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薄暗くて分厚い雲の上には




これが空だ!青空だ!!

僕たちが見上げる、あの小さなちいさなそれとは違う!







言葉が出ない。

ただ、目に焼き付けることしかできない。


真っ青な空に白い綿みたいなものが浮かんでいる。


「あれが、本物のくも……。」





雲には2種類あると、以前師匠に教わった。


僕たちが普段見る、薄暗くて分厚い雲。

そしてもう一つが、その薄暗い雲の上にある”本物のくも”。


近くにある"本物のくも"に向かってホウキを進める。

触ることができない。

近づくほど、くもの実体をきちんと見ることすら難しくなった。

まるで霧みたいだ。




僕たちの頭上にいつもある雲は触ることができて、その上に立つこともできるらしい。

だから魔物たちも雲の中に生息できる。

しかし、あまり丈夫な素材ではないのか、雲の床や壁はしばしば壊れるそうだ。

その壊れた穴から不運にも落ちた魔物が、地上にいる奴らだ。



雲から落ちた直後は衝撃で弱っているため、早期の討伐が推奨されているが、当然、その後に生き延びて回復した奴らも地上を歩いているため、注意しなければならない。






「でも、僕は今、魔物も何もいない、雲の上にいるんだ。」

本物のくもは僕の頭上にもたくさんある。色んな高さに、色んな形のくもが自由に浮かび、動いていた。


「くもが流れている……?うおっとっと。」

風が吹く方向に、くももまた進んでいた。


あのくもだけだったなら、僕たちは息苦しい気分になることなんてなかっただろう。


一定の高さに存在する魔物が生息する雲は、ホウキで通過することはできない。

魔物がいて危ないから、というのもあるけれど、そもそも触ることができる物体なのだから、それを突っ切るなんて、壁の通り抜けでもしようとするのと同じことだ。

そして、その場から動くこともなく、僕たちの頭上にずっと居続ける。



しかし、あのくもは動いている。

もし、僕たちを脅かす雲も動いてどこかに行ってくれたら、そうすればきっと僕たちはもっと自由だったのに。


「まあ、雲の隙間の方が少ないんだ。

雲が下手に動く方が、僕たちは暮らすこともできなかっただろうけど。」

僕たちは青空の下でだけ、光を浴びて作物を育てて、雨が降り落ち、水を飲むことができ、魔物の落下におびえず過ごすことができる。


そんな安全地帯が風のように気ままに動き続ける方が困っただろう。


「いけない。ずいぶん時間がたったかな。あんまり遅いと、やっぱり説教されるかも。」

今日は帰ってきたら説教しない約束だったけれど、ただでさえお使いの品と少し違うものを買ってしまっているし、やっぱり前言撤回なんてされてはたまらない。



「このまま雲の上を行っちゃって、リューネル村の雲の隙間から降りれば問題ないよね?」

その方が魔物にだって確実に合わなくてすむし、来たときとちょっと高さが違うだけで、同じ道を通るんだから大丈夫なはずだ。


そう言い聞かせて、方角を定めてまっすぐホウキを進め始めた。

いままで飛んだときよりもさらに風が強い。

きちんと、制御してまっすぐ飛ばないといけない。


けれど、それだって魔法制御力を鍛えるいい訓練になるはずだ。



せっかくのこんな青空の中でホウキを飛ばないなんて、そんなこと考えられなかった。










「そろそろ、30分くらいたった気がするんだけれど……。」


しばらくの間は青空の中に興奮して、時間を忘れて飛んでしまったけれど、似た景色に次第に落ち着いてみれば、そろそろ30分たった気がしてきた。



「実はまだそんなに時間がたっていなかったのかな……。」

方角を間違えたなんて考えられない。

考えたくない。


何か嫌な汗が背中を伝った気がするけれど、勘違いだと言い聞かせる。



とりあえず、雲の隙間を見つけたら降りよう。

雲の隙間の下には村があるはず。

たぶんリューネル村だと思うけれど、万が一間違っても、村の人にリューネル村の方角を聞けばいい。



村人はほとんど村を出ないから、リューネル村はわからないかもしれないけれど、魔法使いか魔女がいれば、彼らならきっとわかるはずだ。


まだ、大丈夫。胸がバクバクいっているのがわかる。




言い聞かせていると、本当に大丈夫な気がしてきた。

リリカさんが歌っていた鼻歌もまねしてみる。


うん、きっと大丈夫。深呼吸した。ちょっと落ち着いた気がする。








そう、僕は大丈夫なんだ。

ほら、雲の隙間が見えた。今の僕の顔を師匠に見られていたら、ぎゃはぎゃはと笑われるかも。

それでもかまわない。


だってほら、そらみろ、僕の冒険は失敗なんかじゃなかった。


高度を下げる。

この下には、村があるんだ。あとはそれがリューネル村か確認すればいいだけだ。











村なんてものはなかった。











あったのは、荒野と、ドラゴン。


苔みたいな緑色の身体で、僕が住むボロボロの小屋の何倍も大きいドラゴン。


僕と、目線が、合った。



隣村からリューネル村に向けての正しい方角は進んでいた。

ただ、青空に夢中になって、色々移動していたのに、その分の方角調整を考慮していなかっただけ。

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