表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/6

生きがいを得る


逃げなきゃ、逃げなきゃ、逃げなきゃ!!!


バチッと目が合った瞬間、頭が真っ白になった。



大きな口だ。僕なんて、パクッと一口だろう。

首も太い。スルスルとあの中を通っていけてしまう。

そうしてお腹の中に納められてしまえば、当然逃げられない。



魔法使いが竜の腹から抜け出す方法なんてあるわけない。

さほど鍛えられていない肉体で、あの硬い鱗に覆われた竜の身体を破れるわけがない。

竜の身体から出ることができるような魔法も、開発されていないはずだ。


そもそも、こんなの、一度も咀嚼されずに飲み込んでもらえればの話で……。




こんなことをうだうだと考えている暇があれば、せめてホウキの向きを変えて逃げるべきだ。

そんなのわかってるよ!!


それなのに実際は、身体がちっとも動かない。

口の中もカラカラで、何もできやしない。




そんな中、突然身体がぐらんと揺れて、地面に落ちていった。





「い、痛たたた……。」

情けない声がようやく出た。


動揺で飛行魔法の制御がうまくできなくなってしまったのだ。

幸い、すでにかなり高度を落としていたため、たいした怪我をせずに済んだ。


「あっ!ドラゴン!!」

緊張が途切れ、声が出るようになっていた。



あの緑色のドラゴンがいた方を見る。

いまだこちらの方を見ていたドラゴンだったが、ようやくゆっくり動き始めた。

こちらから目線を外し、身体の向きを変えている。

ゆっくりと翼が動き、角が光りだす。



「……飛んでいった。」

あの巨体が見えなくなるまで、僕はずっとそちらを見続けていた。








「い、生きてる……。」

バクバクとしている心臓を確かめるように、思わず胸を押さえた。

ドラゴンを見た瞬間、あまりに圧倒的で本能的に死を感じさせられた。

頭は真っ白になって、何も考えられなかった。



「ドラゴン、ドラゴン……、確か、世界の管理者だっけ?」

ようやく頭が動き始めて、そういえば師匠からドラゴンについても少し教わったと思い出した。




ドラゴンは、世界の管理者と呼ばれているらしい。

雲にこそ行かないものの、特に強い魔物がいる地域を中心に縄張りを持っていて、強い魔物をやっつけてくれるそうだ。


世界がこれ以上、魔物に支配されないようにしている存在。

そこで、僕たち人間は世界の管理者として、ドラゴンをありがたがっている……。


といった、話を聞いた気がする。


とすると、あのドラゴンは別に僕のことを食べようだとか、これっぽっちも思っていなかったのかもしれない。


縄張りに何か侵入してきたのを感知して、それが強い魔物でないか確かめていただけだったのかも。

真相はわからないけれど、ひとまずそういうことで納得して、あたりを見回した。



村なんてものは見当たらない。

それどころか、人間が使った形跡のある道も見当たらなかった。

せめて川はないかと見回すけれど、それもない。

遠くに、池か湖みたいなものがみえる気がするくらいだ。


「いよいよまずいぞ。」

ドラゴンのことは片付いて、ちょっと落ち着いた気になっていたけれど状況はちっとも良くなっていないじゃないか。



人間が使った形跡のある道をたどれば、どこかの村にたどり着いたかもしれない。

せめて川があれば、川をたどるうちに人間のなにかしらの痕跡も見つかったかも。


しかし、どちらもなく、どの方角に行けばいいのか、何もわからないままだった。


「ひとまず、あの池に行こうかな?」

ドラゴンと会ったときの緊張で、口の中はカラカラだ。

水が飲みたい。


けれど、水飲み場として魔物が使っていたら危ないかも。

そもそも、魔物は水を飲むのかな。


しばらく悩んでいたけれど、何もしないでいて状況が良くなるわけがない。

池の方に行ってみることに決めた。





ホウキをずるずると引きずりながら、池に向かって歩いて行く。

こんな扱い方をしたのがばれたら、師匠は怒るかな。


でも、師匠は今、近くにいない。

師匠は今、僕に説教のしようがない。



「そっか、今日は説教無しなんだ……。」

お使いの出発前に言った言葉。きっと何時間もたっていないだろうに、まるで懐かしく感じられて思い出す。


お使いから帰って来れたら、説教は無しだって師匠は約束してくれた。

なら、お使いから帰ってこれなかったら?

遠くにいる僕に、師匠は説教なんてできない。




ようやく、「帰って説教されたら嫌だ。」という僕に、師匠が頭を抱えていた理由がわかった気がする。





「僕、このままだと説教されることもできないんだ。」


「僕、このままひと、ひ、ひとり」


「う、うわああああぁぁぁん、う、うああ、うっ、うっ」


口はカラカラなのに、目からは涙が出る。

喉が痛い。

足が動かない、歩きたくない。



何で師匠の言うとおりにしなかったんだろう。

そうだ、いつもの道をいつも通り行けば良かったんだ。

僕はもう12歳なのに。

もう修行をはじめて3年目なのに。

飛行魔法と防御魔法はちゃんと使えるし、いつもの道を行くだけだから、師匠は僕に初めてのお使いをさせてくれたはずなのに。

初めて一人で魔物に会ったときは慌てちゃったけれど、その後はうまく対処できていたのに。

何が、「雲の上の方が魔物がいなくて安全」だ。誰が、そういった。そうだよ、僕だよ!

きちんと師匠は僕に、「雲の上は、景色が変わらないから危ない」って何度も教えてくれていたのに。


お使いで買ったケーキは多分もうぐちゃぐちゃだ。クッキーも割れている。

これを置いていったら、いよいよ自分が何でこんなことをしているのかわからなくなってしまう気がして、ケーキ箱とクッキーの瓶を強く握る。

お店は甘い香りがして、あんなにおいしそうだったのに。

食料は貴重だし、捨てないさ。けれど、もうこんなにおいしくなさそうだ。

菓子は高くて、みんなで分け合って一つを食べるのに。

僕がこうしたんだ。


上を見上げれば、雲がある。

僕がさっき降りてきた雲の隙間はとても小さかった。

しばらく歩いた今では、もう頭上には雲だ。

今魔物が落ちてきたらどうしよう。


ここ、ドラゴンがいたよね?

ドラゴンは強い魔物がいる地域を中心に縄張りを作るんだよね?

ということは、ここ、強い魔物がいるかもしれないの?

いや、そんなの見当たらない。きっとドラゴンが退治してくれたんだ。大丈夫だ。





「ちっとも大丈夫じゃないよ!!僕は、僕はどこに行けばいいんだよ!!」

トントン、と肩をたたかれた。


「誰!?」

こんなところに人がいるはずがない。

人がいたんだ!

おかしい。

師匠のところに帰ることができるかも!


僕はどんな顔をしていたんだろう。


とっさに後ろを振り向くと、女の子がいた。




「ま、魔女?」

僕とそう身長は変わらないように見える。

それなら魔女見習いかもしれない。

けれど、こんなところに魔女見習いが一人で来るとは思えない。

それなら魔女だろうか。


色々考えながら、全身を見る。

ボサボサの長い髪。魔女の帽子はかぶっていない。

可愛い顔なんだろうな。瞳も髪で隠れちゃっているけれど、よく焼いたパンみたいな肌の色がとってもきれいだ。

首元にも何もない。

服もない。ん、?服も?


「ぎゃあ、は、裸!?」

女の子は何も着ていなかった。


「大丈夫?」

問いかけるけれど、女の子はずっと無表情で何も言わない。

何で裸なんだろう。

服だけ奪う魔物とか、そういう変なやつがいたのかな。


とにもかくにも視界が落ち着かない。


外套を脱いで女の子にかぶせた。

ホウキで空を飛ぶとちょっと寒いけれど仕方がない。

絶対この女の子の方が寒いと思う。


女の子はただ外套をかぶせられるだけで、腕を通すことなければ、捨てもしなかった。


こんな状態で、この女の子はどうやってここに来たんだろう。

それともずっとこのあたりにいた?


「どうやってここに来たの?ここがどこかわかる?」

もしかしたら僕が帰るヒントにもなるかも、と期待を込めて聞いてみたけれど、やっぱり女の子は何も言わなかった。



ふと、女の子の表情が少し変わった。

さっきより、ちょっとソワソワしている気がする。

頭の向きからして、ケーキ箱を見ている気がした。


箱を動かしてみる。

頭も動いている。


「ん?ケーキ?」


「け、き?」

女の子が、初めてしゃべった。


しゃべった!何か聞けないかな?この女の子がいなくなったらまた僕はひとりぼっちだ。

何か聞きたい。今の僕には唯一の希望だ。


「そう、ケーキ!菓子屋で買ったんだ!

君はケーキを買ったことある?菓子屋は?リューネル村は知ってる?

僕、リューネル村に帰りたいんだ!

菓子屋からそう遠くないところで、このケーキ箱を見たことあったら、その菓子屋までの方角でもいいから知りたくて!何かしらない?」

矢継ぎ早に聞くと、女の子が眉間にしわを寄せていた。


「ごめん、うるさかったかな?けれど……。」

女の子は何も言わず、ケーキ箱に手をのばしていた。そして、ケーキ箱を持つ僕の手にも腕をのばしている。


「な、なに?」

女の子は何も言わない。僕へと手を伸ばす女の子の身体が少しずつ近づいてきて、ボサボサの髪の間から、女の子の瞳と耳が見えた。


瞳が黒い。白目がない。


耳が長い、とんがってる。



この女の子は、人間じゃない。魔物だ。



そう理解したとき、ちょうど女の子はケーキ箱と僕の腕に触れた。



その瞬間、僕の視界は真っ暗になった。









――――――――


荒野には、女の子の形の魔物と外套、そしてケーキ箱だけが残っていた。

甘い香りがするケーキ箱。

箱をひきちぎると、ぐちゃぐちゃのケーキが一つ入っていた。


「け、き。」

ケーキを手でつかむ。

いい香りに思わず、好奇心で、口に運んでみた。


「け、き。け、き。」

身体がふわふわする。



雲から落ちて、ただ生きるために荒野をさまよってきた。

あの恐ろしいドラゴンが来て、身を隠していた。

ようやくドラゴンが去ったと思ったら、大きな音がして、近寄ると甘い香りがした。


甘い香りのことを「けき」と言っていた。


魔物に「けき」はいらない。

けれど、「けき」を口にしたときの、ふわふわした感覚が忘れられない。


「け、き。んん……、け、け、けい。」


初めて、生きる以外にも何かしたいと思った。

「けき」がまたほしい。


無駄な体力を使わないために、ずっとこの荒野で身を潜めて過ごしていた。

けれど、それはもうやめだ。


「けき」のために、この荒野を離れることに決めた。






魔物はその地を離れ、人間のいるところを探し、冒険を始めた。

そんな魔物が、無垢で無知な少女と出会い、「ケイ」という名前をもらい、人と関わり始めるが……。


それはもっと未来の話。



ダグはもう少し、勉強したことの復習とかをした方がいい。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ