みなとみらい
橙に金が混じったきれいな夕焼けを、日本丸の白いマストが跳ね返している。
少し時間があったので、近くの売店でチョコレートをひとつ買った。
「おーい」
サバチョコレートを持って川沿いで待っていると、気の抜けた声がした。
二、三人乗りのエメラルドグリーンの小さな船から、サバオが顔を出している。船は器用に旋回し、俺の前の小さな桟橋でエンジンを停めた。
「これに乗れ。運転は知り合いの船霊神にお願いした」
「わかった。そのまえにお前にこれやるよ」
さっき売店で買ったチョコレートを渡す。案の定、サバオはすぐに飛びついた。
「おお、気が利く......ペッペッ!なんじゃこれは!?」
俺が渡したハイカカオチョコレートのあまりの苦さに、サバオがもだえた。いい気味だ。地下すべり台で死ぬ思いをしたのに、これだけ済ませてやったことを感謝して欲しい。
「わしはサバの次に、苦いチョコレートが嫌いなんじゃ!」
「知ってるよ。今度からお前にいらいらしたら、毎回それでひっかけてやる」
サバオのじっとりした視線を無視して、小船に乗り込む。
運転席には、五、六歳ほどの仏頂面をした、双子らしき女の子ふたりが座っている。船霊神とやららしい。
「船霊神は、この前弁財天の......」
「いやがらせから助けたんだろ。さっさと行こう」
船霊神が、ぴんと背筋を張った。船のエンジンを入れ、そして......
想像の十倍ほどのスピードで船を走らせ始めた。バランスを崩して船のなかでもんどり打つ。
「おい、速すぎないか!?」
船のへりにしがみつきながら、サバオに叫ぶ。
「船霊神に法律はない」
「俺にはあるんだよ!あと法律とかじゃなくて普通に怖い!」
「神とは本来怖いものじゃ。さっきのチョコレートの仕返しともいえよう」
ゆったり観光を楽しむ屋台船を押しのけながら、轟音とともにボートが川から海へと向かっていく。
川にかかった橋をいくつもくぐる。もっとも海に近い女神橋をぬけると、船が急に左へ舵を切った。
「うおおおお」
外にふられないよう、必死でへりにしがみつく。体に横向きの重力がかかる。
大きな波柱を立てて、船が止まった。
船が着いたのは、みなとみらいの桟橋だった。
海の上に浮かんだ巨大な木の板。そのうえに、真ん中から塔が突き出た洋館が建てられている。
「ここで降りるぞ」
「海に行くんじゃなかったのか!?」
「この船に乗ったのは、船霊神に海神が帰ってきているか確認してもらうためじゃ。用は済んだ」
確認なんていつしたんだ? 心当たりはなかったが、言われるがままサバチョコレートを船からおろす。
船霊神も、船からおりた。一緒について来るらしい。
「さて、参ろうか」
「どこ行くんだよ。このへん高級ホテルしかないぞ」
「そこに行くんじゃ」
そこってどこだ? サバオが、夕焼けの空を指さした。
「グランド・インターコンチネンタル・ホテルの最上階、ロイヤルスイートへと向かう」




