背景によって変わっていくもの。
現代において、美とは「太陽」が基準になっている。
「太陽」を思わせるような容姿を持つ者ほど美しい。
例えば、太陽の光のような金髪、赤髪。
ツヤがあり、輝くような髪だとさらに美しい。
例えば、日焼けした肌やそばかす。
これは富や健康の象徴だ。
そう広くない雲の隙間。その中でも特に日当たりのよい、価値の高い土地に住んでいる証。
先天的に肌の色が濃い場合も、それは先祖が太陽に愛された土地にいたと考えられる。
また、瞳も太陽を想起させる金や赤の瞳が好まれるが、場合によっては青い瞳も美しいとされる。
基本的には青い瞳はどちらかというと夜のイメージとなり、美の対象にはならない。
しかし、金髪や赤髪、あるいは日焼けした肌の持ち主の場合は、「太陽と青空」を想起させ、非常に美しい存在として憧れの的になる。
リューネル村を治める貴族の娘、アイリスはまさに金髪碧眼に日焼けした肌とそばかすでそれはもう美女として、人気が高く……
「つまり、ウチの言いたいことがわかったか?」
自身の髪をさらりと遊ばせながら、師匠が問いかけた。
「アイリス様という美人がいるという話ですか?」
「お前の眼孔には一体何が入ってるんだ??」
心底訳がわからないという顔で師匠が聞いてきた。
僕の方が訳がわからない。
「今!目の前に、艶やかな赤髪の美女がいるだろうが!!」
「ああ、なるほど!」
師匠が急に大きく深呼吸をしていた。
「落ち着け……。まだこいつは10歳のガキだ。
何も知らねえ馬鹿だ。仕方がない。そう、ウチの魅力がよくわからないのも、ガキには仕方がない……。」
ぼそぼそと師匠がうつむきながら何かつぶやいているけれど、よく聞こえない。
よくわからないけれど、魔法や空についての講義の方が聞きたいし、もういいかな。
そう思っていたら、師匠が無表情で急に僕を見てきた。
「いいか、復唱だ。フレア師匠は超絶美女。はい。」
「え、急になんですか?」
「いいか、復唱だ。フレア師匠は超絶美女。はい。」
「いや、何を言って……。」
「いいか、復唱だ。フレア師匠は超絶美女。はい。」
「え、なんだか怖いです。」
「いいか、復唱だ。フレア師匠は超絶美女。はい。」
「ふ、フレア師匠は超絶美女。」
「もう一度復唱だ。フレア師匠は超絶美女。はい。」
「フレア師匠は超絶美女!フレア師匠は超絶美女!フレア師匠は超絶美女!」
その後のことは、よく覚えていない。
ただ、このときの間に僕は、初めて師匠にクッキーを分けてもらったんだと思う。
我に返った頃には、空の瓶が転がっていて、僕の口の中はなんだか甘かった。
この世界の貴族は日傘を差さない。
タンニングマシンが存在したら、多分限界まで入っている。




