海沿いのテラス
誘ったはいいものの、どう切り出すかは考えてなかった。小夜さんに煽られたことをそのまま伝えるつもりはないし、そもそも俺自身がどうしたいのかも決まっていない。
少し早めにランチ休憩をもらい、春の風が気持ちいい外のテラス席を取った。平日だから人はあまりおらず、一番いて欲しくない職場の人も誰もいない。
「お待たせしました」
先輩が向かいの席に腰かける。早く本題に入るべきだ。
でないと、この人はまた類まれな才能で話しかけにくい雰囲気を作ってしまう。
「小夜さんから聞きました。七星さん、店やめて独立するって本当です?」
「......いきなり聞くんですね」
「ゆっくり話しても一緒ですし」
「.......」
「なんですか?」
「いえ、随分私と気軽に話すようになったなと思って」
そうかもしれない。そうだとして、それはいいのか、悪いのか?
「だめです?」
「かまいません。さっきのコメントもありがとうございました」
顔に血がのぼるのを感じる。やっぱり今日じゃない方がよかったか?
「使いやすいシーンがあると、撮影が早く終わるので。ありがたいです」
「俺のコメント、本当に使われるんですか?」
「二ヶ月つきっきりで撮影されて、私もだんだんどこが切られて、どこが使われるのかわかってきました」
先輩の予想がはずれてくれるのを祈った。このままでは俺の恥が映像になって全国に届けられてしまう。
「独立の話ですが、考えているのは本当です。早ければ、この取材が終わったらすぐにでも」
想像以上に早い。あと一ヶ月後、ちょうど俺が海神に供えものをする頃だ。
「小夜さんが......」
店に誘ってくれたんですけど、と言いかけて違うなと思った。小夜さんのことは関係ない。
俺が、どうしたいかを言うべきだ。
「もしやめるなら、俺も連れてってもらえません?」
我ながら大胆な発言だった。が、言ってしまった以上はあとには引けない。
「俺、七星さんと働きたいです。もし清風亭を辞めて店やるなら、俺も一緒にやらせてください」
先輩がわずかに目を見開いた。すぐに表情を戻して、目を逸らす。
迷惑だったか?そりゃ迷惑か。驚かれたか?当たり前だ。
断られるか?わからない。
「......一緒にやる人を探しているのは本当だけど」
しばらく黙ってから、先輩が言った。
「小夜さんに聞いたんですね。あの人はこういう立ち回りがうまいから」
「はい。うますぎて怖かったです」
先輩がふっと笑った。一瞬だったが、安心感が急上昇する。
「小夜さんはずっと一新を推してるんですよ。ハコ推しだそうです」
「なんですかそれ」
「私とあなたの組み合わせが好きなんだそうです。私にはよくわからない」
はずれているかもしれない検討がぼんやりついたが、言わなかった。確かに先輩はそういうのはわからなさそうだ。
「実は他に検討をつけてる方がいて。あなたよりレベルも高いし、経験もあります」
「はい」
「ただ相性は......どうなんでしょうね」
俺の方がいいですよとはさすがに言えない。そこまでの自信はない。
ただ、先輩が俺と相性が悪いと思ってなさそうなことは、救いだ。
「小夜さんは、もうひとりの方をやめた方がいいと。本当に相性が悪そうなのか、彼女があなたのハコ推しだからかはわからないけど」
「七星さん、そういうの見抜くの苦手そうですもんね」
「ほっておいて。気にしてるから」
先輩がむくれた。かわいい、という先輩に対して持ったことがない感情がわく。
「もし一新にするなら、私だけでなく店のオーナーを説得する必要があります。小夜さんもそれはわかっていて。だから.....」
少し迷ってから、先輩が言った。




