海沿いのテラス2
「彼女は、関係者が集まる取材の最終日、あなたに全員の前で新作をつくらせようと言ってます」
さすがに知らない話だった。俺にはその場で気軽にいった風だったが、裏でそんな話を進めていたのか。
「新作は、私が作ったのが四作、一新が二作。一品少なくても別にいいかと思っていたけど、せっかくだから最後の品をあなたに自力で作らせればアピールになると、彼女から提案を受けました」
やりたいと答えかけて、ふみとどまった。
取材の最終日は一ヶ月後。舌を取り戻すのも一ヶ月後。
いまの俺に、どちらも完璧にこなすなんてできるのか?
「私は小夜さんに反対なんです。他の二作だって私と共同だったのに、ひとりで作るのは一新の負担が強すぎる。それに最近、やせてばかりで顔色も悪いし。本当にちゃんと食べてます?」
「食べてますって」
「じゃあこれ。私の分も食べて」
テーブルの上のパスタを、先輩が俺の方に押す。
「いや、それは......」
「さっきから自分のだって手をつけてないし。食べないのならこの話はなかったことに」
「食べる、食べます!全部食べます」
「食べても、この話を進めるとは言ってません」
「ひどくないですか?」
「健康が第一です。食の仕事なんですから」
そこまで言われたら従うしかない。
目を光らせる先輩の前で、自分と先輩のパスタをいやいや食べる。おしゃれなカフェになんてしないで、サバのある定食屋とかにすればよかった。
「俺、これ全部食べるんで。その話やってもいいですか?」
パスタはまだ残り半分にすらなっていなかったが、先に話を取り付けたかった。
自信があるわけではない。むしろ、そんなものはほとんどない。
でも、ここで引けない。引いたら、絶対後悔する。
「全部食べたら聞きます」
「先見えてますよ。ほらこんなに」
「まだ半分以上残ってるでしょう!無駄口たたかないで、ちゃんと食べて」
「じゃあ、七星さんがやっていいって言ってくれたら残りを食べます」
先輩がひじをついてため息をついた。
「......言うようになったね」
「部下として、上司のやり方を学んだだけです」
「もう。わかりました。そこまで言うなら許可します」
っしゃ!内心でガッツポーズをする。
とりあえず、首の皮一枚はつながった。
「私は手伝えないけど大丈夫?」
「俺ひとりでがんばります」
先輩の声の調子が変わる。
「絶対、倒れたりはしないでください」
「大丈夫です」
先輩は明らかに不安そうだったが、諦めたのか、ため息をついた。
「じゃあヒントだけ。私と違って、会社の人は『清風亭のメニューを作れる人』ではなく『新しいお店の看板メニューを作れる人』を見に来ます」
「はい」
「一新、食べる人の気持ちになって。期待しています」




