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夕暮れ 2

「おい、一緒に馬車道に取りに行くぞ。量も多いし」


「えー」


「えーじゃねえよ。状況わかってんのか?」


「わしは海に行く準備があるんじゃ。日本丸まで持ってこれるか?」




日本丸とは、馬車道から川をはさんで向かいにある横浜のシンボルともいえる帆船だ。


なかは博物館になっていて、風になびく白い帆を、間近で見ることができる。




「ぬしはサバチョコレートを取ってきて、日本丸あたりの川沿いにおれ。わしが後からむかえに行く」


「わかったよ。タクシーが一番早いから......」


「わしのトンネルで行けばよかろう。逆はともかく、神社から馬車道へ行くのは早いぞ」




サバオが社の真ん中の床板をはずした。ひとひとりが通れるぐらいの穴がある。




が、それはトンネルではなく「穴」だった。


井戸のように垂直に、闇のなかへと伸びている。




「これどうやって降りるんだ?」


「行ってこーい!」




どんと背中を押された。穴のなかに体が踊る。


手足をじたばたさせる。なにもつかめず、ただ闇のなかに落ちていく。




「ばかやろう!」




俺、人間なんだぞ!? 落ちたら黄泉の国に行くんだぞ!?


すぐにドンと尻に強い衝撃があった。態勢を直すひまもなく、頭を下にしてすべり台のように体がすべっていく。




(神社から馬車道へ行くのは早い)




サバオの言葉を思い出す。


そういえば、神社は港を見下ろす丘の上。そして、馬車道はその丘の下にある。




つまり、ここから馬車道までずっと滑りおちるっていうことか!?




誰もいないのをいいことに、まっくらな地下の滑り台のなか、左右にふられながら叫び続けた。




数分後、突如ぽーんと宙に投げ出された。地面にはいつくばって、体のどこかが欠けていないかを確かめる。




大丈夫だった。肝を冷やした。




少し先にオレンジ色の光が見える。厨房の明かりだ。




「サバオ!お前まじで今度こそ絶対許さないからな!」




聞こえないとわかりつつ、後ろのすべり台にむかって怒鳴った。まだ恐怖で足がガクガクしている。




でも、無意味な死の淵をわたったことで、妙に心が落ち着いた。




舌を取り戻そう。


むりな努力は、もうやめよう。




深呼吸をした。あらかじめ準備しておいたサバチョコレートを、台車に載せる。




何十回もくぐり続けた扉から、ひとりの厨房をあとにする。

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